教師のコミュニケーション力を高めるコーチング

教師のコミュニケーション力を高めるコーチング

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教育にコーチングを広め、コミュニケーション能力を引き上げる!

相手を認め、良いところを引き出すコーチングのコミュニケーションは、子どもへの指導、職員同士の連携場面、若手教員への指導など、どんな場面にも役立つ。コーチングの基礎基本からコーチングを使ったコミュニケーションの活用法と具体例まで満載。


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ISBN:
978-4-18-019227-4
ジャンル:
教師力・仕事術
刊行:
3刷
対象:
小・中・高
仕様:
A5判 160頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

はじめに
第1章 教育界におけるコーチングの意義
困難に直面する学校/ 学校現場の問題点/ 学校管理職に求められるコミュニケーション能力/ 教員にも必要なコミュニケーション能力
第2章 学校の存在意義とコーチングの重要性
はじめに/ 学習学とは/ ハードウェアからソフトウェア、そしてヒューマンウェアへ/ 教室・講義モデルからの脱却/ 教師の役割/ コーチングは、子どもの可能性を引き出すコミュニケーション・スキル/ 信じること、認めること、導くこと/ コーチング・スキルとは/ 指導者が学び続けること
第3章 学校を内側から変革する! 学校風土改革・学校力向上支援 具体的事例
はじめに/ その1 学校風土変革支援 具体的実例@ 〜全国から注目を集めた! 愛知県小牧市立応時中学校の場合〜/ その2 現在進行形の様々な学校支援プログラム事例
第4章 コミュニケーションを改善するコーチングの事例 キャリアカウンセリングの現場から
何に対してもまず「分からない」と答える/ 自分の長所が言えない……「今のままの自分ではまだダメ」という意識/ 進路がはっきりしないと行動を起こせない/ 「答え」を外側に求め、自分で解決策を探ろうとしない/ 「答えは一つしかない」と思い込んでいる/ 「夢」と「職業選択」は別と考えている/ 可能性を否定されると前向きになれない
第5章 教育現場におけるコミュニケーションの課題
なぜコミュニケーションなのか/ 人間関係をむすぶ力/ 「コーチング」を教育現場に導入するということ/ 課題とこれから
第6章 子どものコミュニケーション能力を引き上げる コーチング研修
コミュニケーションを阻む「不安や恐れ」と向き合う/ 傾聴の効果/ ペーシング/ 承認
第7章 静岡県におけるコーチング研修 校内研修への支援
校内研修への支援制度/ 校内研修でコーチング の取り組み/ 承認について/ 演習 」について/ 指導とコーチングのバランス/ 先生からのフィードバック
第8章 授業力向上のためのコーチング、ファシリテーション研修
〜MustからWillへ〜
若手の理科教師の授業力を向上させるために、どうコーチングを活用したかの事例/ 共に学び合う初任者研修〜ファシリテーションの手法をどう取り入れたかの事例
第9章 「生きる力」を育てるスクールコーチング研修
「生きる力」とは/ コーチングが学校に求められている/ コーチングは子どもの気持ちを前向きに変える/ スクールコーチングの考え方と姿勢/ コーチング研修で求められていること/ スクールコーチングの流れ/ コーチングを導入したことの六つのメリット/ スクールコーチングの二つの力
第10章 教員研修と校内研修でコーチングをどう実践していくか
研修は授業と同じ/ 研修講師をどう確保するか

はじめに

 コーチングとは、相手のやる気を喚起し、目標を達成することをサポートするためのコミュニケーションスキルである。一九九〇年代のアメリカでスキルの体系化と育成プログラムが確立し、日本では二〇〇〇年代以降、特にビジネスの分野で急速に広がりつつある。

 現在、プロフェッショナルのコーチとして活躍している人たちは、主に企業の管理職を対象に、コーチングを実施している。コーチする相手の職種は問われない。職種固有の知識をもたずとも、相手がどうすればよいかを自ら気づかせる能力をコーチがもっていたら、コーチングは可能となる。コーチたちは、クライアントとマンツーマンで向き合い、クライアントが目標を達成するサポートを行っている。

 コーチングは、マンツーマンの対話で行われるため、カウンセリングに似ている。コーチングで使用されるスキルには、カウンセリングで確立されたスキルが多く含まれている。ただし、カウンセリングは心に悩みをもつ人の原因を探ることに力点を置くのに対し、コーチングは目的を達成するためにやるべきことを探ることに力点を置く。また、カウンセリングは直接対面する場合が多いのに対し、コーチングは対面せずとも、電話による対話でも目的を達することができる。ビジネスの世界でプロフェッショナル・コーチとして活動している人たちは、おおむね顧客と週一回三〇分程度のコーチング・セッションをもっている。

 コーチングの役割は、狭義にはマンツーマンのコミュニケーション行為を通じて相手のやる気を喚起することを意味しているが、広義には、組織成員にそのようなコミュニケーションスキルを身につけさせることで、組織全体を活性化させることを意味している。本書が注目しているのは後者の役割である。

