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今月のメッセージ
「教師を拒否する子」でも…… ―春のさよならを前に―
神奈川生研 篠崎 純子
それは、明日から夏休みという日の放課後だった。太一がキレて、倒した本箱や植木ばちやらを片づけ「四の一は、みんな死ね」と水性ペンで黒板に書かれた文字を消していた。ふと気がつくと、帰ったはずの太一がいた。「ガジュマル」と言う。「また、なくしたの。」と私が不機嫌な声で言うと、太一は困惑した時「これで逃げ切る満面の笑み」を浮かべ、私を見た。「もうー」とほっぺを手のひらで包むと顔は急に泣き顔になった。「かあさん、おこった。なぐった。ガジュマル『こんなもん』って言ってやぶいた。」私は愕然とした。母親が連絡帳でいじめられていると書いてきたので、その経過と、太一の様子を言葉を選んで報告したばかりだった。それがいけなかったのか。太一はやぶかれた学級通信を母親が出かけたすきに学校へ取りにきたのだ。(太一ごめんね。先生は君の悲しみもこんなにクラスのことを思っていることも知らなかった。)彼はガジュマルを、きっと母親には内緒にしておくのだろう、小さく小さくたたんで、ポッケに入れ、「満面の笑み」を浮かべた。ADHDの太一は、この荒れたクラスでは刺激が多すぎてその日もキレてしまった。母親の悲しみを癒すことができなかった私に、何度も手をふりながら帰っていった。
エスケープの子どもたちとADHDなどの子どもたちで、パニック状態になっている。暴力と荒れ、授業不成立。子どもも私も傷ついていた。十一月、暴力や授業妨害を繰り返しているグループの一人、嵐は机や椅子を軒並み倒し、ロッカーの上に牢名主すわりをして抵抗している。「うっせー、ばばぁお前が悪いんだよ。」とモップの柄で床を叩き続けている。放課後個別に勉強をみている時のことである。彼は学習はほとんどやらないので、今日はたまっている課題を少しでもやらせようと私は意地になっていた。突然嵐はロッカーから飛び降り、「やらりゃーいいんだろ。鉛筆貸せ」と言ってきた。ほとんど間違えていたので教えようとするとプリントをやぶいた。一学期の終わりから個別指導をたびたびやっているが、波があり今日はダメかなと思った。友達が帰ってしまうと嵐は静かになり、窓の方を向いて泣き始めた。「だめなんだよ。わからねえから書けねえんだよ。」と嗚咽している。わからないことを暴力ではなく自分のことばで言っている。何故か。もしかしたら桃子の誕生日会に嵐もよばれていて、今日は晴れて課題をやっていきたかったのかもしれない。時間を聞くともう時間は過ぎていた。あわてて桃子の家に電話をし、一枚だけやや得意な算数をやり、帰りなというと帰らない。プレゼントのことを母親に話したが、返事がなかったという。一緒に買いに行こうというと「もうお前のせいでまにあわねぇ」と吐き捨てるように言って嵐は帰って行った。嵐の家に行ってみると、彼は自転車の籠に財布だけ入れ、出てきた。母親はまだ寝ているので、自分の小遣いで買うのだろうその財布はとても薄く、籠の中で大きくゆれていた。それは哀しく、たくましくゆれていた。
子どもたちから授業妨害をしている嵐たち四人へ要求が出てきた。公開リーダー会で、美月が「だめ、校長室に嵐たちをやってはだめ。校長先生に来てもらって。」と叫んだ。「私が算数できなくてからかわれた時、先生とみんなで、頑張り豆先生をやってくれたでしょ。そしたら分かるようになった。嵐にもそうして。」というのだ。アスペルガーの疑いの真也が、算数の時嵐の横にすわり、桃子は「鉛筆、消しゴム貸し屋する」と言い、「けんかをやめて、よーく考えよう。勉強大事だよ」キャンペーンの原案ができた。やんちゃなリーダーの元気が言った。「オラたちこのクラス、そんなにやじゃないよ。ケンカもできるし、さわげるし、ホントのこと言えるし。先生もしんどいけど、がんばるんだよ。」と。
「教師を拒否する子」でも…
――春のさよならを前に――
神奈川生研 篠崎 純子
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