- まえがき 特別支援教育になぜスキルが必要か? /平山 諭
- T章 ADHD児を理解し支援する基本スキル
- [1] ADHD児の特性を理解する
- ADHD の文部科学省の定義/ADHD の2つのタイプ/ADHD の原因/ADHD 児の力/教育でドーパミンを促す
- [2] 「リズム」を意識した基本スキル
- 平山氏の語るリズム/河田氏の語るリズム/リズムを意識した授業
- [3] 「動き」を意識した基本スキル
- 作業のスキル/全体を動かす技術/どのように全体を動かしていくのか/ADHD 傾向の子を初めて担任
- [4] 「見通し」を意識した基本スキル
- 見通しをもたせる/見通しをもたせるために行ったこと
- [5] 「変化」を意識した基本スキル
- あくびが出るのは変化のないサイン/手立て@突然聞く/手立てA接続詞を使う/「突然聞く」を追試する/「接続詞を使う」を追試する
- [6] 「刺激減少」を意識した基本スキル
- 刺激減少のスキルとは/不要な言葉を減らす/一時に一事/机上マネージメントを意識する/学級掲示は最小限にする
- U章 PDD児を理解し支援する基本スキル
- [1] PDD児の特性を理解する
- PDD とは/アスペルガー症候群(AS)の特性/高機能自閉症の特性
- [2] 「見つめる」を意識した基本スキル
- 支配欲を下げるために「見つめる」/腕にしがみついてきたA君/D表項目のすごさ
- [3] 「ほほ笑む」を意識した基本スキル
- PDD 児の障壁/ほほ笑むとなぜよいのか/「ほほ笑む」を意識した基本スキル
- [4] 「話しかける」を意識した基本スキル
- 人間関係が孤立しやすい子への話し方/やってはいけない話し方/共感を覚える話し方/向いている方向に寄り添う話し方/ちょっかいを出す子や抱きつく子
- [5] 「ほめる」を意識した基本スキル
- PDD 児が不快に感ずる場面を作らない/ほめることの大切さを意識する/ほめる場面をつくる/心地よさがキーワードである
- [6] 「さわる」を意識した基本スキル
- 相手を支配しようとせず,「引いてあげる」/相手を支配しようとした苦い体験/授業中,そっと手をそえる・頭をなでる/アスペルガー傾向の子には,常に優しく対応する
- V章 ピグマリオン効果を意識する学級スキル
- [1] 「気付かせる」対応術
- 女子とトラブルを起す/気付かせるために,教師が見本を示す/本人に験させて,気付かせる/徐々に変わっていったA
- [2] 「心地よい緊張」が子どもを変える
- 「安心」で作るセロトニン回路と「緊張」で作るドーパミン/「心地よい緊張」を与えるには
- [3] 大切なことは複数回繰り返す
- 基本は一時に一事/言葉を削り,その上で複数回繰り返す/デジカメで録画する
- [4] 注意するときの言葉がけはこうする
- 扁桃体を育てる/「お願い」をする/注意するときには
- [5] ビデオ審査を受けて学級が変わった1
- 対象児童/ビデオの内容/平山先生からのアドバイス/アドバイスを受けて取り組んだこと
- [6] ビデオ審査を受けて学級が変わった2
- 平山氏のアドバイスで学級が変わった!/こだわりの強いA児/ADHD 傾向のB児
- W章 無理なく自然に子どもを動かす授業スキル
- [1] 待たずにしかける
- 新任の先生のビデオを見た/「気を付け,礼」の授業開始/平山講座での学びを実践する/高機能自閉症のA君と
- [2] 板書指導の原則
- 板書は,授業の流れがわかるようにカラフルに!?/刺激減少のスキル/必要なものだけを見せる/板書はすばやく消す
- [3] 発問の大原則「指示・作業・確認」の3セット
- 授業行為を意識する/特別支援の視点を取り入れた発問・作業・確認
- [4] 「個」ではなく「全体」を動かす
