- はじめに
- T 二一世紀型人権学習としての「いじめ判決文授業」
- 一 訓辞学習からシミュレート学習へ
- 二 倫理的学習から法的学習へ
- 三 はじめての判決文授業 七つのポイント
- ポイント1 判決文教材を選択する
- ポイント2 全体で読み通し、ワークシートを配布する
- ポイント3 ワークシートを完成させる
- ポイント4 授業のゴールをはっきり示す
- ポイント5 学習活動の意味を常に示し続ける
- ポイント6 授業の核心部分を意識させる
- ポイント7 「自分にできること」で締めくくる
- U いじめ判決文授業の徹底研究1 小学校の授業
- 一 授業案
- 二 課題の提示
- 三 児童の「予想・感想・質問」と梅野の「返事」
- 四 授業展開
- 1 犯罪性を確認しながら内容を理解する
- 2 意見交換で深める
- 3 自省的判断を求める
- 五 児童の感想
- 六 判決文教材
- V いじめ判決文授業の徹底研究2 中学校の授業
- 一 授業案
- 二 ワークシート
- 三 授業展開
- 1 犯罪性を追求する
- 2 いじめをめぐる行為を分析する
- 3 自省的判断を問う
- 四 生徒の感想
- 1 活発に討論することの意味
- 2 「葬式ごっこ」の重い意味
- 3 先生と生徒をめぐる討論
- 4 もしも自分だったら
- 五 判決文教材
- W 参考資料
- 一 憲 法
- 二 刑 法
- 三 少 年 法
- 四 民 法
- 五 いじめの定義
- 1 判例にみる定義
- 2 文部省による定義
- 3 警察庁による定義
- 六 いじめの様態
- 七 告発の意味
- 1 いじめを告発する根拠
- 2 告訴する意味
- 八 責 任 論
- 1 保護者の責任
- 2 学校・先生の責任
- 九 学校ができること
- 一〇 社会の変化
- 1 日本弁護士連合会の見解
- 2 転校の根拠
- 3 代替保障の現状
- X 法と道徳を結ぶ授業の可能性
- 一 社会道徳を支える法の論理を学ぼう
- 二 公的合意を目指す調整能力を身につけよう
- 三 立場の違いを乗り越える法社会の論理を育もう
- おわりに
はじめに―リアルな人権文化の醸成を―
人権学習の目的は、言うまでもなく人権侵害をなくすことにある。そして、人権侵害に関わる問題のほとんどは、学校でも起きている。この現実に目を逸らしたままで取り組まれる人権学習は、表面的にはどんなに素晴らしいお話をしていても、児童・生徒たちにとって、真にリアルなものとはならない。
まずもって人権とは、先生が「自分の言葉」で語ることが望ましい。哲学的解釈で事足りる暗記のための用語では、ないのである。先哲や識者の言葉に感銘し、児童・生徒に伝えようとしても、それは、、他人の言葉にすぎない。気の利いた子どもならば、きっと「それって先生に言う資格あるわけ?」と思っているはずである。
今日、人権学習をめぐって深刻化している問題点は、大きく二点、あるように思う。
一つは、人権を実質的に支える役割を担っている市民的モラル・規範が、具体的な「行動」「行為」として児童・生徒に実感されてはいないように見えること、いま一つは、不幸にも侵害されてしまった人権を回復する「補償の回路」が、当の被害者となるであろう子どもたち自身において、十分に確信されていないように見えること、である。「いじめ判決文の授業」は、このような欠陥に正面から立ち向かう実効的トレーニングを、授業や校内研修の場を通して育成しようとするものである。
問題は起きないに越したことはない。しかし不可抗力的に、また個人の対応能力を越えての事件は、日々、起こっている。これが私たちの社会の偽らざる現実である。
そうであれば、トラブルに耐え得る実践的トレーニングに普段から時間を割いておくこと、社会対応能力を実践的に学びとり、侵害された「自尊心」や「個別具体的な人権」を回復させる方法を、普段からシミュレートさせておくことが、児童・生徒たちが今日を「生きる力」として、是非とも必要である。
この本は、授業者としては未熟で素人の一大学教師が、意を決して取り組んだ欠点だらけの授業記録である。日々授業実践を積まれている先生方ならば、同じ資料を使ってもっと素晴らしい授業ができるはずである。
法的判断力を身につけ、自己救済能力を確保するために、一人でも多くの先生方に、いじめ判決文教材を手にチャレンジしていただきたいと願っている。
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- 明治図書