- 特集 「軽度発達障害」の子どもと集団づくり
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- 案内版 集会・学習会のお知らせ
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今月のメッセージ
子ども観、教育観を豊かに―光太郎は、今26歳―
全生研常任委員 今関 和子
光太郎は今年26歳になった。彼がゆっくりと、自分を見つけながら歩いていることを、今年も母親からの年賀状で知ることができた。
光太郎は今思えば「軽度発達障害」の子だった。
しかし、当時そんなことはわかるはずもなく、五年生で担任したときには、教室は飛び出す、席には着かない、座っていても漫画ばかり描いている、突然騒ぎ出す、キレるなどなど、どう指導したものかと戸惑った。漫画を取り上げようとして、私は光太郎と小競り合いまで起こしたことがあった。
しかし次第に私は光太郎と分かり合えるようになっていった。
教室を飛び出し、廊下にある給食のワゴンの中に隠れているのを見つけた時、「おや、ワゴンが動いているぞ。何かいるのかな」とおどけて言ってみると、なんと「ワンワン」と光太郎はないてみせたのだ。私は光太郎の無邪気さにすっかり嬉しくなってしまって、ワゴンの外側と、中側でごっこ遊びを始めていた。
その頃、クラスの中にはいじめがあり、その標的にされていたサトルが不登校を起こしてしまった。サトルがいじめが原因で不登校になっていることだけは、子どもたちには知らせておきたかった私は、子どもたちに「サトルは学校に来たくないと言っているんだけど、誰かその原因わからないかな」と聞いた。もちろん、何の返事もないことを予想していた。
すると、光太郎が真剣な顔で「もしかすると僕かもしれない。昨日の帰り際に、サトルのことを…」と言い始めた。光太郎がサトルをいじめているのではなかった。しかし、光太郎は「自分のせいかもしれない」と思い、自分の行動を振りかえってみたのだろう。私は思わず「君は何て正直な子なの!」と言った。その言葉に光太郎の頬が紅潮するのを見た。
光太郎の無邪気さ、純真さに触れ、私は彼を次第に理解していった。いや正確に言えば、光太郎の魅力を発見し、その魅力に私が惹きつけられ、光太郎を好きになったと言ったほうがいい。それが「共感」というものなのだろう。
そうは言っても、光太郎への指導は二年間大変なエネルギーを使った。しかし光太郎にとっても私にとっても充実した二年間だった。卒業間近、私は光太郎との別れが辛くてならなかった。
あれから「軽度発達障害」の子どもたちに何度か出会っている。そのたびに私は光太郎を思い出す。そして指導に苦慮しながらも、彼らの魅力と再び出会っている。
「口に出しにくい本当の事を、まわりを気にすることなく言ってしまう」彼らは、私の「常識」への捕らわれに気づかせてくれるし、彼らの「物事に素直に感動する純真さ」に触れると、心洗われる思いになる。「びっくりするようなユニークな思いつき」は新しい発想のヒントをくれるし、「こだわりの強さや、自分を押さえられない行動」は、クラスの本音の討論や教訓を引き出す。
私は彼らから大切なことを教えられている気がする。と同時に、その言動故に、生き辛さや苦しさを抱えている彼らに、人間というものの切なさや、愛おしさをたまらなく感じる。
彼らは私たちに、子ども観、教育観、そして人間観を豊かにしていくヒントを示している、そんな気がしてならない。
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- 明治図書