- まえがき
- 第1章 特別支援教育を支える6つのキーワード
- §1 ICF(国際生活機能分類
- §2 共生社会
- §3 教育的ニーズ
- §4 教育的支援
- §5 地域社会
- §6 個人的・組織(体制)的専門性
- 第2章 特別支援教育の9つのポイント
- §1 「不登校」等の解消と「共生社会」の実現
- §2 訓練的方法から支援的方法へ
- §3 特殊教育からニーズに応じた特別支援教育へ
- §4 「個別の教育支援計画」の策定・実施・評価
- §5 「特別支援教育コーディネーター」の設置
- §6 「広域特別支援連携協議会」の設置
- §7 盲・聾・養護学校から特別支援学校へ
- §8 特殊学級から学校としての全体的・総合的な対応へ
- §9 体制的専門性の強化
- 第3章 発達支援の必要な子どもといかにかかわるか
- §1 目指す子ども像をいかに措定するか
- §2 教師の基本的な姿勢はいかにあるべきか
- §3 子どもの日常的な様子をいかに把握するか
- §4 子どもといかにかかわるか
- 第4章 風信『ピグマリオン』
- ■プロローグ
- §1 ラポートづくり《第1学期》(1990年度 4月〜7月)
- 1.先ずは自分の力で
- 2.支援の度合い
- 3.いかにかかわるか
- 4.和して而して同ぜず
- 5.ピグマリオンの恋
- 6.集中するということ
- 7.発問と最近接領域
- 8.同化作用と異化作用
- 9.健康第一
- 10.ホメ上手
- 11.思い込みからの裏切り
- 12.教え合う雰囲気
- 13.授業『月夜のしか』
- 14.集中力訓練
- 15.これからは博愛の時代
- 16.興味と訓練
- 17.詩の授業『海』
- 18.障害者の歯科医療
- 19.脱線授業
- 20.先生は若いほどいい
- 21.将来の夢を語ろう
- 22.教師はピエロ?
- 23.夢中になるということ
- 24.仕向ける
- 25.「ヒジ」と「シュメ」
- 26.「手」を使う教科
- 27.おそれとおののき
- 28.先生ごっこ
- 29.きもだめし
- 30.カレーづくりは創造
- 31.時間をかけてやればできる
- §2 Learning by doing《第2学期》(1990年度 9月〜12月)
- 32.Learning by doing
- 33.XY理論
- 34.指導要領改訂の背景
- 35.当事者の論理
- 36.闘争心
- 37.冗談の言える教師
- 38.「先生,ゼロ忘れたね」
- 39.カルチャーアニマル
- 40.譲り合い
- 41.傷心と思いやり
- 42.待合室の教育
- 43.持ち味
- 44.間接的指導法
- 45.文化祭
- 46.アドリブ
- 47.真の実践家
- 48.人間としての価値
- 49.生きた学習
- 50.五感を使う
- 51.国際福祉シンポジウム
- 52.同情から共感へ
- 53.創作 その1
- 54.創作 その2
- 55.創作 その3
- §3 あせらず,さがらず《第3学期》(1990年度 1月〜3月)
- 56.大事に大事に育てる
- 57.長い目で見守る
- 58.地球はひとつ
- 59.教育の自己否定
- 60.自ら居残り勉強
- 61.特訓の成果?