- なぜ,落ちこぼれが生まれたのか!/落ちこぼれを生まないための「授業導入時の全体を動かすスキル」
- [5] 模擬授業を斬られて授業がこう変わった1
- 算数「わり算」の模擬授業/絵で答えを表す/平山教授の指摘/槇田氏・河田氏からの指摘/模擬授業をして変わったこと
- [6] 模擬授業を斬られて授業がこう変わった2
- 「話す・聞くスキル」の模擬授業/平山諭氏のコメント/槇田健氏より
- X章 教室のSOSへの対応スキル
- ◆ 平山氏が語る! 教室での対応術
- Q1 人の間違いが気になり,大声で叱責する子どもへの対応術
- Q2 自分が挙手したときに,当てられないとすねる子どもへの対応術
- Q3 衝動的な暴力を減らすための対応術
- Q4 抱きついてくる子どもへの対応術
- Q5 アスペルガーの児童,コミュニケーション能力を高めるステップ
- Q6 一度泣き出すと泣き止まない子どもへの対応術
- Q7 教室の前面掲示の是非について
- Q8 姿勢がすぐに悪くなる子どもへの対応術
- Y章 理解と技術を高める! 平山諭氏講座誌上再現!
- ◆ 平山諭氏講座,誌上再現!
- ADHD は抑制がきかない/ADHD を脳科学からみる/ドーパミンを促すための大前提/教育でドーパミンを促す技術/PDD とは……?/PDD(特にアスペルガー症候群,自閉性障害)の特徴/アスペルガー症候群の子の支配欲を下げるために/アスペルガー症候群の子の嫌いなこと/PDD を脳科学からみる/PDD の扁桃体をよく働かせるためには/PDD の扁桃体をよく働かせるための技術/ピグマリオン効果とは……?
- あとがき /河田 孝文
まえがき
特別支援教育になぜスキルが必要か?
平成19年4月より,特別支援教育が本格的にスタートした。これまで,特殊教育が対象としてきた知的障害,運動障害,感覚障害などをもつ子どもに加えて,ADHD,PDD,LD などの発達障害と呼ばれる子どもも対象となったのだ。画期的な制度改革である。
発達障害の子どもの多くは通常学級に在籍している。ほとんどの学級で,こうした子どもたちが学んでいる。すべての教師は,注意・集中力が弱い,落ち着きのない,衝動性のある ADHD(注意欠陥多動性障害),孤立しやすい,こだわりが強い,コミュニケーションがうまく取れない PDD(広汎性発達障害),読む,書く,計算する力が弱い LD(学習障害)の子どもたちに向き合わなくてはならない。
こうした症状は,脳の働きがうまく行かないのが原因だと考えられている。脳の機能障害があるとすれば,脳の機能改善が教育の狙いとなってくる。感覚障害などの心身障害を教育で改善することは難しいが,発達障害は,発達の問題だから教育のテーブルに引っ張り出すことができる。なぜなら,発達の促進は,元来,教育の根本的な課題だからだ。
私は,脳を改善する,育て直すことは可能だ,と主張している。脳の神経ネットワークを新たに作り出せばいいからだ。発達障害に対する教育は,脳の神経ネットワーク作りに他ならない。それは,新たにシナプス結合を増産し,そこにドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質を流すシステムを作り出すことである。
脳を発達させるのは,基本的には,食事,言葉,表情である。注意・集中力や多動・衝動あるいは不安除去にかかわるタンパク質や脂質があることは確かで,そうした栄養素を選んで食べることは大切なことであるが,授業場面では,教師の言葉や表情が脳の発達に影響を与える。例えば,ADHD の抑制を抑えるドーパミンや PDD の不安除去に効果のあるセロトニンは,いずれも快感を伴う興奮系神経伝達物資である。教師の言葉や表情で子どもの脳を心地よく興奮させることが,発達障害の改善につながると考えられる。
