- まえがき
- 第一部 心への問いかけ
- ―道徳教育の研究―
- 第1章 道徳教育の基本
- 1 道徳教育改訂の要点
- (1) 語りの効果
- (2) 「生きる力」と道徳教育
- 学生の語り(自分を語る)
- 2 道徳の時間再考
- (1) 教師の姿勢
- (2) 道徳の時間の資料
- (3) 質問と発問
- 学生の語り(道徳授業の回想)
- 第2章 生命の尊厳
- 1 資料「流しびな」1
- (1) 「流しびな」の原風景
- (2) 資料の分析
- (3) 指導案の作成
- (4) 示範授業
- (5) 授業の考察
- 2 資料「新ちゃんの流しびな」と生命尊重の授業
- (1) 「新ちゃんの流しびな」と出逢いの旅
- (2) 資料「新ちゃんの流しびな」
- (3) 道徳学習指導案
- (4) 体験活動と道徳授業の評価
- (5) 中学生へのメッセージと資料分析
- 学生の語り(新ちゃんの流しびな)
- 第3章 感動を呼ぶ道徳の授業
- 1 感動と感傷の違い
- 2 感動的な授業「塩狩峠」
- 3 感動の再生産―無償の愛―
- 学生の語り(感動の授業)
- 第4章 良心の教育
- 1 良心とは何か
- 2 資料「赤ん坊の目」
- 学生の語り(良心の教育)
- 第5章 公徳心の教育
- 1 日本人と公徳心
- 2 美しい自然
- 3 目に余る無礼者
- 第6章 道徳の時間の授業構想
- 1 道徳の時間の目標と内容
- 2 道徳授業の展開
- 学生の語り(道徳授業の展開)
- 第7章 道徳学習指導案演習
- 1 学習指導案事例
- 2 学習指導案事例・資料「帰りは大人」
- 学生の語り(指導案演習余話)
- 第二部 なすことによって学ぶ
- ―特別活動の研究―
- 第1章 特別活動の特質
- 1 何が特別なのか
- 2 特別活動の基本的性格
- (1) 改善の趣旨
- (2) 改善の要点
- 3 特別活動の目標と内容
- 第2章 学級を耕す
- 1 自己実現への道
- 2 多数決の落とし穴
- 3 話し合い活動の見直し
- 第3章 リーダーの条件
- 1 三つのタイプのリーダー
- 2 リーダーの能力
- 3 葛藤資料「エゴイスト」
- 学生の語り(リーダーの条件)
- 第4章 思春期の愛と性
- 1 思春期の愛
- 2 思春期の性
- 3 資料「父から娘への手紙」
- 「生命の神秘」―赤ちゃんは,どうして生まれるの?―
- 「はだかの文化」―羞恥心について―
- 学生の語り(思春期の愛と性)
- 第5章 生徒会活動
- 1 学校を変える生徒会
- 2 奉仕活動と生徒会
- 学生の語り(生徒会活動と奉仕活動)
- 第6章 学校行事
- 1 学校行事の内容
- 2 総合的な学習の時間との関連
- 3 国旗と国歌
- 学生の語り(日の丸と君が代)
- 第7章 学級活動指導案(演習)
- 1 シルエット資料「二匹のロバ」の開発
- 2 シルエット資料「二匹のロバ」の展開
- 3 シルエット資料による授業記録
- 4 学級活動指導案
- 学生の語り(二匹のロバ)
- 第三部 自分さがしの生き方
- ―生徒指導の研究―
- 第1章 生徒指導の基本
- 1 生徒指導のイメージ
- 2 生徒理解
- 3 自己像を描く
- 4 色彩ゆたかな授業
- 学生の語り(美しく染めあげて)
- 5 生徒理解の資料収集
- 学生の語り(ソシオメトリック・テストと生徒理解)
- 第2章 いじめ考
- 1 いじめの実態
- 2 問題解決への対応
- 学生の語り(いじめ考)
- 第3章 思いやりの教育
- 1 思いやりの視点
- (1) 優しい思いやり
- (2) 厳しい思いやり
- 2 野鳥のくる学校
- 第4章 懲戒と体罰
- 1 叱ると怒る
- 2 懲戒の概念
- 3 体罰と暴力
- 学生の語り(ほめ方,叱り方,体罰)
- 第5章 教育相談
- 1 思春期の子どもと学校教育相談
- 2 スクールカウンセリングの役割
- 3 カウンセリング・マインド
- 資料
- あとがき
まえがき
人間がよりよく生きて,人間となるための手がかりを求めて,1994年春,『思春期の生き方』を刊行した。それから早くも5年が経過した。
2002年には新学習指導要領による21世紀の教育が始まる。また,その実施に向けて,2000年から新しい教育課程が移行期に入った。そこで本書は,『思春期の生き方』の一部を引用したうえ,これを絶版とし,新たに稿を起こして書名を『流しびな』とこころの教育とした。
