- はじめに
- CHAPTERT クラスづくりをしながら音楽力もつく! とっておきの「ゲーム集」
- PLAN 1 授業開きは「耳のテストゲーム」!(低学年〜)
- PLAN 2 「拍子まわしゲーム」でコミュニケーション力アップ!(低学年〜)
- PLAN 3 リズム感がつく「3時のおやつゲーム」!(低学年〜)
- PLAN 4 クラスがまとまる「集中力ゲーム」!(低学年〜)
- CHAPTERU 体を使って「楽典」をおぼえちゃおう!
- PLAN 5 「小節」ってなぁに?(中学年〜)
- PLAN 6 あれっ? 自分で楽譜がかけちゃった!(中学年〜)
- CHAPTERV ポジティブな「鑑賞」のススメ
- PLAN 7 『剣の舞』を4倍楽しくする方法!(高学年)
- PLAN 8 『ハンガリー舞曲第5番』をボールを使って鑑賞する!(高学年)
- PLAN 9 「ロンド形式」ってなぁに?(高学年)
- CHAPTERW アプローチの工夫で「音楽づくり」だってへっちゃら!
- PLAN10 カードを使ってリズム曲をつくろう!(中学年〜)
- PLAN11 「一枚の絵」から「体の動き」,「音楽づくり」へ(中学年〜)
- PLAN12 ふーゆ(冬)と言えば,なーあーに?(中学年〜)
- PLAN13 チャレンジ! リズム即興演奏(高学年)
- CHAPTERX 授業を飛び出せ! 音楽科発のコラボなプラン
- PLAN14 音楽の学びを言葉で表現しよう「音楽新聞」(全学年)
- PLAN15 もっと楽しい全校集会「モーツァルトな朝会」(全学年)
- CHAPTERY クラスみんなの「表現」が輝く! とっておきのシナリオ劇&『ラストソング』
- PLAN16 オリジナル劇「盗まれた思い出」(4学年)
- おわりに
はじめに
もし,日本の小学校教育から音楽科がなくなってしまったら…… そんなことを想像したことがあるでしょうか。しかし,これは単なる空想ではないと私は考えてしまいます。事実,先進諸国でも公立小学校で音楽科が存在しない国は珍しくありません。日本だって,学力低下論に押される形で国語や算数など,いわゆる主要教科の時間数が増え,さらに英語も創設されました。そのしわ寄せが,いつ芸術教科に来るのだろうかとちょっと心配になるのです。
2008年春,新しい学習指導要領が発表されました。新しく〔共通事項〕が打ち出され,より明確な音楽の学力について言及された形になっています。いったいこれは何を意味しているのでしょうか。
私は,基本的に音楽の授業は,子どもが楽しく歌い,楽しく楽器を演奏し,楽しく音楽をつくり,楽しく聴き……,そして音楽が好きになっていく,音楽を人生の友としていく,これが大切なことだと考えていました。少なからず,新卒から10年間はこのことだけを信じていました。もちろん今もこの基軸は変わりません。
ところが,どうもそれだけではいけない時代になってきたようです。これまで音楽科は,「楽しさ」とか「感動」とか「美しさ」という玉虫色の言葉のベールに包まれていて,学力という点では曖昧な部分があったのも事実だと思うのです。ですから「音楽の授業で,どのような力がついたのですか?」と尋ねられても,私自身明確な答えを出せないでいたことも少なくなかったのです。「子どもたちの表情がよかったですね」とか「楽しそうでしたね」という感覚的な言葉で授業が評価されて,子どもにどんな力がついたのかが不明瞭だったような気がするのです。
もちろん,何かの物差しで測ってよさを数値化できないのも音楽の特徴です。例えば鑑賞の授業でも,音楽を聴かせて,その感想を書かせて,どの子の感想も素晴らしい……,そういう授業もあっていいと思います。しかしそればかりではなく,音楽を聴かせて,どの子も音楽の何らかの要素について聴き取れる,例えば「先生,合いの手が聴けたよ! わかったよ!」と笑顔で言えるような授業も大切になってきたと思うのです。そうでないと≪音楽不要論≫が頭をもたげる…… そんなことが起こると思ってしまうのです。
音楽科が教科として存在しなくなってしまう……,もちろんそんな馬鹿なことは私が生きているうちにはないと思いますが,でも,そうなってはいけないというテーゼを,本書に込めたいと思います。どんな音楽の授業を通して,どんな子どもを育てたいのか,音楽がなぜ小学校教育に必要なのかを本書に織り込みたいと思います。
本書では,新しい学習指導要領を展望した実践をご紹介しています。〔共通事項〕にもあるように,どのような学習活動を通して,音楽的な何を学ぶのかを明確に示すようにしました。また新しい学習指導要領でも力を入れている「言語力の育成」も意識しています。
音楽は心や体で感じるもの……。私はこの考えを大切にしています。が,その感じたことを言葉のレベルでも理解する,このことも軽視できないと思うのです。1時間の授業の中で,心と体でたくさん感じたことを,教師と子どもが言葉のキャッチボールをしながら,より確かな理解へとつなげる……そんな展開の始終を,読者の先生方がわかりやすいように紙面に表そうとしています。
本書の書名は『わかるからおもしろい! 音楽力がアップする授業レシピおいしいドルチェをどうぞ』としました。「わかるからおもしろい」というのにはふたつの願いがあります。ひとつは,子どもたちに音楽を理解していくことのおもしろさを感じてほしいという願い。もうひとつは,先生方が本書をお読みになって,授業のイメージがわかっておもしろいと感じてくださることへの願いです。ドルチェ(Dolce)とは,音楽用語で「やさしく」という意味です。また,イタリアンレストランに行けば「デザート」を意味しますよね。常に上手な演奏を志向するトレーニング的な授業ではなく,教師と子ども,子ども同士がやさしく接しあい,みんなが大好きな甘いデザートを食しているときのように笑顔があふれるような授業を目指したいという意味をこの書名に込めました。
ところで,私は3年前に『音楽〜からだで感じる授業づくり〜』(東洋館出版社)という本を書かせていただきました。そこでは,心や身体,頭(思考)の総体である「からだ」を通した音楽の授業の大切さを主張したのです。(Body としての体の意味に近いときには「身体」「体」,感じたり考えたりする意味を含めての体を示すときには「からだ」と表記しています。)本書の中でも,少なからず身体運動,身体表現にかかわる活動をご紹介しています。
どれも拙い実践の紹介ですが,読まれた先生なりに,あるいは先生方の目の前にいる子どもたちに合うように,いかようにもアレンジしていただいてお試しいただければ幸いです。
私の願いは,小学校の音楽の授業が子どもたちにとって楽しいものであって,子どもたちが音楽のことをより好きになってくれることです。目には見えない音楽をとらえようと感受性を豊かに働かせようとする子どもたちが増えることです。そうすれば,やはり目には見えない人の心をとらえようと,やさしさを働かせる子どもたちが増えると確信しているからです。
2008年8月吉日 筑波大学附属小学校 /倉 弘光
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- 明治図書