 本書は、教員研修や校内研修にコーチングを取り入れることを検討したり、コーチング研修の方法を模索している教育関係者を主な対象と考えている。

 多くの教育関係者は、コーチングを大変魅力的なものと見る一方で、多少値踏みをする見方もしていると思われる。

 「学校(あるいは教員)を変えるには、新しい○○教育を実践するのが有効だ」という言い回しを耳にする機会は多い。教育関係者は、「○○教育」の攻勢に辟易している。環境問題、経済問題、経営問題、様々な問題領域ごとに固有の教育プログラムが、それぞれの推進団体から提唱されている。それぞれのプログラムの意義はあるのだが、推進団体は、他のプログラムを押しのけて、自分たちのプログラムを学校教育に取り入れることが、子どものためになる、社会のためになると主張しがちだ。プログラムのセールスに対応する学校や教育委員会の関係者は、限られた学校の時間の中で、どうカリキュラムを調整すればよいのか、頭を悩ませてしまう。手っ取り早いのは、すべて断ることだろう。コーチングがこれほどに世の中に広まっているにもかかわらず、教育界に入り込みにくいのは、このような○○教育と同様に見られているところがあるようだ。

 コーチングが教育界に広まりにくいもう一つの要因がある。講師謝金の高さだ。コーチングを提供するのは、それを職業としている独立した個人か、企業である。いずれも、コーチングを商品として収益を維持しないといけないため、マンツーマンのコーチングを行うにしても、コーチングの研修を行うにしても、謝金は安くない。

 教育センターの謝金水準はおおむね、大学教授のように本職の収入が確定されている人を講師として依頼することが想定されており、研修講師としての収入のみで収益が保持できるような謝金とはなっていない。教育界の謝金水準が低すぎるのだ。教育界の現状では、通常、コーチングを含めて企業で実施されている研修と同水準の研修を実施することは不可能である。

 コーチング研修を教育界で実施するのはハードルがいくつもある。しかし、少しずつ、コーチング研修を実施している教育センターは増え続けている。コーチング研修の講師と個別に交渉し、教育センターの謝金水準に合わせてもらっている。講師側からすると、赤字になるはずの交渉になぜ応じているのか。

 ある講師はこう答えた。「我々は社会全体の組織を活性化することを理念としている。社会を活性化しようとするとき、学校教育段階の子どもや教員を活性化させた方が効果的だと考えるのは当然だ」ある講師はこう答えた。「今の教育の在り方を変えたい。それが自分の使命だと考えている」「赤字になってもいいのですか」と尋ねると、「別の研修で経営を成立させ、教育は採算度外視でかかわります」と答える講師もいる。

 教育というのは、どうも大変な魅力をもった分野らしい。コミュニティスクールや、学校評価等で地域の学校関係者と交流すると、教育に関心が高い、良心的で献身的な人たちがたくさんいることに気づく。学校という場所が、子どもたちをよく育てたい、子どもたちにいい人生を歩んでもらいたいと願う人たちを集める引力をもっているようだ。学校の引力に引き寄せられる人の中に、コーチングの講師がいても不思議ではない。

 私はこれまでのコーチング関係者との付き合いの中で、教育界に熱心なコーチを見いだすよう努力してきた。私の選別の観点は、単に教育に熱心で献身的であるというだけではない。「教育のこと、学校現場のことを分かっているかどうか」も重要である。私が出会ったコーチングの講師の大部分は、「自分はコーチングのことを分かっている。その知識を教育界に伝えることで教育界はよくなる」と思っている。その考えはある部分正当であるが、ある部分間違っている。コーチングでは、コーチングスキルを身につけていれば、コーチする相手の専門分野を知る必要はないと考えられている。マンツーマンのコーチングではその考え方が有効となるだろうが、研修講師として教育関係者の前に立ったとき、学校現場のことを知らないというのは、大変なハンデとなる。本書の執筆者の一人が、自分が都合のつかなくなった教育センターの講師として、教育界と縁のないコーチを紹介したところ、その講師はコーチとしての力量は高かったのに、受講者の反応はよくなかったらしい。もしやその講師は「自分が身につけているコーチングスキルを与えるだけで、受講者は満足するだろう」と考えていたのではないか。相手は「教えるプロ」なのだ。教員にとって、子どもをつかむことは、授業の初歩的な技術だ。講師側に相手のことをつかもうという姿勢がなければ、受講者の姿勢が引いてしまっても仕方ないだろう。

 教育への関心が高く、教育のことを理解しているコーチを探す一方で、教育関係者の中からコーチングスキルを身につけている人材の発掘も行ってきた。コーチングのことを学んでいる教育センターの指導主事が少しずつ増えている。彼らは、コーチングで生計を立てようと思っていない(一部にはコーチとして独立してしまった人もいるが)。純粋によい研修を提供しようという熱心さで、高額のコーチング講習を受講し、コーチとしてのライセンスを取得している。彼らは、コーチとしての力量は、プロのコーチには劣るだろうが、教育のことを熟知している。教育関係者が受講するコーチング研修の講師としては、プロのコーチ以上の適任者ではないかと考えている。

 本書の執筆者は、以上の観点で私が全国から選び抜いた、教育界に自信をもって紹介できる、コーチングの講師たちである。

 読者の皆様は、本書を通読することで、コーチングによって教員や子どもたちが元気になり、生き生きと授業や学びに取り組むようになる姿を思い描くことができるようになるだろう。


   /千々布 敏弥

著者紹介

千々布 敏弥(ちちぶ としや)著書を検索»

国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官


1961年12月,長崎県生まれ。

1990年九州大学大学院博士課程中退,文部省入省。その後私立大学教員を経て,1998年に国立教育研究所(現・国立教育政策研究所)に勤務。2000年の間,内閣内政審議室教育改革国民会議担当室併任。2003年の間,米国ウィスコンシン州立大学へ在外研究。

教員免許更新制の導入に関する検討会議委員,学校評価の推進に関する調査研究協力者会議委員,指導が不適切な教員に対する人事管理システムのガイドラインに関する調査研究協力者会議委員。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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