- 序 小さな町の大きな挑戦
- まえがき
- ■第1章■ 田野町の歴史と文化と学校
- 1 田野町の歴史と文化
- ◇豊かな自然に恵まれた美しい田園の町
- ◇山林事業で栄えた町
- ◇幕末の歴史を飾る人物、弥太郎や龍馬や道之助ゆかりの地
- ◇英語に深い関わりのあるジョン万次郎と濱口雄幸と
- ◇進取の気風は脈々と
- ―■1 英語教師としてのジョン万次郎■―――
- 2 田野町の学校
- ◇「元気の森」田野幼稚園
- ◇「人間性・国際性豊かな人づくり」田野小学校
- ◇「行動する生徒の育成」田野中学校
- ―■2 田野町でたくさんの大きなきれいな花を■―――
- ■第2章■ 田野町における英語教育のあゆみ
- 1 文部省研究開発指定校
- ◇ALT・CIR事業の先駆け
- ◇どうせやるなら自分たちが
- 2 田野小学校の研究の特徴と成功の秘訣
- ◇研究開発の主題
- ◇教育課程の工夫
- ―■3 言語教育における異文化体験がもたらす効果■―――
- ◇研究の進め方
- ◇授業以外の常時活動
- ―■4 Let children listen to English as much as possible!■―――
- 幼いうちにできるだけたくさん英語を聞かせて(和訳)
- ■第3章■ 幼小中連携型英語教育のアプローチ
- 1 はじめに
- 2 連携の前に確認しておきたいこと
- ◇少ない学習負担で大きな効果を生む「決まり文句」
- ◇たっぷりインプットでゆっくりアウトプット
- ◇最終的に「正しいことばの形式」で伝達できればよい
- ―■5 「さあ君が鬼だぞ」英語で?■―――
- 3 「何」を連携するのか
- ◇まずは連携に向けての共通認識を
- ◇何を学習させるのか:教材の連携
- ◇どのような学習集団で学習させるのか:幼児・児童・生徒間の連携
- ◇どのような活動をさせるのか:指導法の連携
- ◇誰が指導するのか:教師の連携
- 4 「どのように」連携するのか
- ◇大切なのは率直に話し合うこと:英語担当者会
- ◇相互の授業公開で共通理解:授業交流
- ◇子どもたちだって連携だ!:合同授業
- ―■6 小学校英語に思う■―――
- ■第4章■ 10年間を見通した田野町英語教育の展開
- 1 「英語音声の基礎づくり」と「文字学習」
- ◇10年間の実践見通し
- ◇英語音声の基礎づくり
- ◇文字の学習(「読む」)
- ◇文字の学習(「書く」)NO PENCILS, NO PENS!
- ◇「英語音声の基礎」から「文字学習」へ
- 2 学年進行の具体的学習目標
- 3 10年間を見通した英語年間指導計画
- 4 評価の規準
- ―■7 相互に理解しあえる英語の勉強を■―――
- ■第5章■ 英語音声の基礎づくり
- 1 これまでのあゆみ
- 2 幼稚園での「わくわく英語」
- ◇これまでに浮かび上がってきた課題
- ◇長期的な目標
- ◇短期的な目標
- ◇週指導時数
- ◇評価について
- (1) 評価についての基本的な視点 /(2) 評価の方法
- ◇英語学習の実際
- (1) 活動の内容 /(2) 幼小中の連携 /(3) 学習環境づくり
- ◇成果と課題
- (1) 「英語音声の基礎づくり」と英語活動のあり方について /(2) 幼小中の連携
- ◇まとめ
- ―■8 私はミス・スプリング? モンゴル人?■―――
- 3 田野小学校での「楽しい」英語学習
- ◇英語教育開発の経緯
- ◇見えてきた課題
- ◇具体的な取り組み
- ◇子どもたちの変容
- ―■9 Bridging the gap■―――
- 小中英語教育の橋渡し(和訳)
- ■第6章■ 楽しい文字学習への挑戦
- 1 失敗から学ぶ
- ◇失敗1:1度に大量の文字を導入する
- ◇失敗2:鉛筆で機械的に文字を書かせる
- ◇失敗3:文字学習の単元を設定する
