- はじめに
- 1章 なぜ英語科で少人数指導か
- §1 基礎学力の充実
- 1 基本の基本
- 2 中学校学習指導要領における「内容」
- §2 生徒の能力・個性等に応じた少人数指導の必要性
- 1 多様な学習集団の設定
- 2 20人程度の小人数による授業
- 2章 英語科小人数指導のポイント
- §1 学習の効率化
- 1 言語材料に関わる基礎・基本のポイント ―練習や運用等の習慣形成を図る場の提供―
- 2 言語活動の充実 ―多様なコミュニケーション活動の場の提供―
- §2 学習の個別化
- 1 個人差の把握と個に応じた指導の必要性
- 2 学習の個人診断による自主的学習態度の育成
- §3 指導と評価の一体化
- 1 「集団に準拠した評価」から「目標に準拠した評価」へ
- 2 「目標に準拠した評価」の作業手順
- §4 少人数クラスの編成
- 1 少人数クラスへの分割
- 2 少人数クラスの質と生徒数
- §5 少人数クラスの授業(学習)形態
- 1 異質な少人数クラスの授業
- 2 習熟度別クラスの授業
- 3 興味・関心に応じた課題別学習クラスの授業
- 4 ALTとのTTを生かした少人数クラスの授業
- §6 指導計画作成と実施上の配慮事項
- 1 少人数クラスの実施時数及び時期
- 2 指導計画への位置付け ―普通クラスの授業と少人数クラスの授業との関連―
- 3 指導及び運営上の配慮事項
- 3章 英語科の少人数指導を支える学習条件の工夫
- §1 指導計画の作成
- 1 外国語科改訂の趣旨
- 2 必修英語の内容
- 3 選択英語の内容
- 4 外国語科(必修・選択)と「総合的な学習の時間」
- §2 少人数指導を生かした英語の指導
- 1 少人数そのものを生かす
- 2 習熟度別の編成を生かす
- 3 生徒の興味・関心を生かす
- §3 協力指導の進め方
- 1 教師同士の十分な意思疎通
- 2 英語部会の充実
- 3 ALT(外国語指導助手)との協力を生かす
- §4 少人数指導を支える教材・教具
- 1 生徒一人一人に対応した教材・教具が必要
- 2 教科書の幅広い活用
- 3 教材,図書,印刷物等の活用
- 4 視聴覚機器やパソコンの活用
- §5 少人数指導に役立てる到達度評価
- 1 「集団に準拠した評価」(いわゆる相対評価)から「目標に準拠した評価」 (いわゆる絶対評価)へ
- 2 情報交換の場の設定
- 3 理解や定着の程度の把握
- 4 「観点別学習状況の評価」から「評定」への総括
- 5 生徒・保護者への十分な理解を図る
- §6 多様な学習環境づくり
- 1 生徒の主体的な学習を支援するための学習環境
- 2 人的環境
- 3 物的環境
- 4 地域との連携
- §7 小学校英語活動との効果的な接続
- 1 小学校英語活動の状況把握と児童の把握
- 2 入門期の指導の改善
- 3 近隣の小学校との連携
- 4章 英語科少人数指導の効果的展開プラン
- ■A 少人数へのトライアル事例■
- §1 新校における習熟度別少人数指導の体制づくり ―東京都荒川区立諏訪台中の事例―
- §2 TTを生かしたモジュール式少人数指導の試み ―東京都八王子市立第一中の事例―
- ■B トライアル事例をふまえた改善のアイデア■
- T 必修英語での実践提案
- §1 生徒の自学自習による基礎学習 ―Learning Center方式を応用した少人数学習―
- §2 ペアやグループを生かしたコミュニケーション活動
- §3 ペアを生かしたコミュニケーション活動 ―Interview(面接)Simulationによる自己表現の実践―
- §4 「学習CHECK LIST」による進度別学習
- §5 小集団を生かしたティーム・ティーチング
- §6 到達度評価による習熟度別指導の運営
- U 選択英語での実践提案
- §1 小学校での英語学習経験に配慮した1年生の選択学習
- §2 生徒の興味・関心を生かす選択学習
- §3 課題(テーマ)別コースによる選択授業
- §4 グループ・ワークによる学校や地域の紹介
- V 国際理解・コミュニケーション力の育成を目指した総合的な学習
- §1 教科間の横断的なつながりを生かした学習 ―社会科(地理分野)の学習内容と関連させた英語の実践―
- §2 Eメールを利用した授業
- §3 学校,地域の特色づくりを目指した学習 ―国際理解をテーマにした総合的な学習の実践―
はじめに