鳥取県の北部を流れるの清流に浮き沈みする流しびなに,私は人生を見た。静かに流れる川が急流となり,やがて,上流から流された流しびなは濁流の渦に巻き込まれ,もてあそばれる。時には,大きな岩にぶち当たり,再び清流の中を終焉に向かって流れていく。これこそ人間の生き方,生々流転の人生を象徴しているように思われた。
私と流しびなの出逢いは古い。いつの頃からか,でいただいた流しびなは私の分身のようになっていた。本書の書名を『流しびな』にこだわった理由も,人間の生き方とこころの教育の本質をそこに見たからである。
また,私の「流しびな」は,道徳授業のために書き下ろした自作資料であるが,最初の「流しびな」及び「新ちゃんの流しびな」の2編が鳥取県,福井県,山形県,千葉県など広く全国の小・中学校の道徳授業で利用していただいていることへの感謝の気持ちも表したかったからである。なお,本書をご活用くださる方のために,新学習指導要領から必要と思われる資料を巻末に収録した。
本書は教職を志す学生を視野に入れている。しかし,これらの学生のすべてが教師になるわけではない。子どもにとって最良の教師とは,賢い父であり母でもあるからだ。したがって,やがて賢い父となり母となるであろう若い人たちやこころの教育に関心をもつ教師にも本書がお役に立つことを願っている。 こころの教育こそ,子どものモデルとなる親や教師の教育でもあるからだ。
ところで,「道徳」というと,固い,というイメージがある。そこで構えてしまう。―なんとかソフトにできないものか。「道徳教育の研究」を講義するに当たって,いつもそう思う。
これは,生徒指導も同じだ。―「怖い」「うるさい」「規則で縛る」という先入観をもっている。これをまず氷解させなければならない。
また,特別活動では,「何が特別なのか」と首をかしげる学生がいる。
そこで,教職課程を履修する学生を対象に思春期の生き方を考えるとき,道徳,特別活動の領域と機能としての生徒指導をからめて「こころの教育」とし,三部構成でまとめた。
第一部 「心への問いかけ」は,道徳教育が中心となる。
第二部 「なすことによって学ぶ」は,特別活動を中心に置く。
第三部 「自分さがしの生き方」は,生徒指導を中心にまとめた。
変動する社会の中で情報化の波は教育界をも巻き込み,心の荒廃に対しては教師も意識改革を迫られている。これまでの古い講義ノートは役に立たなくなった。新しい酒は新しい皮袋に用意されなければならない。
時代の要請にこたえ,新しい教育を創造し産む苦しみを教師は続けている。しかし,正確なマニュアルはない。激動する時代の教師像をどこに求めるか。
思春期の子どもたちは,「自分さがし」の手がかりを求めている。自分なりの答えを探している。
1998年の暮れ,佐賀県立伊万里商業高等学校から拙著『思春期の生き方』を利用させてほしいとの依頼があり,間もなく,すばらしい『ホームルーム活動 資料集―人間としての生き方在り方』が送られてきた。高校のホームルームでも活用いただいたことが改訂の契機となり,『流しびな』とこころの教育に集約されて刊行の運びとなった。厚く御礼申し上げたい。
本書に収められた資料や事例は未熟であるが,すべて筆者のオリジナルである。私が公立中学校の教育現場に籍を置いていた頃に書き留めたものが多い。したがって,「こころの教育とは何か」とか,「人間としての生き方」を考える場合は,教育理論を体系的に組み立てるというよりも,実践事例が中心となっている。したがって,本書に収められた事例や資料は,小学校高学年から中学,高校,大学生まで気軽に読んでいただきたい。
本書の編集に当たっては,さらに読みやすく,共感を深めていただくために,毎時間の講義の終わりに女子学生が書き綴ったコミュニケーション・カードを抽出して章の終わりに散りばめた。
女子大生は,毎時間の講義の中で自分を見つめ,ありのままの自分をコミュニケーション・カードに書いてくれた。その数は一千枚を超える。紙数の関係から特色のあるものを収録した。それぞれの大学で学ぶ学生は異なっても,今の時代に生き,よりよく生きようと思う気持ちは同じである。
このようなことから,本書のサブタイトルを〜女子大生が綴る「生き方」と価値観〜とした。
私の語りと同様に,学生の語りにも耳を傾けてほしい。教育の荒廃が憂慮される中で,まじめに現代の教育を見つめ,自己の価値観を考える女子学生の生き方に共感いただければ幸いである。また,巻末の資料をそろえてくださり,手のかかる出版を引き受けてくださった明治図書の仁井田康義氏をはじめ関係諸氏に対して心からの御礼を申し上げたい。
平成12年4月 春 /加藤 一雄
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- 明治図書