- ―■10 新聞広告の裏で文字学習!?■―――
- 2 文字学習のあゆみ
- ◇文字学習の導入時期
- ◇1年次の取り組み
- ◇2年次の取り組み
- ◇3年次の取り組み
- 3 文字学習の3つの秘訣
- ◇秘訣1:1回に取り上げる文字の量を考える
- ◇秘訣2:ローマ字学習と文字学習の時期を考える
- ◇秘訣3:子どもたちが熱中する教材・教具を考える
- ―■11 アルファベットは楽しく学びたい(その1)■―――
- 4 楽しい文字学習のための活動事例
- ◇文字を読む活動(視覚に訴える)
- (1) アルファベット並べ替えゲーム(その1) /(2) 宝探しゲーム /(3) アルファベットマッチングゲーム /(4) アルファベット並べ替えゲーム(その2) /(5) アルファベット当てゲーム /(6) アルファベット神経衰弱 /(7) アルファベットツイスター /(8) アルファベットカルタ /(9) 絵カード・単語マッチングゲーム /(10) アルファベットボードづくり /(11) アルファベット並べ替えゲーム(その3) /(12) パチパチアルファベット /(13) 単語カードカルタ・神経衰弱 /(14) 注文ゲーム /(15) 単語カードビンゴゲーム /(16) 文字(単語)カードジャンケン陣取りゲーム /(17) 記憶力ゲーム /(18) 文字(単語)カード伝言ゲーム /(19) 校内の物の名前を英語で覚える /(20) 校内で使う物の名前を覚える /(21) 単語ババヌキゲーム /(22) 天気・曜日のマッチングゲーム /(23) 仮想家族ゲーム /(24) 町にある建物の名前を覚える
- ―■12 アルファベットは楽しく学びたい(その2)■―――
- ◇文字を書く活動(文字をつくる)
- (1) 自分の名前をつくる /(2) 宝探しゲーム /(3) 表現カードを組み合わせて手紙をつくる /(4) 手づくりのクリスマスカード /(5) メイキング・ザ・ワードゲーム(その1) /(6) 文字学習を取り入れた買い物ゲーム /(7) 各学年の名簿一覧表をつくる /(8) 各学年の時間割表をつくる /(9) 単語カードをはって一覧ポスターをつくる /(10) 校内の案内板をつくる /(11) タッチ&タッチ・アルファベット /(12) メイキング・ザ・ワードゲーム(その2) /(13) ドッキング単語づくり /(14) 文字を補って単語づくり /(15) パソコンを使った文字学習(情報教育との連携) /(16) 英語力テストラリー
- 5 文字学習のための環境づくり
- ◇全校用掲示板
- ◇学年用掲示板
- ◇子どもたちが授業でつくったもの
- ◇国際教室
- 6 子どもたちの変容と文字学習のまとめ
- ―■13 英語は楽しい! 夢は広がる!■―――
- ■第7章■ 異学年(校種)合同の英語授業
- 1 なぜ異学年(校種)合同の英語授業なのか
- 2 合同授業で具体的に何を目指すのか
- 3 合同授業の実際
- ◇幼年長児と小1の合同授業
- ◇小1と小6の合同授業
- ◇小6と中1の合同授業
- ―■14 心に残っている異学年合同授業■―――
- ■第8章■ 中学校英語の変容
- 1 確かな手応え
- ―■15 子どもってすごいなあ!■―――
- 2 具体的な取り組み
- 3 3つの連携の視点にそって
- 4 成果(変容)
まえがき
高知県安芸郡田野町は,幼稚園から中学校まで連携した町ぐるみの英語教育を実践している。その実践のユニークな点は,
1) 10年間という長期的な見通しに立った英語教育であること
2) 小学校段階から本格的に文字学習を導入していること
3) 異学年(校種)合同の英語授業を行っていること
である。本書の目的は,これらの点を軸に展開する田野町英語教育の全容を紹介することである。
