- はじめに
- 一 グラフや統計資料の読み取りの基本
- (1) 読み取りを始める前に
- (2) 最初に三つのことを問う
- (3) 次に二つのことを問う
- (4) グラフの傾向五つを問う
- (5) 変化の原因を追究する
- (6) 棒グラフの読み取り方の基礎基本
- @ 一番多いものや場所などの比較や分布を表したグラフ
- A 年ごとの変化を表したグラフ
- (7) 折れ線グラフの読み取り方の基礎基本
- (8) 割合のグラフの読み取り方の基礎基本
- @ 割合のグラフの読み取り方
- A 変化の原因を問う
- B 割合のグラフが二つの場合の読み取り方
- (9) 複数のグラフや複合グラフの読み取り方の基礎基本
- @ 複数のグラフの読み取り方法
- A 複数の資料を時間差で提示する
- B 複数の資料を同時に提示する
- C 複合グラフの読み取り方法
- 二 グラフや統計資料の読み取りを活かした授業づくり
- 1 グラフや統計資料の読み取りと一字読解指導
- (1) 一字読解指導とは
- (2) 一字読解指導でグラフを読み取らせる
- (3) その後の展開例
- (4) 一字読解指導で教科書(文章資料)も読み取らせる
- 2 グラフや統計資料の読み取りから調べ学習へと広げる
- (1) どうして調べ学習につなげるのか
- (2) 調べ学習では、証拠となる表やグラフを見つけさせる
- (3) 五年生、工業生産と工業地域、運輸の授業(東京書籍)
- 3 グラフや統計資料読み取りから討論へと広げる
- (1) 討論を行うために必要なこと
- (2) 六年生、世界の平和と日本の役割(東京書籍)
- 三 学年別授業実践
- 1 三年の実践
- ◆買い物調べ
- (1) 初めてのグラフ
- (2) 調べ方・記録の仕方を教える
- (3) 調べた結果をグラフに表す
- (4) もらったデータは加工して出す
- 2 四年の実践
- ◆安全なくらし
- (1) 単元指導計画
- (2) 授業展開
- 3 五年の実践
- [1] 水産業の変化(東京書籍)
- (1) 遠洋漁業の生産量が減った理由
- (2) 他の漁業の変化を読む
- (3) 育てる漁業への変化
- [2] わたしたちの生活と森林(東京書籍)
- (1) 林業と危険な作業
- (2) 日本の木材輸入量を読み取る
- (3) 林業の明るい未来をさぐる
- 4 六年の実践
- [1] 世界に歩みだした日本
- (1) 統計資料を、日本が勝った原因を調べさせる材料に使う
- (2) 授業の流れ
- [2] 平和で豊かなくらしを目ざして
- (1) 統計資料で戦中戦後のくらしの変化を実感させる
- (2) 授業の流れ
- おわりに
はじめに
社会科の授業を楽しくする工夫は、たくさんある。
しかも、簡単な方法である。知ってさえいれば、誰にでもできる。準備もほとんどいらない。
そんなにうまい方法があるのかと思われる方も多いだろう。
でも、本当である。
その方法を知っているので、私は三〇年以上も楽しく社会科の授業を続けてくることができた。
もちろん、私だけが自己満足しているわけではない。子どもたちも私の社会科の授業を楽しみにしていてくれる。行事などで社会科の授業がつぶれると文句が出るぐらいであった。
国語や算数の教え方にコツがあるように社会科の授業にもコツがある。
そのコツは何かというと、実は簡単なことである。
資料から授業に入るということである。
たった、これだけのことである。しかも、その資料は教科書や資料集に掲載されている資料でいいのである。
教科書に掲載されている資料は、大きく分類すると次の三つである。
@ 写真や図、絵などの資料
A グラフなどの統計資料
B 「農業組合のAさんの話」のような文字資料
社会科として重要なのは、@の写真類とAの統計資料である。この二つから授業に入ることが社会科授業を楽しくするコツである。
ただし、コツを習得するにはある程度の修業が必要である。修業とは、正しい方法をまねていきながら自分のものにしていくということである。修業は、基本から入っていくのが最も効率的である。基本から学んでいけば、コツはすぐに習得できる。
少し具体的に話をしよう。
まず、写真資料の活用方法である。
次頁の写真は三年生の「福井市の様子」のために私が撮影した写真である。
海辺の狭い土地を利用して棚田をつくっている様子を理解させることをねらったものである。
この写真だが、いきなり「棚田」をとりあげたりはしない。まずは、この写真に写っているものを徹底して読み取らせる。次の指示を出すのである。
指示 この写真を見て分かったこと、気がついたこと、思ったことをノートに書きなさい。1、2、3と番号をつけながら箇条書きで書きなさい。
(写真省略)
つまり、写真の中にある情報を徹底して読み取らせるのである。「海がある」「島が見える」「田んぼが階段みたいになっている」「少し高いところだと思う」「もうすぐ田植えをするのだと思う」というようにである。断片的でよい。徹底して情報を集めさせる。
教師は、子どもたちが写真の中から読み取ったことに感心したり、ほめたりしていればよい。子どもたちは夢中になって活動するはずである。
こうして写真に写っている場所の情報を蓄積させた上で、土地の様子について踏み込んでいく。階段のようになっている田のことを棚田ということ、棚田の農作業は大変なことを押さえていき、どうして、このあたりに棚田が多いのかと問うのである。
