- まえがき
- 第T章 共に生きる世界を立ち上げる
- 1 子どもと子どもがつながるために―Tという子と集団づくり― /鈴木 和夫
- 解説=市民的関係を編む集団づくりと子どもの自立 /折出 健二
- 2 平和的に生きる願いを共有する /篠崎 純子
- 解説=平和的に生きる願いを共有するために /大和久 勝
- 3 学級崩壊後の子どもたちとともに /柏木 修
- 解説=暴力的関係を民主的、平和的交わりの世界へ /上木 洋一
- 第U章 学びの空間を拓く
- 1 届かないことば 届きあうことば―もうひとつのテーマ「出会い直し」― /原田 真知子
- 解説=対話を通してつくる学びの世界とは /鈴木 和夫
- 2 もしかしたら荒れているのかな―子どもたちの揺れにつきあいながら― /安子島 宏
- 解説=つぶやきを拾い、学びに発展させよう /柏木 修
- 第V章 希望と信頼の学校を創る
- 1 有志ダンスチーム『忍風』が巻き起こした風 /川辺 一弘
- 解説=自治と学びをとおして学校づくりを前進させる /照本 祥敬
- 2 「荒れて」いた二年二組―子どもの話を聞いて、流れに乗って、見えてきたもの、生まれたもの― /加納 昌美
- 解説=学級・学校の物語を編みなおす /照本 祥敬
- 第W章 現代の子ども・学校・社会と生活指導の課題
- /高橋 英児
- 一 「改正」教育基本法以後の教育
- 二 子ども・大人の生きづらさの根にあるもの
- 新自由主義がもたらす社会の構造的暴力―貧困と格差/ 若者の縁辺化と希望の喪失
- 三 学校が加速させる子どもの生きづらさ─学校の構造的暴力
- 学校の構造的暴力とは/ 学校という社会装置の構造的暴力
- 四 子どもの生きづらさの表出をどう見るか
- 格差と差別の二重の仕切り/ 引き受けがたい現実を破壊することでしか生きられない
- 五 新自由主義社会の装置としての学校を解放する自治と学びの追求を
まえがき
全生研(全国生活指導研究協議会)常任委員会は、集団づくりのあり方を、社会や学校をめぐる今日的な課題に照らして理論化しようと、一昨年に『子ども集団づくり入門〜学級・学校が変わる〜』を著しました。この『入門』の刊行後、全生研の内外から、これに続くより実践的な内容を中心にした著作をもとめる声が多く聞こえてきました。本書は、こうしたニーズをふまえた『入門』の実践シリーズとして位置づけられます。
本書は、七つの実践記録とその解説、全体的な課題にかかわる論文という構成です。それぞれの実践記録には、子ども集団づくりへの個性的なアプローチが描かれています。そうなるのは、目前にいる子どもたちのようすや学校、地域の状況によるところがおおきいわけですが、それだけではありません。かれら一人ひとりの、子ども集団の現状をどうとらえ、なにを実践課題として、どのような活動や組織を誕生させるのかといった指導の一連のプロセスのなかに、実践者である教師それぞれのものの見方や感じ方、考え方が具体化されているからです。そして、そうであるからこそ、子ども集団づくりのとりくみへの多様な切り口や視点を提供してくれるものとなっています。
もちろん、七つの実践記録は相互にまったく関連のない独自のテーマを追究しているわけではありません。それぞれに個性的でありながら、その底流には共通するおおきなテーマがしっかりと位置づいています。それは、子ども社会を覆う暴力の文化とむきあい、他者や社会との平和的共生を追求する集団をかれらと共に創造していく課題です。平和的に生きることのできる生活空間を自治と学びの教育をとおして子ども集団のなかに立ち上げていく課題です。
階層間の不平等が拡大している今日、階層序列にそった縦軸での差別・選別と、この差別・選別によってつくられた「水平」的なグループ内でのサバイバル競争という二重の暴力が作動しています。近年の「いじめ」にみられる「弱者」への迫害と暴力、また「親密な」関係領域に発生する暴力の事例は、このような暴力の二重構造が子ども社会をも覆っていることを示しています。
そして、だからこそ、この生きづらい現実を自治と学びの教育をとおして変革していく、自治と学びの教育の視点から学校の日常を変革していくとりくみを前進させることが、わたしたちにもとめられています。
競争と抑圧のシステムによって暴力を再生産する社会と学校の現状。この現状に閉じ込められ、傷つき、苦しんでいる子どもたちに、自分や他者にたいする信頼と平和的に生きることへの希望を育てる自治と学びの教育とはなにか。自治と学びの教育によってどのような学校を創り出すことができるのか。
こうした視角から、読者のみなさんが本書を積極的に検討されることを願っています。
二〇〇七年五月 全生研『子ども集団づくり実践シリーズ』刊行委員会
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- 明治図書