- まえがき
- T 三つの視点で子どもを救う
- 一 グレーゾーンの子を観る三つの視点
- 1 目からの情報処理
- 2 耳からの情報処理
- 3 社会性と自分のコントロール
- 二 三つの視点のものさし
- 1 目からの情報処理のものさし
- 2 耳からの情報処理のものさし
- 3 自分のコントロールのものさし
- 4 簡単なチェック表
- 三 ものさしを生かして指導を工夫する
- 1 目からの情報処理が苦手な子
- 2 耳からの情報処理が苦手な子
- 3 自分をコントロールすることが苦手な子
- U 教えることを優先して子どもを救う
- 一 教えることで育てる
- 1 ふわふわ言葉
- 2 おねがい言葉
- 3 かかわりかた
- 4 気になる行動への効果的な対応
- 二 教えたことをもとに考えさせる
- 1 国 語
- 2 社 会
- 3 算 数
- 4 理 科
- 5 総合的な学習の時間
- 6 読書指導〜調べ学習から読書へ〜
- 三 一斉指導の中で効果的に配慮する
- 1 過敏さに配慮
- 2 不注意に配慮
- 3 運動面に配慮
- 4 人間関係に配慮
- 5 読む・書くことに配慮
- 6 話す・聞くことに配慮
- 四 個別指導の工夫
- 1 苦手なことを克服させる
- 2 予習させて自信をもたせる
- 3 覚える力を伸ばす
- 4 目からの情報処理が苦手な子への指導
- 5 耳からの情報処理が苦手な子への指導
- 6 社会性が未熟な子への指導
- 五 特別な場で教える個別指導の教材
- 1 教材とその要素
- 2 教材について
- 六 チームで教える
- あとがき
まえがき
筆者は、前著『グレーゾーンの子も育つバリアフリーの学級づくり』で次のように述べた。
「この半年で、グレーゾーン(軽度発達障害)といわれる子どもたちへの理解と教育は前進した。各学校での取り組みも本格的になってきた。いわゆる『特別支援教育』の形ができてきつつあるのである。しかし、指導の基本となる学級担任の指導は、担任に任せられたままで、試行錯誤の連続である。そこで、日々、学級で奮闘している良心的な担任の参考になればという思いで、過去の経験を整理していく。」
あれから三年、個への効果的な指導の状況は、あまり変わっていないと思う。
たしかに、特別支援教育の考え方が広まり、特別支援教育コーディネーターが各学校に複数いるようになり、担任だけで子どもたちを支援するのではなく、チームで、組織で子どもたちに支援を行うようになった。
そして、発達障害児に対する指導の原理原則の考え方も広がり、個別の指導計画がほとんどの学校で作成されるようになり、個別の教育支援計画も作成されるようになった。
しかし、発達障害のある子一人一人を救う、効果的で具体的な個別の支援と指導は十分に行われているとは言えないと思うのである。
逆に、「グレーゾーンの子にはこのように対応すればいい」とか「特別支援教育は統率ができていれば安心」というような「慣れ」が、筆者も含めた教師各人に生じてきているようにも思える。
野村克也氏は次のように言う。
「慣れに埋没する恐ろしさは、経験したものでないと分からない」(「野村の流儀」ぴあ)
「慣れ」は恐ろしい。
筆者にも忙しさを理由に「慣れ」で安易に子どもたちに対応して、問題をこじらせてしまった失敗がある。このような失敗は、すぐには取り返せない。当初よりもはるかに膨大な時間を費やして、失敗する以前の状態に戻すのがやっとである。
「慣れ」を超えて、少しでも客観的で意図的な視点をもって、意図的な指導を効果的に行うことが今後の発達障害の子への対応として重要だと考える。
今こそ、個に応じた「グレーゾーンの子を救う効果的な方法」がもっと検討されるべきなのである。
そこで、本著では、これまで、広められてきた「学級づくりの原理原則」「一斉指導の原理原則」を踏まえたうえで、原理原則での一斉指導以外の個別の配慮や個別の指導で、効果的な方法を述べていくことにする。さらに、個別に配慮した指導を工夫するために子どもの特徴を把握するための視点とチェック表などについても述べていくことにした。
向山洋一氏は言う。
「子どもを動かすのは、独立した単独の技術ではない。技術を支えるための、相手に対する深い理解を必要とする。」(『教え方のプロ・向山洋一全集1』明治図書、一六ページ)
「効果的な方法(指導)」という子どもを動かす仕事のために筆者は、「特徴を把握する視点とチェック表」というような「子どもを理解する」方法をとったのである。
その結果として学んだことをまとめようとするのが、本書である。
そして、個別に指導をするための課題とその課題に含まれている指導したい、育てたい要素について筆者なりに整理した内容も書き加えた。
この内容は、指導したい要素と課題を検討するときの参考になるだろうと思う。
また、これまで同様、登場する子どもが特定できないようにする。
仮名を使うとともに、子どもの特徴の情報等を入れ替えたり、一般論として述べたりするなどの配慮をして述べるようにする。
本書は、法則化運動とTOSSのサークルで学び続けてきたから著すことができた。
そして、K・ABCという検査に出会って研修を続けてきたことで、実践の「視点」を考えることができた。
ともに学んできた仲間にあらためて感謝したい。
謙虚に学び続けることがいかに大切かを、本書をまとめるにあたりさらに実感している。
各方面でお世話になったみなさまに、執筆開始にあたりあらためて深く感謝申し上げる。
平成二一年三月一四日 /伊藤 雅亮
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- 明治図書