つまり、ある程度情報を蓄積させた上で、発問を出すのである。こうしたステップを踏めば、活発な討論ができる。
次に、グラフなどの統計資料の扱い方である。
(図省略)
社会科における統計資料の指導は、三年生からはじまる。その指導の第一歩は、棒グラフをつくるところからはじめる。
いきなり棒グラフの作成、と思うかもしれない。
しかし、子どもたちにつくらせることによってグラフの特色が理解できるようになるのである。
例を挙げてみよう。三年生の「お店の働き」のところに「買い物調べ」のグラフが登場する。これは、子どもたちに調べさせてつくるグラフである。家に帰って母親などに、買い物を一番よくする店を聞いてこさせ、その結果を表に整理して、グラフにまとめていく。
こうした指導にもコツがある。
まず、子どもたち一人一人に調べてきたことを発表させていき、教師が黒板によく買い物に行くお店の表をつくる。次に、その表をグラフに仕上げていく。このときにノートを使うことがコツである。わざわざグラフの枠を印刷したプリントを準備する必要はない。教師が指導してノートに書かせるのである。
次にシールを準備しておく。ごく普通の丸いシールである。写真のように棒の部分にシールを貼り付けさせていく。シール貼りは子どもたちの大好きな活動である。喜んで取り組む。こうして買い物調べのグラフのできあがりである。表と違って、どのお店で一番買い物をしているのかがすぐに分かる。
私の場合は、ここで終わりではない。事前にもう一つのことを調べさせておく。それは、そのお店によく行く理由である。例えば「家から近い」「新鮮な物がある」「値段が安い」などである。
(図省略)
これを使ってもう一つグラフをつくらせる。ただし、今度は、一回目ほど指導を丁寧に行わない。
まず、表に整理することは、同じように教師がする。次に、グラフの表題と枠づくりだけ一緒に行う。後は、子どもたちにまかせてしまう。この方が力がつくのである。もちろん指導が必要な子には、個別に指導をする。
こうして図のようなグラフができあがる。その結果、近いお店によく行くということが分かる。
このようにして資料から授業へと進んでいく。活動が中心となるので、子どもたちも喜ぶ。その上で、お店で働く人の工夫へと切り込んでいくのである。
ところで、社会科にはもう一つ大切な学習がある。それは社会科見学である。
町工場の見学、消防署の見学、警察署の見学、クリーンセンターの見学、スーパーマーケットの見学、自動車工場の見学、歴史博物館の見学等々である。
社会科は、事例を通して学ぶ教科であるから、直に観察できたり体験できたりする見学は非常に重要である。
ところが、この見学を授業にどう活かすかという点で悩んでいる先生方も多いと聞く。模造紙にまとめさせてはみたが、どのような力がついたのかがよく分からない。社会科新聞をつくらせてみたが、資料を丸写ししただけだった。こうした声が聞こえてくる。
時間とお金をかけて行った見学が、子どもたちの社会を見る目を育てることにつながらないというのは、非常に寂しいことである。
実は、見学を毎日の授業に活かしていく方法についてもちゃんとした方法があるのである。
一つは、見学メモをノートに書かせるということである。これは、できるだけたくさん書かせる。番号も打たせる。
次に、それらのメモを、目的に沿って選ばせることである。消防署の見学であるなら、「火事を防ぐための工夫」でよい。こうして情報を集め、それに選択をかける。
この選択の部分が、多くの授業で欠落している。だから、資料の丸写しなどが生じてしまうのである。情報は選択してこそ、価値が出る。その上で、レポートなどにまとめさせていけばよい。
このような指導技術というかコツを知っているのと、知らないのでは大きな違いが出る。
本書は、こうしたコツを身につけるための入門書である。本シリーズで紹介した事例を参考にしながら、実際に実践することでコツを身につけていくことができる。
本シリーズは、次の三冊から構成されている。
1 写真類読み取りの授業
2 グラフや統計資料の読み取りの授業
3 見学のまとめを活かす授業
本シリーズを通してまずは、社会科指導の基本を身につけていただきたい。
その上で、社会科授業の本当の醍醐味を味わっていただきたいと願っている。
社会科授業の本当の醍醐味とは、フィールドワークにある。工場で働く人の声を直に聞いたり、地区の歴史の会の方から話を聞き取ったり、図書館に通い詰めて資料を集めたりと、足でかせいだ資料をもとに授業をすることである。こうした授業に一人でも多くの先生がチャレンジしてくださることが、本シリーズの作成に関わった社会科が大好きな教師集団の願いでもある。
最後に、本書で紹介した実践の多くは、向山洋一氏の実践から学んだものである。向山氏には、日頃から温かいご指導を受けている。ここでお礼を申し上げたい。
また、明治図書の江部満編集長には、本書の企画から執筆にいたるまで、さまざまなご指導をいただいた。お礼を申し上げたい。ありがとうございました。
/吉田 高志
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- 明治図書
- 具体的な発問・指示が参考になる。2018/9/2450代・大学勤務