- まえがき
- T よみがえれ地図を読む力
- 1 地図が読めない女はダメなのか
- (1)空間能力/ (2)イラストマップは正しいか?/ (3)総合的な学習と地図/ (4)生涯学習力としての「地図を読む力」
- 2 地図が描(か)けない子どもたち
- (1)出歩かない子ども/ (2)手描き地図/ (3)地域学習/ (4)からだで学ぶ地図学習/ (5)子どもも歩けばネタに当たる/ (6)地図認識は言語より先行する
- 3 地形図を読む力はマニアックなのか
- (1)地形図って人気?/ (2)地形図マニア/ (3)地形図はオイシイ!/ (4)等高線は誤解されやすい?/ (5)地形図から情報を得る
- 4 地図学習の基礎・基本をどうとらえるか
- (1)漢字は教えても地名はなぜ教えないのか/ (2)外国地名記憶の適時/ (3)地図の好き嫌い
- 5 基礎・基本を身に付けるために
- (1)地図は風景を読む言語/ (2)「地図の力」の効用/ (3)生活科が子どもの地図世界を拡げている!?/ (4)旅行学習は魅力がいっぱい
- ■コラム1 指旅行
- 6 地球を教えない日本の社会科
- (1)低下している(?)地球理解度/ (2)地図を通して自然地理学習の復権を/ (3)小学校地理教育カリキュラム/ (4)初等地理教育の再認識を
- U 地図帳を使う方法
- 1 地図帳の効果的活用例
- (1)3・4年における地図活用―「わたしたちの◯◯市」「わたしたちの◯◯県」―/ (2)県学習は特色探しで面白くなる―熊本県を例に―/ (3)地図と統計を使って県学習/ (4)国土理解の学習はココがポイント!/ (5)日本の気候の特徴をどうとらえるか/ (6)日本の農業,水産業とわたしたちのくらし―運輸の働きを学ぶ―の扱い
- ■コラム2 擬似法
- 2 地図帳活用の基礎
- (1)地図帳以前を大事にしよう(1.絵地図を描かせよう/2.掛地図を床に敷く/3.世界像形成のツールとしての地図帳/4.地図学力と「生きる力」) (2)地図帳内容の基礎・基本は何か(1.学習活動とリンクして記号を扱おう/2.八方位と関係位置を理解させよう/3.縮尺は「かんたんものさし」も使って/4.等高線は段彩の学習で)
- V 学習指導要領と地図活用
- 1 小学校社会科はどう変わったか
- 2 どんな学習能力を地図活用で育むのか
- (1)地図帳が教室で使われていない?!/ (2)地図はどんな力を育むのか/ (3)ガリバーとアリスの眼/ (4)家庭における地図活用(1.サウンド・スケープ大作戦/2.地理もの番組チェック大作戦/3.旅行計画づくり大作戦)/ (5)都道府県の構成を教えよう
- 3 中学校社会科地理的分野はどう変わったか
- (1)学生の地理教育体験から見えるもの/ (2)新学習指導要領のねらいと地図帳の役割(1.社会科改訂のポイント/2.中学校社会科での『地図帳』の役割/3.社会科以外での地図活用と育みたい力) (3)生涯にわたって必要な地図活用能力
- 4 中学校地理的分野における県学習と世界の国学習の指導法
- (1)県学習の効果的指導法(1.位置を知る/2.場所を知る/3.テーマを決める/4.調べ方・調査手段を考える/5.まとめ方・発表方法を考える)/ (2)世界の国学習の指導法(1.位置を知る/2.環境を知る/3.情報量の差を知る/4.まとめ方・発表方法を考える)/ (3)範例的な学習への期待
- ■コラム3 額縁風景写真
- W 新しい地図・地理教育
- 1 これまでの地図・地理教育
- (1)地誌と系統地理/ (2)学習指導要領における地理教育の内容(1.同心円拡大に偏った学習領域/2.地理的学習技能)
- 2 発生的地理教育論
- (1)子ども自身の地理的発見期/ (2)地名記憶の意義/ (3)「外国への旅」学習
- 3 地理的教養
- (1)地理的教養を支える5つのテーマ/ (2)地図の力
- ■コラム4 伊能忠敬を追体験する
- 4 新しい現代的課題を取り込んだ内容
- (1)環境教育/ (2)異文化理解・開発教育/ (3)まちづくり/ (4)生涯学習
- 5 これからの地理教育研究の領域
