- はじめに
- 一 見学のまとめさせ方の基本
- (1) 見学の事前指導の基礎基本
- 見学先の情報をできる限り集めさせる/ スーパーマーケットの売り場の設計図をかかせる/ 見学のマナーの指導
- (2) 見学メモの取らせ方の基礎基本
- 見学メモはノートに書かせる/ メモはできるだけたくさん書かせる/ ノートへの書き方を指導する
- (3) 見学メモ活用のための基礎基本
- (4) 見学メモとKJ法
- (5) 見学のまとめは子どもたち一人一人に作成させる
- 大きな掲示物は必要ない/ フォーマットを与えて書かせる
- (6) 礼状の書き方
- 二 見学のまとめを活かした授業づくり
- (1) 見学のまとめを活かした授業の組み立て方のポイント
- (2) レポートにまとめる
- 清掃センターのパンフレットを使って情報を集める/ 悪いものを出さないための工夫を選ぶ/ 清掃センターの工夫をレポートにまとめる
- (3) 紙芝居にまとめる
- パソコンのプレゼンテーション・ソフトを利用する/ パソコンを使った紙芝居づくり
- (4) 社会科新聞にまとめる
- 第二清掃センターの見学/ 一字読解指導を使って情報を整理する/ 「見開き二ページ」にまとめる
- (5) 討論へと広げる
- 三 学年別授業実践
- 1 見学のまとめを活かした三年生の授業
- 見学をただのお遊びで終わらせないために/ 第一時 スーパーマーケットのイラストを読み取る/ 第二時 売るための工夫をイラストから見つけ出す/ 第三・四時 スーパーマーケットの見学/ 第五時 見学メモに○×△をつける/ 第六時 見学メモの△を追究する/ 第七時 アンケート用紙は売るための工夫か/ 第八時 売るための工夫探し 先生問題に挑戦/ 第九時 おうちの方へのアンケート/ 第十時 ノートを使ったまとめ/ 第十一・十二・十三時 パソコンを使ったまとめ/ 保護者会でレポートを見せる
- 2 見学のまとめを活かした四年生の授業
- 見学先に行くまでの授業も重要である/ ゴミステーションの見学にでかける/ ゴミステーションに鍵をかける理由/ ゴミ収集車で働く人にインタビュー/ ゴミステーションの見学で分かったことを指名なし発表/ 「土地の特色を生かした伝統産業」での実践/ ネットを使って越前和紙に関する情報を集める/ 和紙の里の見学/ 越前和紙を知ってもらうための工夫は何か/ 情報を整理し、レポートにまとめさせる/ 観光パンフレットにまとめさせる
- 3 見学のまとめを活かした五年生の授業
- 完成した形をイメージする/ マツウラニュースに子どもたちのレポートが掲載/ フォーマットを与える/ 見学前に、モノを手に入れる/ 金型を使って工作機械の働きを理解させる/ 南江守生産組合を見学する/ 農業協同組合の支所に電話をする/ 見学のまとめにKJ法を活用する/ 四つ程度のまとまりに整理して題名をつける/ 情報産業と新聞/ 新聞は二十年後まで生き残っているのか/ ごっこ活動と見学
- 4 見学のまとめを活かした六年生の授業
- 東大寺見学の事前指導/ 社会科ノートを集めておく/ 東大寺での失敗/ メモをわかりやすくさせる/ 東大寺と世界遺産の関係/ 三つの視点に対して自分の解を持たせる/ ノート見開き二ページでまとめさせる/ 取り組めなかった課題
- おわりに
はじめに
社会科の授業を楽しくする工夫は、たくさんある。
しかも、簡単な方法である。知ってさえいれば、誰にでもできる。準備もほとんどいらない。
そんなにうまい方法があるのかと思われる方も多いだろう。
でも、本当である。
その方法を知っているので、私は三〇年以上も楽しく社会科の授業を続けてくることができた。
もちろん、私だけが自己満足しているわけではない。子どもたちも私の社会科の授業を楽しみにしていてくれる。行事などで社会科の授業がつぶれると文句が出るぐらいであった。
国語や算数の教え方にコツがあるように社会科の授業にもコツがある。
そのコツは何かというと、実は簡単なことである。
資料から授業に入るということである。
たった、これだけのことである。しかも、その資料は教科書や資料集に掲載されている資料でいいのである。
教科書に掲載されている資料は、大きく分類すると次の三つである。
@ 写真や図、絵などの資料
A グラフなどの統計資料
B 「農業組合のAさんの話」のような文字資料
社会科として重要なのは、@の写真類とAの統計資料である。この二つから授業に入ることが社会科授業を楽しくするコツである。
ただし、コツを習得するにはある程度の修業が必要である。修業とは、正しい方法をまねていきながら自分のものにしていくということである。修業は、基本から入っていくのが最も効率的である。基本から学んでいけば、コツはすぐに習得できる。
少し具体的に話をしよう。
まず、写真資料の活用方法である。
次頁の写真は三年生の「福井市の様子」のために私が撮影した写真である。
海辺の狭い土地を利用して棚田をつくっている様子を理解させることをねらったものである。
この写真だが、いきなり「棚田」をとりあげたりはしない。まずは、この写真に写っているものを徹底して読み取らせる。次の指示を出すのである。
指示 この写真を見て分かったこと、気がついたこと、思ったことをノートに書きなさい。1、2、3と番号をつけながら箇条書きで書きなさい。
(写真省略)
つまり、写真の中にある情報を徹底して読み取らせるのである。「海がある」「島が見える」「田んぼが階段みたいになっている」「少し高いところだと思う」「もうすぐ田植えをするのだと思う」というようにである。断片的でよい。徹底して情報を集めさせる。
