道徳授業を研究するシリーズ1
役割演技を道徳授業に

道徳授業を研究するシリーズ1役割演技を道徳授業に

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道徳的な価値を「知識として知る」から「体験して実感する」へ。

道徳授業を子どもの心に響かせるために、なぜ役割演技が必要なのか活用の留意点を説き、4つの視点別の役割演技の授業事例、他の教科や総合的な学習との関連の事例等々、物語の主人公や、相手の心情に深くせまる役割演技についてのノウハウをわかりやすく紹介する。


復刊時予価: 2,244円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-861612-1
ジャンル:
道徳
刊行:
対象:
小学校
仕様:
B5判 116頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに
第1章 道徳の授業に役割演技を活用しよう
1 道徳授業を子どもの心に響かせるために役割演技を
2 役割演技で子どもたちのどんな心が育つのか
3 低学年でも高学年でも効果があるのか
第2章 実践・役割演技を道徳授業に
1 シャイな子どもたちに役割演技をさせるためには
2 教師(監督)として
3 監督の演者体験の必要性と、教師間の協力
第3章 事例を通して考える役割演技での道徳授業づくり
1 1の視点 役割演技の授業事例
2 1の視点 役割演技の授業事例〜資料にない「北風」を登場させるトリック〜
3 2の視点 役割演技の授業事例
4 3の視点 役割演技の授業事例
5 4の視点 役割演技の授業事例
6 他の教科(生活科)との関連の事例
7 総合的な学習の時間との関連の事例
8 授業参観の保護者が授業に参加した事例
9 ティームティーチングで役割取得能力を高める
10 資料に童話を利用した事例

はじめに

 本書の企画を明治図書の仁井田康義氏から初めてうかがったとき,うれしく思った反面,氏と同様の危惧を抱きました。平成8年7月の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(第1次答申 中央教育審議会)では,「流行」は,「時代の変化とともに変えていく必要があるもの」と定義されています。しかし,一般的に「流行」とは,いわゆる「すたれ」と対義の意味での「はやり」といったイメージで語られていると思われるからです。

 さて,中学生による幼児殺害事件が長崎で起きたとき,当時の文部科学大臣が,テレビの中で学校教育に向けて「心の教育などと悠長なことばかり言わずに,人を殺したり傷つけたりしてはいけないことや,命の大切さを教えなければならない」といった趣旨の発言をしていたように記憶しています。もちろん,その発言を録画したわけでもなければ,何度も繰り返し報道されたわけでもなかったので,発言の趣旨を誤解しているようであれば,謝ります。しかし,当時,その発言を聞いて,一人の教師として,事件のショックと同様にショックを受けたことを覚えています。と言いますのは,子どもたちに向かって,「人に親切にしなさい」「人の命も自分の命もみな大切なもの」「思いやりの心をもちなさい」…と指導していない教師は皆無だと思われるからです。問題は,その言葉や指導が,どれほど子どもたちの心に届いているのか,理解されているのかではないでしょうか。いわゆる「現場の感覚」から言うと,普遍的な論理原則に従って不道徳な行為を糾弾するだけでは,希薄な人間関係の中で育ってきている今の子どもたちには,行動の変容を生起させるには不十分と言わざるを得ません。どの子も,「人に乱暴してはいけない」「命を大切にしなければいけない」「友達は大切だ」「人に思いやりの心をもって接することが大切だ」…ということは,知識として知っているのです。したがって,道徳的な価値のよさについて理解する枠組みを,単に「知識として知る」知り方から,「実感として知る」知り方に変えなければ,本当に理解したことにはならないと言えるのではないでしょうか。

 筆者は,役割演技による道徳の授業をとおして,子どもたちと共に感動の「実感」を,何度も味わってきました。子どもたちが自分たちで新たな役割を創造したとき,子どもたちにも教師にもふるえが起きます。子どもたちの,心から発せられる言葉やさわやかな表情が生まれます。支持的な雰囲気の中で,温かな関係の創造に対する意欲が生まれ,新たな関係の創造に向けて活性化されていきます。「他人から教えられた知識ではなく,自分で直接に感じとることができるところにロール・プレイングの価値があります」(外林大作,1984)という指摘を実感できます。ですから,「実感による知り方」を実現できる役割演技を,やがてすたれる「はやり」のままにしてはいけないと思うのです。

 ところで,すたれてしまう原因の1つは,「本物」「本質」に出会えないことでしょう。役割演技には,いわゆる「職人芸」と言われるところがあります。腕のいい職人になるためには,経験とスーパーバイザーが必要です。筆者には,2人の恩師がいます。そのうちの1人は,元千葉大学教授の時田光人先生です。時田先生に師事して,22年がたとうとしています。時田先生にはいろいろなことを学びましたが,ことに役割演技に関しては,何度も筆者の授業を見ていただき,細かく具体的に指導していただきました。「早川学級」の役割演技による道徳の授業は,こうして生まれてきたもので,まだまだ進化の途上です。役割演技は科学と言うより現象学と表現した方がいいと言われます。したがって,事例をもってそのノウハウを一般化することは,タブーとされてきたところがあります。しかし,前述のとおり,スーパーバイザーが不在の中で「流行」している状態は無視できません。「本物」になっているのかどうかの吟味を無視して方法論だけが語られることは,誤解を招きかねない怖いことです。誤解のまますたれていくのを,指をくわえてみているわけにはいきません。筆者の実践はまだまだ未熟なものですが,筆者が時田先生に教えていただいたように,本書に書かれているノウハウから少しでも役割演技の本質をつかみとっていただけたら,こんなに幸せなことはありません。そして,読者の皆様の実践を筆者にも教えていただき,共に教育者として勉強させていただければという思いで本書を執筆した次第です。どうぞ,実践や研究,ご意見をお寄せください。

(Eメール:hirotaka395@yahoo.co.jp)

 本書は,多くの方々の温かなご指導で出版の運びとなりました。そのお名前のすべてをここに列挙することはできませんが、とくに筆者が薫陶を受けた元千葉大学教授時田光人先生と千葉ロール・プレイング研究会には,深甚の感謝を申し上げます。

 また,教師としての20年間の実践を,このような形で世に問う機会を与えてくださった明治図書の仁井田康義氏に,心より御礼申し上げます。


  2004年4月   /早川 裕隆


[引用文献・参考文献]

外林大作 1984 賞罰をこえて ―ロール・プレイングのテクニック―(ブレーン出版)

林 泰成(編著) 2000 ケアする心を育む道徳教育 ―伝統的な論理学を超えて(北大路書房)

著者紹介

早川 裕隆(はやかわ ひろたか)著書を検索»

1960年,東京都に生まれる。千葉大学教育学部卒業。

千葉県松戸市立柿木台小学校,同新松戸西小学校,

沼南町立大津ヶ丘第二小学校に勤務した後,

上越教育大学大学院学校教育研究科修了(教育学修士)。

その後,鎌ヶ谷市立北部小学校に勤務した後,2004年から

千葉県健康福祉部市川児童相談所 児童福祉司。

千葉県総合教育センター研究協力員(平成6年度)

千葉県教育委員会 道徳的実践活動学習教材作成会議委員(平成11年度)

文部省,文部科学省 小学校道徳教育推進指導資料作成協力者(平成12年1月〜平成13年3月)

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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