- 序 生きる力をつける学級活動の「助言の道」
- 一 教師の出方、その基本原則
- 1 出る・出ないジレンマ
- 2 ジレンマに陥るわけ
- 3 学級活動の命
- 4 学級活動の命を活性化する
- 5 生活の諸問題の解決
- 6 基本原則――出る・出ないの選択基準
- 二 教師の出方、その方法原則
- 1 うまくいった助言
- 2 指導性発揮の4原則
- 三 教師の出方、その先の一歩
- 1 「自主的な活動の具現」では足りない
- 2 先へ踏み出す実践の進め方――「サッカー大会」で考える
- (1) 学級の現実、学級づくりの願い
- (2) 子どもの論理、指導の論理
- (3) 活動の精選(重みづけ)、対立の仕掛け
- (4) 話合いから「討議」へ
- 四 助言の内容〜「助言にどんなものがあるか」〜
- 1 助言の機能・5タイプ
- (1) ガイド型
- (2) 活性化型
- (3) 援助型
- (4) コーチ型
- (5) 指示型
- 五 助言の実際
- 1 仕掛けの助言――問題に対して言い出しっぺが立ち上がるまでの助言
- (1) 仕掛けの方程式
- (2) 大きな仕掛け
- (3) 事件の仕掛け
- (4) 立ち上がれ
- 2 議題化の助言――言い出しっぺの声が支持され議題になるまでの助言
- (1) 「世論づくり」
- (2) 議題の選定
- (3) 議題の承認(決定)
- 3 討議化の助言――話合いを深め「討議」を起こすための、話合い前の助言
- (1) 討議化は対立化
- (2) ヤマ場を構想する
- (3) 対立点を構想する
- (4) 柱を立てる
- (5) 意見を持たせる
- 4 本番中の助言――主張・理解・決議の助言
- (1) 意見検討の流れ
- (2) 主張の仕方
- (3) 理解の仕方
- (4) 合意・決議・多数決の仕方
- 5 振り返りの助言――話合いを子どもが振り返る助言、教師が振り返る助言
- (1) 振り返りの場
- (2) 子ども自身の振り返り
- (3) 教師の振り返り(評価)
- 結びのメッセージ
序
◎ 急いでいる人は、「五・4 本番中の助言」(一〇二ページ) へどうぞ。
◎ 研究授業が迫っている人は「五 助言の実際」(六六ページ) へどうぞ。
◎ 話合いを深めたい人、学級活動をもっと分かりたい人は、ここからどうぞ。
生きる力をつける学級活動の「助言の道」
1 学級活動が育てる、特別に大切な「生きる力」
変化の激しい社会を心豊かにたくましく生きる力を育てようとするとき、学級活動が独自に子どもに促すことのできる「学び」がある。その「学び」は、これからの実社会を生きる上で特別に大切な「生きる力」を育てる。本著はそこにとことんこだわる。
では、どのような「学び」によって、どのような「生きる力」が育つのか。
まず、学級活動の特徴を確かめよう。学級活動は、子どもが他と共に実際に生活を営む、その『実生活』の場を活動の舞台にする。ここに大きな特徴がある。その舞台は、利害関係、好悪関係、力関係が、また、子どものそこまでの「人生」で培われた価値観とそこを源とするその時点での思いや願いが、さらに、教師の授業・学級経営が育てたものすべて等々が、反映する『現実社会』である。
そこに生じてくる問題のなかで、これは自らの問題だとして受け止めるものについて互いに知恵や力を出し合って自らの手で解決しようとする。このような活動が学級活動のメインである。
さて、メインの活動が進むなかで、《子どもの人間関係の在り様や、一人一人の人間としての(あるいは心・人生観・価値観の)在り様や、教師が育ててきたはずの諸々のものなどがよく表れるところ》は、「話合い」である。
そのなかでも、「問題の解決に取り組む話合い」である。その話合いのなかで、メイン中のメイン、つまり学級活動の『急所』のような場面が表れる。
それは、《異なる意見がいくつかある。それらを検討して合意・決議を生み出し、実践にこぎつけたい。ところがそれぞれに主張があり、対峙・対立してままならない。それらをどうするか》という場面である。
この場面にあって子どもが一生懸命に考えるとき、このときに子どもに促される「学び」がある。
これこそが、学級活動ならではの独自の「学び」であると考える。
自分の主張を相手に伝え、相手の意見を理解し、異なる思いや願いをつき合わせ、互いに合意点をさぐり、決議をだす。それに基づいて協力し実践する――この一連の動きのなかで子どもに促される「学び」である。
『思いや願いの異なるものどうし手をつながなければ動けない状況』に子どもを置いて、子どもが自ら学ぶことを求めるのである。
このような状況が、現実の利害や人生観が働く、今まさに生きている『現実社会』のなかにつくられるところに意義がある。「生きる力」につながる力が育つ所以である。
このような状況は、学級活動だけがつくることができる。
このような状況は、子どもに対して鋭く「学ぶ」ことを要求する。そこで促される「学び」によって、次のような特別に大切な「生きる力」が育つ。
◎ 子どもは、自分の思いや願いと、異なる思いや願いとを、共に実現しようとする。
そのために何をどうしたらよいかについて、活動をとおして、つまり体をとおして考え、学んでいく。
◎ そのことによって、これからの社会を《他にも自分にもよりよく》生きていこうとする態度、力が育つ。
『他と共に生きる力』である。
学級活動が独自に受け持つ「生きる力」である。『他と共に生きる力』である。
このような「生きる力」を培う「学び」は、学級活動でなくて他の何が促すことができるだろう。
別な言い方をすると、ここにねらいをおいた学級活動が、一番おいしい。一番おもしろい。
さて、学級活動指導では、具体的な働き掛けのメインにくるのが「助言」と言われるものである。本著は、指導のなかでも一番おいしく、おもしろい助言について考えていく。
ところで、この助言がなかなかに手強い。実践している人はみな、それなりに苦労して「助言の道」を歩いてきている。「助言の道」には入り口から独特の難しさがある。
2 だれもが通る助言の道――「子どもの前に出ない」をのり越える
「学級活動指導では、教師は子どもの前に出ないほうがよい」とよく言われる。学級活動指導の原理・原則としてほぼ定着している。さて、この「子どもの前に出ない」について。
子どもの前に出ない……え、出ない?……? 「子どもの前に出ない」で、どんな指導ができるのか?