戦後の我が国の教育を振り返ってみると,「個性を重視した教育の推進」は,どの時代においても教育改革の重要な柱の一つとしてあげられてきたように思われる。あの3年間の長きに亙って国民的な論議を展開した臨時教育審議会の第一次答申(昭和60年6月)を見ても,改革の基本方針・8原則の第1に「個性重視の原則」があげられている。即ち,「個性重視の原則は今次教育改革の第1の原則であり,教育の内容方法,制度,政策など教育の全分野が,この原則に照らして抜本的に見直されなければならない。」と謳っている。
その後今日に至るまで,多くの教育改革の提言やそれを受けた学習指導要領の改訂においても,例外なくこの「個性重視の原則」は,それぞれの改革の基本方針の中に貫かれてきたと思う。しかし,現実には改革の理念実現の第一歩であるべき‘一人一人の子どもの実状に応じた指導’については,制度的に十分な手立てが講じられないまま,徒に年月を重ねてきたように思えてならない。ついには,小学校における‘学級崩壊’の問題など,多様な要因が考えられるにせよ,学級を単位とした日常の学習指導が成立しにくくなるという深刻な事態も発生するに至っている。
こうした中で,平成8年7月の中央教育審議会第一次答申では,「各学校において一人一人の子供を大切にした教育指導ができるような環境づくりが大切である。とりわけ,個に応じた教育をこれまで以上に推進していくためには,各学校において,学習集団の規模を小さくしたり,指導方法の柔軟な工夫改善を促したり,さらには,中学校,高等学校での選択履修の拡大を図っていくことができるよう,人的な条件整備を一層進めることが必要である。」(__筆者)ことが提言されたのである。
さらに,同審議会の「今後の地方教育行政の在り方について」の答申(平成10年9月)や「教職員配置の在り方等に関する調査研究協力者会議」報告(平成12年5月)等を経て,このたび,文部科学省は義務第7次教職員定数改善計画を発表し,子どもたちの基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指して,学習集団の弾力化を図り,教科等の特性に応じて20人程度の少人数による授業が可能となるよう各学校の取り組みに対する支援策が打ち出されたのである。
こうして平成13年度から,全国各自治体下の小中学校において,この人的支援策を生かした多様な取り組みがスタートしている。中学校英語科も,数学や理科などと共にこの少人数指導の対象とされている所が多く,改めて「個に応じる指導」をどう展開したらよいかの厳しい対応に迫られることとなった。
本書は,こうした経緯を踏まえ,新制度としての「少人数指導」の効果的な展開の方法を探ることを第一のねらいとするものであるが,これを機に,21世紀の新しい教育課程の理念の具現化,とくに,中学校英語科の目標に基づいた「指導と評価の一体化」の問題や,必修英語―選択英語―総合的な学習等の新しい英語科の枠組の中で,少人数の学習集団を取り入れた指導をどう展開していくべきかを考えることも,重要な編集の柱とした。
そこで,1章を「なぜ英語科で少人数指導か」と銘打ち,まず,英語科における少人数指導の必要性,有効性等について,改めて共通理解を図っておきたいと考えた。
2章の「英語科少人数指導のポイント」では,コミュニケーション能力育成の基盤となる基礎・基本の徹底と言語活動の充実のためには,「学習の効率化」,「学習の個別化」が必要であり,それらを可能にするべき「指導と評価の一体化」即ち,「目標に準拠した評価」の方法について,正しく押さえておくことが肝要であることを述べた。
3章の「少人数指導を支える学習条件の工夫」では,新しい中学校英語科の主旨を生かした指導の在り方全体の取り組みの中で,いかに「少人数指導」を効果的なものにするかについて検討した。これらの考え方に立って,本書の眼目である4章は「英語科少人数指導の効果的展開プラン」とし,既に平成13年度において,行政からの人的措置を受けてこの新制度をいち早く導入した東京の2中学校における「トライアル事例」とも言うべき実践例を紹介。次に,これらの経験や教訓を踏まえた指導改善のアイデアとして,必修英語,選択英語,および総合的な学習の各場面から合計13の事例を提供した次第である。
現在,少人数指導の様々な実践への模索が広まりつつある中で,中学校英語科における習熟の程度に応じた指導や個に応じた指導などに取り組まれる学校,教師のために,これらの提案事例が多少とも参考になれば幸いである。
末筆ながら,本書の刊行に当たって終始ご助言を下さった明治図書の安藤征宏氏に,心から感謝する次第である。
2003年2月 編者 /荒木 秀二
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- 明治図書