- まえがき
- 第T章 「お前、こいつを何とかできるのか」
- 〜専門学校教師に怒鳴られてからの出発〜
- 1 教師の無理解で進路指導に失敗するとき
- 1 「それは先生だからだよ」
- 2 「必ず何とかします」
- 3 子どもを社会に出すことの責任の重さ
- 2 教室での失敗をこうして起こした!
- 1 自閉症の行動をアドバルーンだと勘違いして叱ってしまった
- 2 初めて、パニックにうまく対応できた指導
- 3 情熱は必要だが、それだけでは指導できない
- 1 「だらしない」D君
- 2 できない原因を探る
- 3 向山型の原則で課題を「区切る」
- 4 運任せの人生からの脱却
- 4 「見ること自体が苦手だった」からの出発
- 1 向山型指導法を「うまいやり方」程度にしか捉えられていなかった
- 2 「細分化の原則」
- 3 見ること自体がつらそうであった
- 第U章 「生きる気力を育てる」エネルギーの源泉
- 〜機械的なソーシャルスキルトレーニングや作業トレーニングばかりではQOLは向上しない〜
- 1 「僕を馬鹿にしたやつらを見返してやりたい」生徒の叫び
- 1 「どうして僕は馬鹿なの?」
- 2 「先生、勉強っておもしろいね」
- 3 「もう泣かないでいいよ。大丈夫だよ」
- 2 「ありがとう」と言える当番活動システム
- 1 当番活動は一人ひとりを「激励」するための手段である
- 2 翔和学園の当番システム
- 3 毎日全員に「ありがとう」
- 3 自尊心を傷つけずに、望ましい行動を教える
- 1 こだわりは注意しても改善されない
- 2 こんなときだって激励できる!!
- 3 褒める仕組みを作る
- 4 いじめや差別と闘うド根性
- 1 いじめは正当化できない
- 2 クラス全員を味方につける
- 3 教師の中にある無意識な差別意識
- 4 事実で子どもの差別意識と闘う
- 5 「団長は誰にでもできます」
- 6 「人情」と「電車」
- 5 ステキな成人式
- 1 翔和学園成人式〜R君のスピーチ〜
- 2 夢を語る
- 6 卒業式
- 1 誰ともしゃべらなかったEさん
- 2 卒業式の主役は卒業生だ
- 3 翔和学園卒業式
- 第V章 生徒に自活への道を拓く指導
- 〜無知の犯罪者にしないために〜
- 1 障害者を無知の犯罪者にしてはいけない
- 1 取り調べ室に入れてもらえなかった
- 2 怖くて謝ってしまった
- 2 万引きの指導はここがポイント
- 1 学校見学中の万引き
- 2 「細分化の原則」
- 3 ルールは自分が守るものであることを教える
- 1 ルールは守るがマナーが悪い
- 2 ルールは自分が守るもの
- 3 授業場面への応用
- 4 「我慢」を教える
- 1 ご褒美の「趣意説明」と「激励」
- 2 「だからね」
- 5 当たり前すぎて教えていない盲点
- 1 パジャマはいつ着るのか?