教師は、子どもたちが写真の中から読み取ったことに感心したり、ほめたりしていればよい。子どもたちは夢中になって活動するはずである。
こうして写真に写っている場所の情報を蓄積させた上で、土地の様子について踏み込んでいく。階段のようになっている田のことを棚田ということ、棚田の農作業は大変なことを押さえていき、どうして、このあたりに棚田が多いのかと問うのである。
つまり、ある程度情報を蓄積させた上で、発問を出すのである。こうしたステップを踏めば、活発な討論ができる。
次に、グラフなどの統計資料の扱い方である。
(図省略)
社会科における統計資料の指導は、三年生からはじまる。その指導の第一歩は、棒グラフをつくるところからはじめる。
いきなり棒グラフの作成、と思うかもしれない。
しかし、子どもたちにつくらせることによってグラフの特色が理解できるようになるのである。
例を挙げてみよう。三年生の「お店の働き」のところに「買い物調べ」のグラフが登場する。これは、子どもたちに調べさせてつくるグラフである。家に帰って母親などに、買い物を一番よくする店を聞いてこさせ、その結果を表に整理して、グラフにまとめていく。
こうした指導にもコツがある。
まず、子どもたち一人一人に調べてきたことを発表させていき、教師が黒板によく買い物に行くお店の表をつくる。次に、その表をグラフに仕上げていく。このときにノートを使うことがコツである。わざわざグラフの枠を印刷したプリントを準備する必要はない。教師が指導してノートに書かせるのである。
次にシールを準備しておく。ごく普通の丸いシールである。写真のように棒の部分にシールを貼り付けさせていく。シール貼りは子どもたちの大好きな活動である。喜んで取り組む。こうして買い物調べのグラフのできあがりである。表と違って、どのお店で一番買い物をしているのかがすぐに分かる。
私の場合は、ここで終わりではない。事前にもう一つのことを調べさせておく。それは、そのお店によく行く理由である。例えば「家から近い」「新鮮な物がある」「値段が安い」などである。
(図省略)
これを使ってもう一つグラフをつくらせる。ただし、今度は、一回目ほど指導を丁寧に行わない。
まず、表に整理することは、同じように教師がする。次に、グラフの表題と枠づくりだけ一緒に行う。後は、子どもたちにまかせてしまう。この方が力がつくのである。もちろん指導が必要な子には、個別に指導をする。
こうして図のようなグラフができあがる。その結果、近いお店によく行くということが分かる。
このようにして資料から授業へと進んでいく。活動が中心となるので、子どもたちも喜ぶ。その上で、お店で働く人の工夫へと切り込んでいくのである。
ところで、社会科にはもう一つ大切な学習がある。それは社会科見学である。
町工場の見学、消防署の見学、警察署の見学、クリーンセンターの見学、スーパーマーケットの見学、自動車工場の見学、歴史博物館の見学等々である。
社会科は、事例を通して学ぶ教科であるから、直に観察できたり体験できたりする見学は非常に重要である。
ところが、この見学を授業にどう活かすかという点で悩んでいる先生方も多いと聞く。模造紙にまとめさせてはみたが、どのような力がついたのかがよく分からない。社会科新聞をつくらせてみたが、資料を丸写ししただけだった。こうした声が聞こえてくる。
時間とお金をかけて行った見学が、子どもたちの社会を見る目を育てることにつながらないというのは、非常に寂しいことである。
実は、見学を毎日の授業に活かしていく方法についてもちゃんとした方法があるのである。
一つは、見学メモをノートに書かせるということである。これは、できるだけたくさん書かせる。番号も打たせる。
次に、それらのメモを、目的に沿って選ばせることである。消防署の見学であるなら、「火事を防ぐための工夫」でよい。こうして情報を集め、それに選択をかける。
この選択の部分が、多くの授業で欠落している。だから、資料の丸写しなどが生じてしまうのである。情報は選択してこそ、価値が出る。その上で、レポートなどにまとめさせていけばよい。
このような指導技術というかコツを知っているのと、知らないのでは大きな違いが出る。
本書は、こうしたコツを身につけるための入門書である。本シリーズで紹介した事例を参考にしながら、実際に実践することでコツを身につけていくことができる。
本シリーズは、次の三冊から構成されている。
1 写真類読み取りの授業
2 グラフや統計資料の読み取りの授業
3 見学のまとめを活かす授業
本シリーズを通してまずは、社会科指導の基本を身につけていただきたい。
その上で、社会科授業の本当の醍醐味を味わっていただきたいと願っている。
社会科授業の本当の醍醐味とは、フィールドワークにある。工場で働く人の声を直に聞いたり、地区の歴史の会の方から話を聞き取ったり、図書館に通い詰めて資料を集めたりと、足でかせいだ資料をもとに授業をすることである。こうした授業に一人でも多くの先生がチャレンジしてくださることが、本シリーズの作成に関わった社会科が大好きな教師集団の願いでもある。
最後に、本書で紹介した実践の多くは、向山洋一氏の実践から学んだものである。向山氏には、日頃から温かいご指導を受けている。ここでお礼を申し上げたい。
また、明治図書の江部満編集長には、本書の企画から執筆にいたるまで、さまざまなご指導をいただいた。お礼を申し上げたい。ありがとうございました。
/吉田 高志
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