田野町は,中学校卒業段階での子どもたちの姿をイメージしながら,幼稚園年長児から中学校3年生までの10年間の「具体的学習目標」「英語年間指導計画」「評価規準」という壮大な設計図をすでに作成し,着実に成果を上げている。私は,このような規模の設計図は目にしたことがない。修正すべき点はあろうが,先行事例としての資料価値は極めて高い。
また,田野町は,小学校段階から「文字学習」を本格的に導入し,楽しい文字学習と中学校英語とのスムーズな接続を担保する文字学習のあり方を追究している。国内の状況を見ると,英語を何らかの形で導入している小学校は着実に増えている。しかし,とりわけ高学年(5・6年生)の英語学習に手詰まっている学校はないだろうか。5・6年生は,知的発達からいっても低学年から続けている歌やゲームだけでは満足しない。かといって中学校で学習するような教材を用意しても,子どもたちの意欲は低下する。この田野町の実践は,このような悩みを抱えている学校に大きなヒントを与えてくれるであろう。
異学年(校種)合同の英語授業も実にユニークで圧巻である。私はこの異学年(校種)合同の英語授業には何度も舌を巻いた。あたかも母親が幼児に話しかけるように,優しいまなざしで,ゆっくり,はっきりと下級生に話しかける上級生。緊張しながらも上級生のリードで「英語がわかった」「使えた」という満足感でにっこり笑みを浮かべる下級生。このような心温まる子どもたちの姿がそこにあった。田野町が目指すのは,「英語教育」であって,単に英語だけを教える「英語指導」ではない。英語教育を通して人間性豊かな子どもたちを育てなければならない,これが田野町の共通認識である。異学年(校種)合同の英語授業は,この基本哲学を見事に具現しているといえるであろう。
さて,本書の構成は,次ページの大樹が示す通りである。まず第1,2章(地下根)では,幕末から英語と深い関わりのある田野町の歴史と文化,最近の英語教育の取り組みについて紹介する。第3章(幹)では,「何を」「どのように」連携するのか,という観点から本英語教育開発研究プロジェクトのキーワードの一つである「連携」のあり様について触れる。第4章(幹上部)では,先に述べた田野町英語教育の設計図を詳細に紹介する。
第5章(大枝)では,文字学習の前提となる「英語音声の基礎づくり」をねらった幼稚園と小学校での実践を紹介する。そして第6章(小枝・葉・花)では,本書の主題である「楽しい文字学習」について,その失敗例や指導の方向転換,秘訣,現在行っている活動例を通して詳しく紹介する。第7章(大枝)では,異学年(校種)合同の授業について,その意義とねらいを述べた上で,3つの授業例を紹介する。そして,第8章では,幼小中の連携による英語教育を展開することによって,中学校の英語教育はどのように変容したのかについてまとめる。
なお,本書は,田野町が平成14〜16年度文部科学省研究開発学校「研究課題:国際社会に生きる力をはぐくむため,幼稚園(年長),小学校,中学校の10年間を見通した英語教育の課程・指導方法の研究開発」の指定を受けて行った実証的研究の成果にもとづいたものである。
本書の刊行にあたり,多くの方にお世話になった。とりわけ資料の提供や整理をいつも笑顔で快く引き受けてくれた乾憲一先生,尾立千春先生,原稿全体に目を通して詳細なコメントをくれたM田奈美先生,南智恵先生,このような機会を与えてくれた明治図書の江部満氏に深く感謝したい。
最後に,「10年間を見通した英語教育」という未知の大樹を育てるために,常に真摯に取り組んだ幼小中の先生方,そしていつも笑顔で,のびのびと英語学習に取り組んだ田野町の子どもたちに心から謝意と敬意を表したい。
(図省略)
/村端 五郎
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