特別支援教育の実践シリーズ1
普通学級にいるアスペルガ―症候群の子への指導

特別支援教育の実践シリーズ1普通学級にいるアスペルガ―症候群の子への指導

好評5刷

専門医療知識をベースに、実際の現場での指導法を具体化した。

子どもの行動が理解できず苦しみぬいた末、親や学校の先生の協力を仰ぎ日々奮闘した担任教師の一年間の記録。医療との連携で、アスペルガー症候群と診断を受けた子への指導がどう変わってくるかを示した。基本方針や具体的指導例などが盛り込まれた一冊。


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ISBN:
4-18-020133-X
ジャンル:
授業全般特別支援教育
刊行:
5刷
対象:
小学校
仕様:
A5判 180頁
状態:
在庫僅少
出荷:
2019年11月21日
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もくじ

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はじめに (別れの場面)
第T章 指導の原則
1 10の指導方針
@理解できない子/A10の指導方針/B理解しようとするな
2 ほめられることが嬉しくない子
3 行動を教え込む
@逐一行動を教え込め/A危険なことを止める/B友達への暴力をなくさせる/C他人のものを確認する/D放課後のいたずら
4 薬を飲ませる
5 3つの対応
@DAMP症候群/A7の指導方針/B行動を3つに分け,3つの対応をする/C医療面からのポイント
第U章 教室にいられるようにする
1 方針に沿った指導
2 活動の記録
第V章 到達点と具体的指導
1 算数の到達点と具体的指導
@計算スキルの発表/A算数の授業で気をつけたこと/B2年生の最後の算数テストと具体的指導/Cフィードバックする/Dはじめてテストを解く
2 国語の到達点と具体的指導
@読み/A書き/Bはじめて間違えた漢字を直す
3 対人関係の到達点と具体的指導
@到達点/A暴力の指導/B教師の姿勢と逆転現象
4 最後の失敗
@無理をさせる/A目の下の大きな隈/B家庭訪問
5 掃除・行事・片付け・その他
第W章 医療と連携する
1 医療が子どもを救う
2 教師が見落としがちな臨界期
第X章 家庭と連携する
1 医療へ繋げる
2 親の愛の偉大さ

はじめに

(別れの場面)

 「宮川先生,どうして行っちゃうの?」

 良男くんが,宮川先生を探してやってきた。離任式のあと,宮川先生は最後の学級指導のために教室に向かっていた。

 「みや川先生,どうしていっちゃうの?」

 「せんせい,どうしていっちゃうの……。」

 「せんせい,どうしていっちゃうの……。」

 泣きながら,頼りなく歩いてくる。目がうつろである。

 「どうしていっちゃうの?」

 「みやがわせんせい,どうして……いっちゃうの。」

 「せんせい……どうして……いっちゃうの。」

 ……。

 宮川先生は,抱きしめるしかできなかった。

 膝をつき,ただ抱きしめた。頭を撫でた。

 「せんせい,どうして いっちゃうの……。」

 「どうして……。」

 胸の中でも,同じ言葉を繰り返した。

 「どうしていっちゃうの?」

 「もう,よっちゃん,お利口だから。先生いなくても,もう1人でも大丈夫だから。もう,先生がいなくても大丈夫だから。だから,先生,この学校からお別れできるの。」

 宮川先生の目から涙が溢れ出した。声とともに溢れ出した。

 「どうして,いっちゃうの……。」

 宮川先生は,良男くんの手を取って教室へ向かった。

 「みんな待っているから,教室行こう。」

 「どうして,いっちゃうの……。」

 ……。これが,宮川正男氏と良男くんの別れの場面であった。


 宮川氏のクラスの良男くん。DAMP症候群の診断を受けた子である。

 DAMP症候群とは,アスペルガー症候群とADHDが,重なりあったような障害である。 ドクターによってはアスペルガー症候群と診断し,ドクターによってはADHDと診断する。

 入学当初は,指導が通じなかった。言葉はわかっているのか? 何を考えているのか? 理解しようとすればするほど,おかしくなるようだった。そう宮川氏は懐述する。

 お別れの日の夜の送別会,学校長から保護者の話が紹介された。

 校長室に,2年間の御礼に来た時のものだった。


 同じ人間が,2年間でここまで変わるということに驚いている。


 この日の卒業式では他の子よりも「お利口」に過ごした。席にきちんと座り,周りの子に手を出すどころか,声もかけなかった。

 卒業式の練習では,周りの子に何かやりはじめた。他のクラスでも話したり,何かやったりしていた子がたくさんいた。指導する教師の話が長く,またわかりにくかった。そんな中で,良男くんも周りの子に何かやりはじめた。クラスの温厚な子はいいが,隣のクラスの神経質な子の椅子を動かしたり,頭を撫でたりした。この段階で,宮川氏は良男くんの近くに行った。良男くんは背が一番低いから,横に歩いて近づいた。ニッコリ目を見合った。2・3回行った。それだけで,前を向いて大人しくなった。

