- プロローグ 近代の歴史遺産は魅力がいっぱい!
- T 教材としての近代の歴史遺産
- 第1章 小学校社会科教科書に描かれた近代
- 1 黎明の明治期/2 近代を支えた優れた日本人とハイカラ文化/3 小学校社会科教科書改善への視点
- 第2章 近代の歴史遺産を捉える四つのコンセプト
- 1 近代の歴史遺産を捉えるための切り口/2 指導の流れ
- 第3章 子どもにとっての歴史遺産
- 1 子どもたちに時間的広がりを/2 「もの」から「人」へ/3 類推する力を/4 興味・関心を/5 過去から現在・そして未来へ/6 過去から未来へ
- コラム 横浜はじめて物語―馬車道豆知識―
- U 近代の歴史遺産を活かした社会科授業
- 第1章 東京・日本橋を調べる子どもたち
- 第2章 名古屋に残る中川運河を題材とした近代化遺産学習の可能性
- 1 近代化遺産としての中川運河の価値/2 地理教育の視点から見た中川運河の価値/3 環境デザインの視点から見た中川運河の魅力/4 中川運河を題材とした学習計画
- 第3章 北海道開拓の歴史遺産から学ぶ
- 1 発掘される『北海道遺産』/2 遺産「サッポロビール工場」/3 歴史遺産「札幌時計台」/4 遺産「北海道交通記念館」/5 北海道開拓の村
- 第4章 「薩摩切子」の輝き〜日本初の近代的工場群集成館のモノづくり
- 1 鹿児島の近代の産業について学習しよう!/2 調べるテーマを考えよう!/3 薩摩切子について調べてみよう!/4 日本の近代の産業発祥の地である磯地区を歩こう!/5 薩摩切子を作ってみよう!/6 薩摩切子について学習したことをまとめてみよう!/7 薩摩切子の素晴らしさをアピールしよう!/8 薩摩切子の学習を生かして
- 第5章 横浜ハイカラ物語昔、横浜駅は海だったの巻
- 1 はじめに/2 昔,横浜駅は海の中だった!/3 桜木町駅が横浜駅であった!/4 横浜に鉄道を敷くために海を埋め立てた高島嘉右衛門さん/5 高島嘉右衛門さんってどんな人?/6 どうやって埋め立てたの?/7 埋め立てに反対だって!/8 今の横浜をどう思っているのだろう?
- コラム 横浜はじめて物語―郷土で見つけた文明開化―…78
- V 近代歴史遺産学習の指導法
- 第1章 近代に生きた偉人の業績から迫る方法
- 1 記念碑や銅像から/2 名言(言葉)から/3 資料館・郷土館/4 道具/5 建造物・建物/6 行事・習慣/7 その他
- 第2章 技術革新や発明発見から迫る方法
- 1 社会貢献の願いで技術は革新する/2 洋書の翻訳で技術を習得した反射炉建設
- 第3章 従業員のライフヒストリーから迫る方法
- 1 ローウェルで見た光景/2 『富岡日記』に学ぶ
- 第4章 古い写真の読み取りから迫る方法
- 1 要素を読み取る/2 調べる・確かめる/3 関係づける・意味づける
- 第5章 構造物の実測から迫る方法
- コラム 薩摩藩の財政を支えた「山ヶ野金山」を探る
- W 近代の歴史遺産を教育に活かすアングル
- 第1章 近代歴史遺産を訪ねる産業観光
- 1 産業観光とその教育/2 自動車産業の学習をトヨタでワイドに展開する/3 食育と絡めて産業観光の教育を/産業観光の教育的活用法
- 第2章 地域再発見につなげるふるさと学習
- 1 地域再発見のために/2 地名からふるさと再発見/3 石山通と開拓へ/4 石山通と馬車鉄道
- 第3章 歴史・科学博物館との連携
- 1 足で見る/2 里塚という地名/3 旧国道36号(札幌本道)/4 三里塚はどこ?/5 島松駅逓/6 清田区の「まちづくりビジョン2020」/7 歴史・博物館との連携
- 第4章 国土に残された社会資本を学ぶ
- 1 社会資本の教育的価値/2 社会資本と近代歴史遺産としての意味/3 用・強・美の観点から見た土木遺産の価値
- エピローグ 近代歴史遺産の学習を社会科に
プロローグ近代の歴史遺産は魅力がいっぱい!