- 62.理科大好き
- 63.教師の立つ位置
- 64.ヒューマニズム
- 65.生命の尊さ
- 66.ぶつかり合い
- 67.ミーハー的視点の必要性
- 68.寺子屋教育
- 69.子どもたちに学ぶ
- 70.わかるということ
- 71.変わるということ
- 72.心の構造化
- 73.お掃除大好き
- 74.6年生を送る会
- 75.代田くんの死
- 76.オーエックス11
- 77.親の涙
- 78.あせらず,さがらず
- §4 コツコツと《第1学期》(1991年度 4月〜7月)
- 79.子どものペースに応じて
- 80.折り合いのつけ方
- 81.つまずきをバネとして
- 82.当番は身長順
- 83.スピーチの大切さ
- 84.手足が思い通りに…
- 85.人間味のある社会を
- 86.教材研究の大切さ
- 87.戦争を語りつぐ
- 88.死について学ぶ
- 89.誤解は理解の第一歩
- 90.ゆとりをもって
- 91.「観」を身につける
- 92.義務と権利
- 93.1学期の反省
- 94.よくやったね
- 95.コツコツと
- §5 連携を求めて《第2学期》(1991年度 9月〜12月)
- 96.異なる場所で異なる人と
- 97.2÷1/2=?
- 98.座席の選択
- 99.ありのままに
- 100.言葉の概念
- 101.事実に即した学習
- 102.サティヤグラハ
- 103.自由と孤独
- 104.事実と真実
- 105.スポーツマンシップから学ぶ
- 106.開かれた学校
- 107.運動会模様
- 108.パー・チョキ・グー
- 109.たまにはリフレッシュ
- 110.障害児教育は,今
- 111.「学校建築」の思想
- 112.信じるということ
- 113.汗水を流す喜び
- 114.本番に強い子どもたち
- 115.手術無事終了!
- 116.学歴熱心と経済熱心
- 117.点数より感性を
- 118.連携を求めて
- 119.百聞は一見にしかず
- §6 自分以外は皆師《第3学期》(1991年度 1月〜3月)
- 120.自分以外は皆師
- 121.ニーズに応じた養護学校
- 122.「障害児」という言葉
- 123.発想の転換を
- 124.座席の変遷
- 125.できる範囲で
- 126.「しゃべり合い」のすすめ
- 127.送別会
- 128.human beingの追求
- 129.全員集合!!
- 130.8年後を楽しみに
- ■エピローグ
- あとがき〜発達支援の必要な子どもたちの幸せを願って〜
- 参考文献・資料
まえがき
少子高齢化を迎えた21世紀の我が国が,障害のある人もない人も共に暮らす「共生社会」の実現を目指すとするならば,特別支援教育における「小社会としての学校」はそのモデルとならなければなりません。
しかし,効率性と機能集団を前提とした現実の学校や社会では,共に行動しないと見捨てられてしまう傾向にあります。自閉症の子どもなど,障害が重くなればなるほど横並びで一緒に進むことは極めて困難です。
昭和54年の養護学校教育の義務制実施以来,障害の重い子どもたちが多く在籍するようになったことは周知の通りです。文部科学省の調査によると,通常の学校にLD,ADHD,高機能自閉症等の子どもたちが6%程度在籍していることも明らかとなりました。
在籍する子どもたちの実態が量的にも質的にも変化し,子どものニーズもまた複雑化し多様化してきたのです。つまり,子どもの多様なニーズに応じるために,教育だけではなく,福祉的側面からのアプローチ,すなわち教育的支援が必要不可欠となりました。近代の公教育観の見直しが提起されたといえます。
その見直しの一環として,『発達障害者支援法の施行について』(平成17年4月1日付け){〈資料〉@(p.178参照)}が文部科学省及び厚生労働省の事務次官の連名で通知されました。この施行は,サラマンカ宣言やインクルージョンといった世界の動向を踏まえた画期的な出来事です。それは,学校教育と社会福祉の行政レベルにおける連携協力時代の新たな幕開けを意味します。
『発達障害のある児童生徒等への支援について(局長通知)』(平成17年4月1日付け){〈資料〉A(p.185参照)}では,「発達障害」を,基本的に,従来から,盲・聾・養護学校,特殊学級若しくは通級による指導の対象となっているもの,又は小学校等に在籍するLD等の児童生徒に対する支援体制整備の対象とされているものであること,と定義しています。タイトルを『発達支援の必要な子どもといかにかかわるか』としたのは,以上の定義に基づいています。