- 2 正確すぎる言葉の使い方
- 3 「絵になる言葉」で言い直させる
- 4 声のレベルの指導 レベル0を教える
- 5 距離のとり方を簡明に教える
- 6 話していい人を簡明に教える
- 第W章 人間関係を結ぶ難しさ
- 〜突破口はここだ!〜
- 1 生身の人間の関わり
- 2 「自由時間」の過ごし方を教える
- 1 仲間と声を掛け合って居酒屋に行ける力を身につけさせる
- 2 世間話の台本を作っていたC君
- 3 知的な共感を生む暗唱指導のススメ
- 1 「生活の質を高める」
- 2 初めて仲間と一緒に笑ったF君
- 3 知的な共感〜作品が思い出とセットになる〜
- 4 授業の中で子どもの参照力を育てるには〜TOSS音楽からの学び〜
- 1 「目線を合わせる」ということ
- 2 コミュニケーションの苦手さ
- 3 言葉を削りに削る
- 5 相手にも心があることを学ばせる〜向山型国語からの学び〜
- 第X章 教師集団が学び続ける
- 〜ヒケツと仕掛けはここにある〜
- 1 向山型を追いかける
- 1 有段者の授業を丸ごとコピーする
- 2 教師のワーキングメモリ不足
- 3 翔和学園教員期末試験
- 4 『教師修業十年』に学ぶ
- 5 一流の授業に学ぶ
- 2 信頼と尊敬を同時に勝ち取る〜新卒二年目女教師の勝負〜
- 1 また新たな修業の機会
- 2 「判断と方針を確定させる」
- 3 何が何でも褒める
- 4 新卒二年目女教師の勝負
- 5 笑顔で筋を通し、褒めた
まえがき
「息子さんがインフルエンザで欠席した一週間、クラスがどれだけ平和だったか分かりますか?」
息子が四年生のとき、個人面談で担任からそう言われた。
「褒めどころがなくて困っています」
五年生のときの担任は個人面談で開口一番そう言った。
「自分より弱そうな子に、嫌がることをしつこく言い続けることがあります。勝手なこと、危険なことも目立つので注意すると、聞くに堪えない言葉が返ってきます。学校以外の場で逆に辛辣なことを言われてつらいのではないかと心配になります」
これが、五年三学期の「あゆみ」のコメント全文である。
『授業の腕をあげる法則』(明治図書)の中で向山洋一氏は次のように述べている。
教育のもっとも根本的な目標をただ一つだけ言えと言われたら「人間の生きていく気力を育てることである」と言える。
この「もっとも根本的な」「ただ一つ」の「目標」が全く守られていないことに愕然とした。
学校からたびたび電話があり「家でしっかり言い聞かせてほしい」と言われ続け、連絡帳には日々息子の問題行動がずらりと並んでいた。
私は「ひどい担任だ」と思っていたが、担任からすると「ひどい親だ」と思われていたことであろう。
保護者の「気力」も低下していった。
六年生になり、息子は素敵な担任の先生に出会った。
いつも笑顔で接してくれ、活躍場面を意図的に与えてくれ、たくさん褒めてくれた。
これまですべて「がんばろう」だった「あゆみ」の「生活のようす」欄はすべての項目が「できる」に変わった。
通知表のコメントの最後は「『オレ』らしさをいつまでも大切にしてほしいです」と締めくくられていた。
息子は、「先生と約束したから」と勉強をよくするようになった。
明るくなった。
数年続いたチックがピタリと止まった。
悪いこともたくさんしたと思うが、先生はいつも息子のいいところばかりを見つけ伝えてくれた。
家も明るくなった。
本書は「特別支援教育」について書いた本である。
しかし、その内容は向山洋一氏から学んだ普通教育の「原則」を中心としている。
向山氏の「原則」はもともと「特別支援」の内容を内に含んでいる。
そして、「特別支援教育」において不足しているのは専門知識以前の、もっと基本的な教育技術であり教育思想であるというのが私の考えである。
本書が一人でも多くの子どもの「生きていく気力を育てる」ことに役立てば幸いである。
私にとって自著が出版されるなど夢のようなことです。
向山洋一氏からの学びのおかげです。
そして、翔和学園で共に汗を流す同志との出会いがあったからです。
特に、本書執筆にあたり中村朋彦氏には全面的に協力してもらいました。
また、だらしない私をいつも温かく励まし支えてくださった明治図書の樋口雅子氏に、心より感謝申し上げます。
二〇一一年四月五日 NPO法人翔和学園 /伊藤 寛晃
その圧倒的な手法に、心を動かされ、研究者や現場の教員だけではなく、最近では議員や文部科学省の方々も視察に訪れ、公教育の中にも何かしらを取り入れようとする動きがあります。
総務省の重徳氏のブログでも紹介されています。
http://blog.livedoor.jp/shigetoku2/archives/51490831.html
現代の難しい対応を迫られている特別支援に向き合おうとしたら、必須の書だと思います。