- まえがき
- 第1章 豊かな心
- 1 豊かな心とは?
- (1) 道徳性と社会性について
- (2) 豊かな心について
- 2 豊かな心を育てる
- (1) 豊かな心を育成するための教師の姿勢
- @一人一人を受容すること
- A一人一人と対話をすること
- B一人一人のよさを探すこと
- C一人一人が役割をはたして,認められていること
- (2) 道徳の時間と道徳教育について
- @道徳の時間の特性について
- A道徳教育について
- (3) 特別活動について
- (4) 総合的な学習の時間について
- 第2章 豊かな心を育てるための要件
- 1 豊かな心を育てるための集団形成
- (1) 豊かな心が育っている集団とは?
- @意見発表,話し合いについて
- A目標への努力について
- B役割の遂行について
- C協力について
- D規範意識について
- E心を一つにすることについて
- F家庭との協力について
- 2 豊かな心を育てるための要件とその発達段階
- (1) 自制心
- (2) 自制心の発達について
- (3) 共感する力
- (4) 共感する力の発達について
- (5) 推察力
- (6) 推察力の発達について
- (7) コミュニケーション能力
- (8) コミュニケーション能力の発達について
- 3 自制心などが不足してる子
- (1) たろう君の場合
- (2) 幸平君の場合
- 第3章 自制心を育成する授業
- 1 自制心の育成について
- 2 道徳の時間における自制心育成の授業
- (1) 道徳の時間における節度・節制のとらえ方
- (2) 1年 道徳 「節度・節制 おれたクレヨン」の授業
- 3 1年 学級活動「身の回りの整とん」の授業
- 4 3年 道徳の時間「節度・節制 金色の魚」の授業
- 5 6年 道徳の時間における自制心育成の授業
- (1) 道徳の時間における希望・勇気のとらえ方
- (2) 6年 道徳 「希望・勇気 王が眠る吉野ヶ里遺跡」の授業
- 第4章 共感する力を育成する授業
- 1 共感する力の育成について
- 2 1年 学級活動「仲よし言葉をつかって」の授業
- 3 道徳の時間における共感する力を育成する授業
- (1) 道徳の時間における信頼・友情のとらえ方
- (2) 1年 道徳 「信頼・友情 友達ほしいなおおかみくん」の授業
- 4 5年 学級活動「共感した言葉を伝える」授業
- 5 5年 道徳の時間における共感する力を育成する授業
- (1) 道徳の時間における「寛容・謙虚」のとらえ方
- (2) 5年 道徳「寛容・謙虚 すれちがい」の授業
- 第5章 推察力を育成する授業
- 1 推察力の育成について
- 2 道徳の時間における推察力育成の授業
- (1) 道徳の時間における思いやりのとらえ方
- (2) 3年 道徳「思いやり ぐみの木と小鳥」の授業
- 3 総合的な学習の時間「お年寄りとの交流」の授業
- 4 学級活動における推察力育成の授業
- (1) 4年 学級活動「人のためにできること」の授業
- (2) 4年 「思いやりの木」の実践
- 第6章 コミュニケーション能力を育成する授業
- 1 コミュニケーション能力の育成について
- 2 3年 学級活動「一人一人のよさ」の授業
- 3 4年 学級活動「よりよい助言の仕方」の授業
- 4 5年 話し合い活動「給食の時間の過ごし方」の授業
まえがき
子どもは,いつの時代でも純心素朴である。しかし,子どもを育てる地域社会が変わってきてしまった。だから純心素朴だった子どもたちは,様々な影響を受け,感性,心,考え方,生活の仕方が変わってきている。自制心のない子は,家庭でも自分流にやりたいことをしている。共感する力がない子は,親子の温かい感情の交流をあまり知らない。推察力のない子は,家族同士の関係もばらばらで,配慮をするという経験をあまりしていない。コミュニケーションがうまくない子は,家庭でのコミュニケーションが成立していないことが多い。
子どもの中で人間関係形成能力が不足し,道徳性・社会性が育ちにくくなり,豊かな心の育成が難しくなっている。今,学校で力を入れなくてはいけないのは,そこである。信頼関係に結ばれた集団の中で,それぞれの人権を尊重し合い,互いに思いやり合って,規範意識と尽くす心を育て,社会に貢献できる豊かな心をもった人間を育てていくことである。
昭和33年に道徳の時間が時間割の中に位置づけられた。そのころの多くの子は,道徳の時間を受けずに成長している。昭和48年に,私は教師になった。道徳の時間をどう実践したらよいのか,模索する日々が続く。文部省の方の講演があると聞き,そこでうかがった話が青木孝頼先生(元文部省主任視学官)の話だった。子どもの何が育っているのだろうと,試行錯誤で道徳の時間に取り組めば取り組むほど,おもしろくなった。
価値項目について考えていたら,きりがない。資料を読めば読むほど,その意味の深さに感動した。指導案を立て,「〇〇さんはこんな意見を言うだろう,〇△君は,こう言うだろう」とシミュレーションしてから授業をする。すると予想しない反応が返ってくる。だいたい私が予想していたより,よい反応が返ってくるのである。ますますおもしろくなって,1時間1時間の授業に取り組んでいった。
「道徳教育は,全教育活動を通して行う」と指導要領に書いてあるが,その意味は本当に深い。各教科で培っている力,特別活動,総合的な学習の時間,道徳の時間で育てている力は関連し合っている。それらをもとに一人一人の子どもの道徳性・社会性を育てていくという目をもちたい。そして一人一人の子どもに豊かな心を育てていきたい。
いろいろな家庭の条件を背負った多様な子どもたちがいる。そうした子どもたち一人一人に豊かな心をどう育てたのか,その実践の一端をここに示した。
刊行に当たって,明治図書の仁井田康義氏にご尽力をいただいたことを,厚くお礼申し上げたい。
2008年1月 /大野 要子
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- 明治図書