- T 構造化方式のすすめ
- 1 道徳授業改善の課題
- 2 構造化方式の特色
- U 児童の心に寄り添う構造化方式の授業
- 1 心に葛藤を生じる場合
- (1) 児童の発達段階や特性を生かす指導
- 第1学年/ 第2学年
- (2) 他の教育活動と関連を図った指導
- 第1学年/ 第2学年
- 2 児童のよさを生かす場合
- (1) 体験活動を生かす指導
- 第1学年/ 第2学年
- (2) 価値の自覚を深める工夫
- 第1学年/ 第1学年/ 第2学年
- 3 児童の願いに根ざす場合
- (1) 人から認めてもらいたい願い
- 第1学年/ 第1学年/ 第2学年
- (2) よい友達が欲しい願い
- 第1学年/ 第2学年
- (3) 夢や希望を育てる指導
- 第1学年/ 第2学年
- 4 人間を超えるところにかかわる場合
- (1) 知りうることの限界にかかわる場合
- 第1学年/ 第2学年
- (2) なし得ることの限界にかかわる場合
- 第1学年/ 第2学年
- 5 感動する心に結びつく場合
- (1) 感動を通して価値の自覚を深める指導
- 第1学年/ 第2学年
- (2) 感動から目を広げる指導
- 第1学年/ 第2学年
まえがき
新学習指導要領では「道徳の時間は道徳教育のかなめ」の位置づけで,これまでよりも一層重視され,その成果が期待されています。
文部省の『道徳教育推進状況調査報告書』の結果を見れば,小学校低学年では,道徳授業が楽しい,ためになる,と受け止めている学校は,ほぼ全員が45%,3分の2の児童がそう受け止めている学校が41,8%となっています。この数字は,『道徳教育』97年4月臨時増刊号に載せた児童対象のアンケート結果とほぼ同じです。低学年ではかなりよい成果を上げていると言えます。
しかし,現状のままでよいかといえばそうとは言い切れません。直接には中学年になっても児童が喜んで受け入れるような指導を,低学年のときから展開しておくことが大切だからです。また,低学年のときから,児童の一生を見通した自己実現の能力を育てていかなくてはならないからです。
そのためには,児童の心にしっかりと道徳性を育てる指導が大切です。この観点から道徳授業を見直しておくことが必要です。また,低学年にも,道徳の授業の一層の充実を図らなくてはならない実態もあります。
中学年・高学年では行動化を直接目指した指導は難しいと言えますが,低学年では行動化を直接目指した指導も成り立ちます。いわゆる実践化を目指す道徳指導でも,児童は,「先生の教えてくれたことが自分にもできた。うれしいな。」ということになる場合が多いからです。しかし,児童が心から,弾むような思いで実践する指導をするためには,どのようにすれば児童の心が道徳的価値を喜んで受け入れてくれるかという点から指導を見直す必要があります。それが中学年,高学年になっても喜んで指導を受け入れてくれる指導につながります。
つまり,より深いところから道徳的価値を児童の心に受け止めさせる指導になっているかどうかを見直す必要があります。道徳的価値の自覚を深め,その集積として児童の心に道徳性を育てる方向を目指す指導が大切です。すると,低学年においてもより一層楽しく充実した指導とすることができます。
学習指導要領では,「道徳性」の育成を目指しています。道徳性は機能としては行動や判断の基準となりますが,構造としては「道徳的諸価値は一人一人の内面において統合されたもの」(解説)と説明されています。その道徳性を育てるのが道徳授業の目指すところなのです。道徳性を育てるために,主題のねらいの道徳的価値の自覚を深めるのです。つまり,心にしっかりと受け止めさせるのです。その集積として道徳性が育つのです。道徳性が育てば,あたかも池がいっぱいになれば水があふれ出るように,実践として表れるのです。
道徳性育成の決め手となるのは,どのようにして価値の自覚を深めるかです。道徳的価値を外側から強制しようとしても児童の心は受け入れてくれません。そこからも重苦しさが生じます。知的理解ですむ教育と違って,道徳的価値の自覚は,心が受け入れてくれなければ指導になりません。
そこで構造化方式が重要になります。構造化方式は,道徳性を育てる筋道と道徳的価値の自覚を深める筋道を明確にしたもので,新学習指導要領が道徳性の構造をはっきりさせ,価値の自覚を深めることを目標に掲げ,道徳性を育成する筋道を示唆しているために,これにぴったりと合った指導論です。
構造化方式は,道徳的価値の自覚を深める際,どの主題の指導においても,児童の心が喜びをもち,充実感をもって受け止めるようにする授業論です。道徳授業の現在の問題点をすべて克服でき,明るく楽しく児童が生き生きと受け入れてくれる指導論です。これによって,児童の人生が切り開かれ,社会の期待に沿う道徳指導が展開されることを期待しています。
本書は,明治図書の編集部長仁井田康義氏の企画と叱咤激励によって誕生することができました。構造化方式が道徳授業の活性化に役立つことができれば大変ありがたく,紙面を借りて深く謝意を表します。
平成12年10月 /金井 肇
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- 明治図書