養護学校教育の義務制以来,ここ30年で学校に在籍する子どもたちの実態が大きく変化したという現実。子どもの実態の変化は必然的に従来の教育方法論の見直しを要求します。このように『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』における訓練的方法から支援的方法へという革命的提言には,それなりの理由があったのです。
本書は『発達支援の必要な子どもといかにかかわるか』という一種の教育方法論です。本書の趣旨は,発達障害のある子どもの可能性と幸福を実現するために,彼らをどのように理解し,彼らとどのようにかかわるか,私自身の実践に基づいた考え方と具体的な方法についてお話することにあります。
本書の主な目的を達成するために,支援的方法を常に念頭に置きながら,以下のように本書を構成しアプローチすることとしました。
第1章では,特別支援教育を支える6つのキーワード,すなわち@ICF(国際生活機能分類),A共生社会,B教育的ニーズ,C教育的支援,D地域社会,E個人的・組織(体制)的専門性について説明します。
第2章では,特別支援教育における9つのポイント,すなわち@「不登校」等の解消と「共生社会」の実現,A訓練的方法から支援的方法へ,B特殊教育からニーズに応じた特別支援教育へ,C「個別の教育支援計画」の策定・実施・評価,D「特別支援教育コーディネーター」の設置,E「広域特別支援連携協議会」の設置,F盲・聾・養護学校から特別支援学校へ,G特殊学級から学校としての全体的・総合的な対応へ,H体制的専門性の強化について,簡潔に述べます。
第3章では,発達支援の必要な子どもとかかわる際の4つの視座,すなわち@目指す子ども像をいか措定するか(ニーズに応じた支援による自立と社会参加を目指す,ICFの「健康な状態」を目指す),A教師の基本的な姿勢はいかにあるべきか(教育の本質をコミュニケーションと把握する,子どもから謙虚に学ぶ),B子どもの日常的な様子をいかに把握するか(健康・情緒・感覚・身体・コミュニケーション),C子どもといかにかかわるか(拠点としての人,基地としての場,受容とゆさぶり,5つの感覚への着目,5つの本能・原興味の開発)についてお話します。
第4章では,T養護学校での2年間,筆者がいかに子どもたちとかかわったのか,「風信『ピグマリオン』」を通して紹介します。学期ごとに「ラポートづくり」「Learning by doing」「あせらず,さがらず」「コツコツと」「連携を求めて」「自分以外は皆師」という見出しを付して展開します。対象児は,肢体に発達障害は認められるものの,時間をかけてじっくりかかわれば,その子なりの教科学習が積み重なっていくいわゆる軽度の子どもたちです。
「あとがき」では,大学入学から就職までの15年間の修養時代プラス現場経験17年間プラス大学でのデスクワーク10年間の総決算として,私のささやかな伝言を披瀝し本書を締めくくりたいと思っています。
本書は,入門書という形をとっています。「できる限りわかりやすく簡明に」をモットーに作成しました。初めて発達障害のある子どもたちとかかわる幼稚園・保育園,小・中学校,盲・聾・養護学校の先生方,保護者の方,学生,福祉・就労関係の方々に読んでいただければと思っています。
なお,本書を作成するにあたり,「感覚運動あそび研究会」の大中裕理さん,佐竹一実くん,林邦夫くん,町田茜さん,石丸奈弥さん,江口智子さん,角山恵梨さん,松山みはるさん,西田紀子さん,平松佳さん,日置優介くん,鈴木元美さん,中山雅代さん,並木千聡さん,東晃子さん,山森彩加さん,李芙美さんのご支援をいただきました。感謝です。
最後に,本書の企画・作成にあたり特別なご配慮をいただきました明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏に心より感謝申し上げます。
平成18年2月 著 者
-
- 明治図書
- 心温まる内容で、私も現場に活かしていきたいと思います。2009/10/14タクシ
- 胸を打たれました。多くの方々に読んでもらいたいです。(特にピグマリオン)2009/7/30英星