 それから,宮川氏は良男くんの視界に入る位置に移って座った。良男くんは,たびたび宮川氏のほうを見た。顔を見て,にっこりして,また前を向いた。歌の練習がはじまると,しっかり歌った。

 再び,話の長い,まとまりのない説明の指導がはじまった。良男くんは小さく手を上げた。事前指導で,「具合悪くなったり,おトイレ行きたくなったら,小さく手を上げるんだよ」と言ってあった。

 あと,1分で終わるという時だった。

 でも,そんな見通しは,良男くんにはない。

 良男くんは,疲れたので,気分転換にトイレに入った。1年生の頃はそうして,よく便器にトイレットペーパーなどを流そうとしていた。でも,「いけない」ということがひとつずつ身について,今は大人しくトイレで遊んでいた。

 全校が退場したあと,良男くんを呼んだ。「はい」と返事して出てきた。手を繋いで一緒に教室に行った。

 卒業式の練習のダラダラした長い指導は,耐えられずにいた。

 しかし,卒業式本番では,とっても「お利口」にしていた。


 離任式では,大声を上げて泣くと思われた。感情を人一倍にはっきりと表現する子であったからだ。1年前始業式の担任発表で,宮川氏の持ち上げの担任が決まった際,「やった。やった」と全校がわかるぐらい大声で喜んだ。跳ね回った。だから,この日も大声で泣くと思っていた。

 でも,声に出さずにたくさんの涙を流していた。腕で拭っていた。全校で集まっても,完全に何処にいるかわからなくなった。そんな事でも,目立たなくなったのである。大声を出している1年生とは対照的だった。周りの子を見ながら,行動の仕方を覚えてきた。言葉ではわかりにくい。だけど,モデルとなる行動を見て,自分がどう動くかを覚えていった。腕で,涙を何度もぬぐっているのが目に入った。

 そして,離任式のあと,教室を飛び出し,宮川氏を迎えにきた。


 教室で帰って,クラス全体に次のように話した。

 「よっちゃんがね。どうして,先生いっちゃうの? って言ってくれたんだけど,……それについてお話します。」

良男くん以外の子も,ほぼ全員泣いていた。式場とは違って,声を上げて泣いていた。机の上に突っ伏して泣き崩れている子もいた。

 「みんな,このクラスはとっても良いクラスになりました。先生,日本一の2年生だと思う。だから,もう先生は必要ないと思う。

みんなに負けないくらい,先生も淋しい。悲しい。だけど,悲しい別れだからそのことで学べることがある。だから,随分前に,次の学校に行くことを自分で決めました……。」

 良男くんは,まだ泣き続けていた。

 「みや川先生,どうして,いっちゃうの。」

 最後の願いを話している時に,もう1回だけ,同じ言葉が聞こえてきた。合計30回ほど聞いた同じ言葉だった。

 話を終えた後,教室の後ろにみんなを集めて,抱きしめた。良男くんが輪の中心になった。時間になるまで,そうした。

 学校から出る時には,いつもの良男くんに戻った。

 クラス一人一人とジャンケンをしながら別れた。1人ずつ抱きしめて,一言御礼を言っていった。良男くんは最後から2番目だった。

 教室から出て,他の先生の次のように言っていった。

 「よしお,ないちゃった。」

 いつもの笑顔で帰って行った。


 私は,宮川氏を通して良男くんに出会った。サークルで報告を受けるたびに,同じ子がこのように変わるということに驚かされた。

 良男くんから,さまざまなことを教えてもらった。医療との連携の大切さ,親の混乱と愛情,基本的方針の大切さ,そして,人間の可能性……。

 本にまとめる依頼をもらった時,1番に良男くんのお母さんに相談した。宮川氏を通して,お母さんと出会った。素敵なお母さんだった。

 「私達が苦しんでいた時と同じように苦しんでいる人のために,是非書いてください。」

 そう励まされた。親の愛情の偉大さも,この子を通して初めて気づいた部分があった。

 宮川氏が担任した4月と同じように,全国には悩んでいる教師がいるだろう。それ以上に,悩んでいるのは親御さんである。でも,それ以上に困っている人がいる。本人である。

 宮川氏は言う。

 「向山先生,横山先生に出会わなければ,良男くんだけでなく,自分もどうなっていたかわからない。」

 私の力では,本にまとめることが難しいのであるが,多くの出会いに感謝し,つき動かされ,書き進めることにした。

 この春,良男くんは立派な中学生となる。


  2005年1月 /小松 裕明

著者紹介

小松 裕明(こまつ ひろあき)著書を検索»

向山洋一26番弟子

TOSS長野代表

学級崩壊から出発した教師生活で,向山洋一氏の著書と出会う。

そのお陰でクラスを立て直し,法則化運動(現TOSS)から学びつづけている。

特に向山洋一教え方教室に連続参加(現在82回)することで,教師に必要なあらゆることを教えていただいている。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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