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今月のメッセージ
教育基本法「改正」問題を考える
愛知教育大学 折出 健二
今国会に教育基本法「改正」案が上程されています。本誌が発行される頃、その審議も大詰めを迎えるので成り行きが注目されるところです。
この「改正」案は、教育改革国民会議最終報告および二〇〇三年の中教審答申を受けて政権与党の協議会が進めてきた論議が基になっています。「全面的な見直しをせずして『学級崩壊』『学力低下』『偏向教育』は止まらない!」という「改正」支持団体の著作の帯にある言葉が、その「改正」理由を象徴的に語っています。あいつぐ少年事件や学校の困難な事態を生む元は、現行の教育基本法にあると言いたいのです。
これに対して、教育基本法の民主的・文化的・学問的精神を真に活かすことが、いま焦眉の課題である。教師と保護者・市民が共同で学校教育の創造にとりくめるように、政府や教育行政機関が十分に条件整備につとめてきているか。まず、そこが問われるべきである。こういう立場が、このたびの「改正」に反対する立場の論拠です。
いま生きづらさを抱えてさまざまなトラブルや孤立化をみせる子どもたちをすくう真の教育創造こそ、国民みんなで力をだしあうべき共通課題である。「格差」拡大の競争システムを至急に見直し、もっと共同性や活動性にひらかれた学校空間をつくりなおそう。
わたしたちは、全生研「指標」の立場にたってこの課題に取り組んでいます。
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このたびの「改正」案は、一九四七年制定の現行法の「全部を改正」するものです。まず「前文」や「目的」で、我が国がすでに「民主的で文化的な国家」であるとして、その発展のために、「公共の精神」をそなえた人間の教育を推進するとしています。これは、現在の新自由主義体制に基づく新たな「公」の創出のために教育を従属化させる構図であり、教育にたずさわる者としては黙過できません。
また、国民の間で論議の分かれる「愛国心」の教育については、その国家主義の意図を隠した文言で条文上「教育の目標」にこれを位置づけ、その「目標」達成を管理するという仕掛けにしています。これは、教育を受ける者、教育を実践し創る者の内心(精神的自由)を権力が法律を楯にして統制するものです。
さらに学校教育に対して「改正」案は、九年の普通教育を削除しています。と同時に、教育の中身に踏み込んで「学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに自ら進んで学習に取り組む意欲を高めること」を子どもたちに道徳的義務として求めることを明言しています。これは、今まで以上に露骨な国家教育権の主張ですが、教育の最高法規でここまで踏み込んで規定しようとするのはなぜでしょうか。
それは、その枠組みで教育的関係を縛ることで、次に扱うべき「教える内容」を想定しているからです。「日の丸・君が代」の強制に見る人格管理主義が、この「改正」を法的根拠としてさらに全国に徹底されるのは明らかではありませんか。
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今回の「改正」が教育改革につながるのではないか。このように願う「改正」支持の方々もおられます。問題は、誰の視点で、誰をすくい、誰を利する改革なのか、です。
本来、子どもたちの参加に基づき自主・自治と学びと文化をゆたかに創造する過程で、社会的正義や集団の自律性や友愛の関係性、道徳性がはぐくまれ、暴力を持ち込まない平和的で対話的な市民社会の基礎が実現されるのです。
「改正」案の描く教育改革は、国家を意識するように子どもたちの生き方を変えさせ、秩序や規律への従順さをとおして、日米の軍事同盟の強化や世界戦略に資する人材養成につなげていくものです。ここに、教育を超えた国策の優先になる恐れが十分にあります。よって廃案にすべきだと思います。
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- 明治図書