- 特集 子どもが大人を信頼する時―子ども集団づくりと学校づくり(3)―
- 子どもが大人を信頼する時―子ども集団づくりと学校づくり(3)―
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- 『通常学級の障害児教育「特別支援教育」時代の実践と課題を問う』
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今月のメッセージ
いっつも、大人は力でやるから、嫌なんだ
埼生研 佐 伯 隆
昨年の三年の学年総合で、子ども達と瓦礫を掘り起こし「野菜づくり」を行った。
子ども達が育てた野菜のダイコン、白菜などを使った料理で「親子でワイワイ!」と名前をつけて、共食を楽しんだ。今年も四年の一学期に育てたジャガイモでカレー料理を楽しむことにした。そのための親の打ち合わせ会は八人ほどの参加者で盛り上がった。
「秋には、秋刀魚パーティーをやろうよ。先生、今度も子どもたちとダイコンを作ってよ」
「A子ちゃんのお父さんやT夫君のお母さんにも、参加してもらわない?」
「A子ちゃんのお父さんは無理よ。それよりか、親父の会をやったら?」
茹でたてのジャガバターを食べながら、ワイワイ、ガヤガヤと話しがはずむ。
仔子どもと出会い直し続ける
A子は、父親と二人で暮らす。三年の半ばから「もの盗り」が立て続けに始まった。クラスや同じ階の教室に入り、机や筆箱の中から、キャラクターが付いた文房具類を盗ってきて自分で使っていることが何回もあった。子どもたちは、あきれて、そのたびに騒ぐのだが「もの盗り」は、四年時の初めまで続いた。話に脈絡がなく、叱責や注意では直らない。話しがすぐにはぐらかされてしまう。そんなA子の癖(?)が止んだのは、浄水場と清掃工場見学に出かけてからだ。A子は、全体の前で質問や感想発表でずーっと手を上げ続けている。困ったなあ、ちゃんと言えるかなと思ったが、隣りで班長のY子が、私の顔を見ながらA子を指しているのが分かったので、思い切って指してみた。とことことみんなの前に出てきて「ゴミクレーン車が2台あって……」と、はっきりと感想を述べる。それからだ。A子は、それまでは学級内クラブに入ろうとしなかったが、Y子達と「何でもクラブ」をつくったり、児童会主催の有志による三年生との縦割りドッジボール大会に参加したりした。
T夫は、対人関係がうまく取れない子である。ことごとくトラブルを起こす。帰りの会で、女の子のランドセルが顔に当たったという理由で、自分のランドセルを振り回して、力いっぱい相手の子に振り下ろした。私は、力で押さえつけて席に着かせた。T夫は「いっつも、大人は力でやるから、嫌なんだよ!」「幼稚園の時から、いっつも、悪者にされていたから」と泣きながら、私に抗議してきた。彼は、自分の思いである悲しさ、辛さ、嘆き、恨みなどを聞いてもらえていなかったのだろう。その後、T夫はA子と同じ班になり、学習援助を続けたり、学級内ドッジボールやサッカークラブで楽しむようになった。また、三年の三学期から始まった「保健室登校」のS男に、寄り添い始めてもいる。
仔どんな指導が正当性を持つのかを
二人とも、他の子ども達と共に朝、登校すると校門の近くにある学級園をのぞいていく。「野菜に『大きくなったね』とやさしく声をかけてあげると、大きくなるんだよ」と話すと、「声をかけてあげないと、いじけちゃうんだよね。野菜もね」と、A子は言う。「違うよ。野菜は自分から言わないけど、人は自分から言わなくちゃだめなんだよ。わかってもらえないんだよ」とT夫が応える。A子、T夫は、私や学級の子ども達とも相互に「出会い直し」が始まり、「避難所」と「居場所」を持ち始めたようである。
今大会の基調では、「対話・討論・討議」を通じて、教師と子ども、子ども達どうしの出会い直し=相互応答性を持った関係をつくることが実践を拓くこと、「教育の公共性」を築く学校づくりとして、三つの共同の重要性を述べている。そのなかで「一人の子どもをめぐって、どんな指導が正当性を持つのかという判断が交わされるコミュニケーションの場=公共空間を創り出すこと」を教師の共同として強調している。
この二人と私、学級の子ども達との出会い直しについて、校内研修などで報告し学習しあっている。
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- 明治図書