近代が暗い。歴史学習で教えられている近代は明治維新や大正デモクラシー,第二次世界大戦など政治的な内容に重点が置かれ,児童生徒にとって「お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの時代は苦労の連続で楽しいことは無かった。」と感じてしまうほど暗いのだ。
しかし,戦前の時代は決してモノクロでなく,ちゃんとカラーで描かれるにふさわしい明るい時代でもあった。だから,近代を力強く生き抜いた明るいイメージの時代で教えたいものである。かと言って,戦争に突き進んでいったかつての日本に賛意を表する教育をせよといっているのでもない。事実認識を通して近代日本をありのままに教えたいと願っているに過ぎない。
「明るい近代」を教える題材の一つに歴史遺産と呼ばれるモノがある。建物や土木,交通,産業などに関する物的な遺産である。部分的にはモノを介して学べる文化遺産も入れていい。戦前の建築になる木造やコンクリート校舎なども立派な教育という文化遺産である。
日本各地にそういった遺産は残されている。北は北海道から南は沖縄県まで近代の歴史遺産は各地に残されている。そういった具体的な物的遺産を児童生徒が訪れたり,大きさを測ったり,写真に撮ったり,スケッチしたり,思い出を記憶している人に尋ねたり,産業や土木,交通への貢献度を調べたりする学習を新しい歴史学習として推進できないかという提案が本書で狙いとしたい点である。
現在,世界遺産という言葉が人気である。その人気に乗じて地方別の遺産選定が進んでいる地区もある(例:北海道遺産)。いわば,地元の近代を語ることが出来るローカルな遺産である。あるものは,お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが始めて出会った公会堂であったり,4代前の味噌問屋の創始者が寄付した橋であったり,炭坑節で唄われている鉱山跡であったりするかもしれない。またあるものは,かつて山奥にあった分校に赴任した教師たちが利用した軽便鉄道のレール跡であったりするかもしれない。そういった近代のその土地の記憶がつまった遺産を活用した社会科学習や総合的学習を推進することが,児童生徒にとっても自分たちのルーツを確かめる貴重な学習機会となるはずだ。
本書はそういった「明るい近代」を教えたい力のある社会科教師たちによって執筆された教育書である。構成を説明しよう。
まず第1部は教材としての近代の歴史遺産を解説した。単に文化庁で推進している近代化遺産選定の作業からだけでなく,教育的な見地からどのような扱いができるかを検討してみた。いわば子どもにとっての歴史遺産とはどういった役割を担う教材なのかを明らかにした。
続く第2部は本書の骨格をなす実践記録である。各地で実践あるいは未だ実践はされていないが構想段階のものまでここに収めた。まとまった教育実践として読み応えのある内容になったのではないかと思う。
第3部は近代歴史遺産の指導法をコンパクトに解説してみた。歴史遺産にどういった光を当てれば近代の物語が編めるのか,5つの視点から述べてみた。そして最後の第4部が近代の歴史遺産を活用したこれからの教育展望にあたる。社会科歴史学習自体が近代の描き方に偏りがあることを反省し,具体的なモノや場所を介して学習を進めていく方法論を書いてみた。
筆者らの願いは,これまでともすればイデオロギー色を極端に恐れて「暗い近代」を教えがちだった歴史学習から,近代に生きた先人たちが少しでも暮らしや国を良くしていこうと努力した軌跡を扱うことで現代に生きる子どもたちが自分のルーツを肯定的に見つめていける教育書を作りたかったことである。本書がその緒となれば幸いである。末尾になったが本書の刊行を快く引き受けて頂いた明治図書の樋口雅子編集長並びに及川誠の両氏に感謝の意を表したい。
/寺本 潔
「明るい近代史授業を」との主張に強く共感。
近現代史の授業はどうしても戦争などが中心となり、歴史授業の最後に「つらい時代」「暗い時代」との印象が子どもに残ってしまうのが気になっていました。
そんな中、この本は「明るい近代史授業をつくるにはどうすればよいか」について一つの指標を与えてくれます。
本書のヒントを参考に身近な「ローカル遺産」を教材化してみよう、という気になりました。