- (1)研究領域の全体像/ (2)空間知覚研究の発展/ (3)地図指導法研究の必要性
- ■コラム5 掛地図の指導法
- あとがき
まえがき
いま,学力低下への関心が高まっている。学校五日制に伴う土曜日休みへの対応が十分でないことへの不安とともに,学習内容の三割削減がその背景にある。社会科も例外ではない。学習内容の選択や重点化,上位学年への移行など,教える内容の縮減は事実である。
その中で,地図に関係する学習は,ほとんど話題にでないほど等閑視されてきた。これは,国民にとっての地理教育という観点に立てば,従来にも増して危機的な状況にあるといえる。小学校段階で言えば,生活科という低学年の教科が一定の成果をあげて定着した反面,地図や空間認識形成にかかわる学習機会は著しく軽薄化している。入門期の地図学習といった系統的な扱いはまったく意識されなくなってしまった。
社会科に話題を戻してみよう。社会科学習が第3学年から開始されるため,地図という教材についても3年生からしか扱われない事態に陥っている。地図の基礎・基本が養われていないままで,いきなり平面地図への移行が指導されるため,理解が及ばない児童も生じている。『地図帳』に至っては,従来通り,第4学年から配布されるが,「総合的な学習の時間」の内容によっては,第3学年からすでに英会話学習などが開始されるため,外国への関心が高まっているにもかかわらず,その関心にうまく応えられていない。しかも,多くの学級では地図帳を国土や産業の学習に絡めて第5学年のみに限ってしか,使用できていない実態もある。
これでは,児童の心理的発達に応じた自県や国土理解に支障をきたすばかりでなく,地理的思考力や世界像形成にも重大な欠陥が生じる危険がある。事実,今回の学習指導要領の改訂では,国土に視野を広げる学習(「気候の違いに応じたいろいろな土地の暮らし」)は第4学年から第5学年に遅れてしまっている。外国についての学習も6年生の3学期になって初めて経験するというように,国土や世界に関する社会科での学習時期の遅さには一抹の不安を隠せない。
中学校社会科地理的分野に至っては,時間数削減のためとはいえ,いわゆる日本地誌や世界地誌に相当するようにまんべんなく府県や国々を学習する機会が失われてしまい,わずか二つ又は三つ程度の県や国を学習すればよいため,国土や世界の多様性に対する関心そのものが薄らがなければいいが,と疑問を感じているのは筆者だけではないだろう。
一方で,地図学習をめぐる状況が大きく変わってきている中で,実社会での地図情報の増加は否めない事実となっている。イラストマップや旅行情報の氾濫,カーナビゲーションやGIS(地理情報システム)の登場など,日常生活をおくる上で地図の活用が求められる機会は確実に増えている。このような状況のなかで,21世紀に生きる子どもを育てるために,これからの地図学習はどうあったらよいのか。ここに本書を著した最大の問題意識がある。
本書は,次の四つの章から構成されている。T章「よみがえれ地図を読む力」では,地図学習が振るわなくなってしまった原因とその打開策について多角的に論じた。次にU章「地図帳を使う方法」では,T社の地図帳を例に地図帳の具体的な活用法について筆者のアイデアを紹介した。V章「学習指導要領と地図活用」では,新しい学習指導要領の中で地図がどう扱われているかについて論述した。そしてW章「新しい地図・地理教育」では筆者が以前から暖めていた発生論的な立場に立った地理教育論を展開することを試みた。
末尾になったが,本書の刊行にあたっては明治図書出版株式会社編集長の樋口雅子氏から貴重なアドバイスを頂戴した。また,恩師,朝倉隆太郎(元筑波大学教授)と斎藤毅(立正大学教授)の両先生からは豊かな着想に学ばせて頂いた。この場を借りて心から感謝申し上げたい。
/寺本 潔
地理分野はどこにでもつながっていく重要なもの!
ということを改めて認識しました。これからの授業作り
にも活用していけそうです。
ただ、随所に「女性は地図が読めない…」という感じの
記述があるのが気になりました。地理をやっている
女性も実は結構いるんですよー。