生活指導 2003年11月号
子どもが大人を信頼する時

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生活指導 2003年11月号子どもが大人を信頼する時

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2003年10月
対象:
小・中
仕様:
A5判 124頁
状態:
絶版
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目次

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特集 子どもが大人を信頼する時―子ども集団づくりと学校づくり(3)―
子どもが大人を信頼する時―子ども集団づくりと学校づくり(3)―
鈴木 和夫
小学校実践
「たいこばやし」に希望をのせて
大野 雪子
子どもに安心と自信を
古関 勝則
中学校実践
子どもとの信頼をきずく取り組み
遠藤 洋一
アスペルガー症候群の隆夫とともに
中川 拓也
小学校分析
子どもの権利を保障する大人の共同の中で
浅見 慎一
中学校分析
「個」に応答し、「集団」を問い直す
後藤 義昭
子どもがおとなを信頼するとき
照本 祥敬
第2特集 子どもたちの心の闇を探る 長崎事件・沖縄事件
小学校実践
子どもたちの心の闇―誰にも相談できないこと
海山田 太
中学校実践
孤独と妄想のはざまで
喜屋武 幸
決めぜりふは「ざけんなよ」
北原 浩平
長崎の事件を語ること
安子島 宏
少年の重大犯罪事件を考える
楠 凡之
関係図書紹介
倉橋 佳裕
今月のメッセージ
いっつも大人は力でやるから嫌なんだ
佐伯 隆
風の声―この人に聞く
子どもたちの笑顔が消える日―「特別支援教育」の名によって固定式の障害児学級がなくなる?―
杉山 敏夫
生活指導研究コーナー
現代子ども論―過剰といい加減、かつてと今と
近藤 郁夫
教育情報
不登校問題に関する調査研究協力者会議
楠 凡之
〜「今後の不登校への対応の在り方について」(報告)をどう読むか〜
ほっとたいむ サークルからの発信
転換期を求めて
有賀 貞文
案内板 集会・学習会のお知らせ
書評
『通常学級の障害児教育「特別支援教育」時代の実践と課題を問う』
湯浅 恭正
読者の声
9月号を読んで
投稿 実践記録
「付添人活動」―学校としての対応・親との共同
上林 武彦
コメント
能重 真作
全生研の窓
編集後記
鈴木 和夫

今月のメッセージ

いっつも、大人は力でやるから、嫌なんだ

埼生研 佐 伯  隆


昨年の三年の学年総合で、子ども達と瓦礫を掘り起こし「野菜づくり」を行った。

 子ども達が育てた野菜のダイコン、白菜などを使った料理で「親子でワイワイ!」と名前をつけて、共食を楽しんだ。今年も四年の一学期に育てたジャガイモでカレー料理を楽しむことにした。そのための親の打ち合わせ会は八人ほどの参加者で盛り上がった。

「秋には、秋刀魚パーティーをやろうよ。先生、今度も子どもたちとダイコンを作ってよ」

「A子ちゃんのお父さんやT夫君のお母さんにも、参加してもらわない?」

「A子ちゃんのお父さんは無理よ。それよりか、親父の会をやったら?」

茹でたてのジャガバターを食べながら、ワイワイ、ガヤガヤと話しがはずむ。

仔子どもと出会い直し続ける

A子は、父親と二人で暮らす。三年の半ばから「もの盗り」が立て続けに始まった。クラスや同じ階の教室に入り、机や筆箱の中から、キャラクターが付いた文房具類を盗ってきて自分で使っていることが何回もあった。子どもたちは、あきれて、そのたびに騒ぐのだが「もの盗り」は、四年時の初めまで続いた。話に脈絡がなく、叱責や注意では直らない。話しがすぐにはぐらかされてしまう。そんなA子の癖(?)が止んだのは、浄水場と清掃工場見学に出かけてからだ。A子は、全体の前で質問や感想発表でずーっと手を上げ続けている。困ったなあ、ちゃんと言えるかなと思ったが、隣りで班長のY子が、私の顔を見ながらA子を指しているのが分かったので、思い切って指してみた。とことことみんなの前に出てきて「ゴミクレーン車が2台あって……」と、はっきりと感想を述べる。それからだ。A子は、それまでは学級内クラブに入ろうとしなかったが、Y子達と「何でもクラブ」をつくったり、児童会主催の有志による三年生との縦割りドッジボール大会に参加したりした。

T夫は、対人関係がうまく取れない子である。ことごとくトラブルを起こす。帰りの会で、女の子のランドセルが顔に当たったという理由で、自分のランドセルを振り回して、力いっぱい相手の子に振り下ろした。私は、力で押さえつけて席に着かせた。T夫は「いっつも、大人は力でやるから、嫌なんだよ!」「幼稚園の時から、いっつも、悪者にされていたから」と泣きながら、私に抗議してきた。彼は、自分の思いである悲しさ、辛さ、嘆き、恨みなどを聞いてもらえていなかったのだろう。その後、T夫はA子と同じ班になり、学習援助を続けたり、学級内ドッジボールやサッカークラブで楽しむようになった。また、三年の三学期から始まった「保健室登校」のS男に、寄り添い始めてもいる。

仔どんな指導が正当性を持つのかを

二人とも、他の子ども達と共に朝、登校すると校門の近くにある学級園をのぞいていく。「野菜に『大きくなったね』とやさしく声をかけてあげると、大きくなるんだよ」と話すと、「声をかけてあげないと、いじけちゃうんだよね。野菜もね」と、A子は言う。「違うよ。野菜は自分から言わないけど、人は自分から言わなくちゃだめなんだよ。わかってもらえないんだよ」とT夫が応える。A子、T夫は、私や学級の子ども達とも相互に「出会い直し」が始まり、「避難所」と「居場所」を持ち始めたようである。

今大会の基調では、「対話・討論・討議」を通じて、教師と子ども、子ども達どうしの出会い直し=相互応答性を持った関係をつくることが実践を拓くこと、「教育の公共性」を築く学校づくりとして、三つの共同の重要性を述べている。そのなかで「一人の子どもをめぐって、どんな指導が正当性を持つのかという判断が交わされるコミュニケーションの場=公共空間を創り出すこと」を教師の共同として強調している。

この二人と私、学級の子ども達との出会い直しについて、校内研修などで報告し学習しあっている。


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