どうすることが「学級活動の指導」なのか?
と、入り口のところで悩んでしまうことはなかっただろうか。この原理・原則が足かせになって、進むに進めず、苦しんだということがあるのではないか。
そして、いろいろやってみて、かなり苦労もして、「それなりのやり方」をつかんできた、のではなかったか。
ここは、「だれもが通る道」になっている。だれもが通る「助言の道」である。
「教師は子どもの前に出ない」をどうとらえてどう助言するか。
学級活動指導は、入り口から難所になっているようなところがある。独特の難しさを最初からくぐらねばならなくなっている。くぐらないと子どもに働き掛けられないのである。
しかし、くぐってポイントを踏まえた働き掛けをすると、子どもが生き生きと動きだすという手応えが手に入る。子どもが主人公になって存分に動く舞台を見守ることができるようになる。これがおもしろいのである。学級活動指導が止められなくなる。
子どもが存分に動けるように、どう子どもに働き掛けるか。「子どもの前に出ないほうがよい」という特質を踏まえて実際にどのように助言するか。ここの独特の難しさをどうのり越えるか。本著がガイドになればと願っている。
3 その先の道――話合いを深める
学級活動指導の入り口を越して、教師の出方や待ち方、つまり助言の仕方がある程度分かってから届く「先の世界」がある。(このように上達して道が開けるというところが教師という職業の素晴らしいところだ。)
子どもが自分から動くことを実現する。例えば、子どもが司会し話合いを運営していく、などの「先の世界」だ。
子どもが動くという「形」を実現しようとすることの世界の先にある。
『深まっていく話合い』が、そういう世界の一つである。
「話合いとして成立し、そして深まっていく」ということを実現する。何としても、ここの地点まで行きたい。入り口からはかなり先の世界である。そこを目指したい。
《異なる意見がいくつかある。それらを検討して合意・決議を生み出し、実践にこぎつけたい。ところがそれぞれが主張し合ってままならない。どうするか》という話合いは、すでにかなり「先の世界」に入っている。指導の入り口あたりでは、こういう状況をつくるのは難しいだろうと思う。
その状況をつくり、そのなかで、「子どもに力をつけること、子どもの心にくい込むこと」にこだわって一歩でも踏み出そうとして、開けてくる世界がある。
それが『深まっていく話合い』の世界である。
意見の検討が始まり、主張が明確になっていく。対立するほどに鋭く検討が進み、異なることがきわだってくる。
そこには利害関係、好悪関係、力関係も入る。そこまでの「人生」で培われた価値観も入る。安易に合意や納得は得られない。安易な多数決も子どもは受け付けないだろう。子どもたちは一生懸命に、意見の検討を続ける。
検討の過程をとおして、学級にとっての意味や目的にたちかえって吟味したりする。自身や他の思いや願い、その根拠や互いにとっての意味を再吟味したりする。
そうやって理解や共感が進んでいく。それでも「こだわる」のでなかなか決まらない。意見の検討はなおも続く。
こうして話合いが深まっていく。やがて、ついに決議が生まれる……。
ということを実現することは、なかなかに難しい。
そこにいくまでの道はなかなかに険しい。議題が生まれ、話合いの舞台に上がるまでも険しい。上がってからも険しい。その道案内として本署が役立てばと願うものである。
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私自身、道を歩みながらガイドが欲しいと思ったことについて、ほとんど載せたつもりでいる。
ということは、これをガイドにすると同じような道を歩むことになる……?
学級活動の深さ・おもしろさ・魅力に、はまりこんでしまう道なのだけれども。
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- 明治図書
- 特別活動のバイブルと言える名著です。学級づくりのイメージを描くことができます。2016/8/1650代・小学校教員
- 助言をうつ、うたないときー出る、出ないときの判断の視点を学べた。2015/11/1520代・小学校教員