実際,筆者が主宰している環境対話キャンプは,3日間で ADHD 症状,AS(アスペルガー症候群)症状をほぼ改善する。キャンプ中,子どもたちは心地よい環境の中にいる。子どもと向き合うトレナーは,言葉と表情をトレーニングしている。心地よくなるスキルの使い手なのである。スキルは全部で21個だ。これらのスキルをサイコモーター,ソーシャルスキルアップトレーニングなどのプログラムの中で使う。親も,親会議などのプログラムでトレーニングされ,スキル使いの名手となる。
スキルは,狙って脳を改善するための言葉であり,表情である。例えば,指示や命令を嫌う AS の場合,「〜しなさい」より「〜して欲しいな」というピグマリオン効果が有効である。表情も意識的に作れる。目の上の眼輪筋という表情筋を使った方が目元に表情が出る。つまり,目を上に持ち上げると表情が豊かになるのだ。表情が豊かな教師は,発達障害の脳改善に極めて有効である。口元の笑顔も同様である。
『見つめる』『ほほ笑む』『話しかける』『ほめる』『さわる』は21のスキルの中でも基本スキルと呼ばれる。この5つを身に付けるだけでも,発達障害の子どもとうまく付き合うことができる。
ところが,スキルを身に付けていない教師は,子どもの対応する際,注意する,怒鳴る,無視するしか方法がない。簡単に言えば,して欲しくないことをしたら「やめなさい」,してほしいことをしなかったら「しなさい」と,ただ反対のことを言うしかないのである。子どもが従わなければ怒鳴り散らす。関係が悪くなれば無視する。発達障害の脳の改善は,ただ反対のことを言えばいいというものではない。怒鳴ったり,無視したりすればいいというものではない。脳の特性をよく知り,脳を改善するスキルがどうしても必要なのである。
スキルを持たない医師はいないし,スキルを持たないカウンセラーもいない。スキルがなければ,仕事にならないどころか,場合によっては,症状を悪化させてしまいかねない。だから,大学などで徹底的にトレーニングされるのであるし,学び続けるのである。
教師にスキルがなくていいのか? 否,それは許されない。授業は,怒って,怒鳴ってするものではない。なぜなら,子どもが不快に感じる授業を1年も続けたら,心は追い詰められ,発達障害症状の改善がうまくいかないばかりか,不登校などの二次的問題をわざわざ作り出しかねないからだ。
ADHD,PDD,LD に有効な授業スキルがあるのだ。私が提唱する授業スキルを学んだ有能な教師たちが,自らの授業実践と結びつけ,本書を纏め上げた。
T章は,ADHD 症状の原因が主に前頭葉にあるという視点で,前頭葉の機能を高めるスキルを5つ紹介する。
U章は,PDD 症状の原因が主に扁桃体にあるという視点で,扁桃体を育てるスキルを5つ紹介する。既述のように,この5つのスキルは,どの子どもにも使える基本スキルである。「善い―悪い」を教える前に,子どもに教師を好きになってほしいと思う。教師を好きになれば,善悪の判断に従えるようになる。
V章はピグマリオン効果である。ピグマリオン王は,彫刻が大好きで,ある時,一体の乙女像を作り上げる。この人形に息吹を吹き込んで欲しいと,愛と美の女神アフロディーテに熱くお願いをしたところ,夢がかなったというギリシャ神話に由来する期待効果のことである。「〜してくれたら,(先生)うれしいな」も,この効果を演出する1つのスキルである。
W章は,子どもを動かし,脳を活性化するスキルの紹介である。特に,個への配慮だけではなく,クラス全体を動かすスキルは,ADHD 傾向の子どもが複数いるクラスでは有効となる。
最後のX章は,Q&A方式で,教室で困る事例に対し,私の回答が紹介されている。
すべての教師に読んでほしい特別支援教育の実践の書である。子どもたちを幸せにするために……。
監修 /平山 諭
特に、平山諭先生のQ&Aは
とても参考になりました。
PDDの子に対して、
本書から学んだことをいかして
対応することができました。