- はじめに
- T キーワードで探る発達障害児の運動機能の特性
- 1 発達障害児の運動特徴と運動指導の考え方
- Keyword1 「地に足をつける」
- Keyword2 「普通のことを普通に指導」
- 2 運動指導の目的と方法
- Keyword3 「運動を指導して何になるの?」
- Keyword4 「ケーキを横にしてみましょう」
- 3 運動指導とその指導者
- Keyword5 「文字式PE=f(a,b,c,/P)」
- Keyword6 「指導する側,される側」
- Keyword7 「間のコントロール」
- Keyword8 「指示する言葉の大切さ」
- Keyword9 「眼耳鼻舌身意」
- Keyword10 「はじめの態度が肝心」
- Keyword11 「誰が指導者なの?」
- U キーワードで学ぶ発達障害児の運動スキル開発のための課題づくり
- 1 個人スキルの習得
- Keyword12 「運動スキルの習得には補助の上手下手が左右する」
- Keyword13 「パーソナルエリアにノックせず侵入してみましょう」
- Keyword14 「できる者とできない者」
- Keyword15 「楽しさか?トレーニングか?」
- 2 個人スキルから集団スキルへの展開
- Keyword16 「集団指導とその補助」
- Keyword17 「自由とわがまま,そして責任」
- 3 運動実践の前に
- Keyword18 「社会で安全に暮らすためにはルールがある」
- 4 通常学級と特別支援の目標設定について
- Keyword19 「基礎は模倣と長時間座るスキル」
- Keyword20 「個人スキル習得を目的とした連携・協働」
- Keyword21 「個性ある仲間としての配慮」
- V 発達障害児への運動指導の基礎基本
- 1 集団・静止の捉え方
- 2 集団行動の実際
- 整列
- 対象となる子ども/運動指導開始前の子どもの様子/運動指導の構成/家庭での指導/運動指導の項目/バドミントン指導の意義/運動指導の推移に伴う指導重点の設定/各種実験・調査/運動指導の実際と結果/各節における毎時の運動指導の構成/体育指導の推移に伴う子どもの変容
- 3 集団指導における発達障害児のスキル定着度実験
- 実験1:集団指導における指導者と子どもの関わりを中心として
- 目的/各指導者について/方法/運動の流れと所要時間/分析方法/実験結果の考察
- 実験2:親子バドミントンラリー実験
- 目的/方法/実施時の各自の技能状況/親と子の関わり/聞き取り調査/結果
- W 種目別スキル習得マニュアル
- 1 陸上運動の指導
- (1)短距離走
- (2)長距離走
- 2 器械運動の指導
- (1)マット運動
- (2)跳び箱運動
- 3 ボール運動の指導
- (1)大きいボール
- (2)小さいボール
- (3)フライングディスク
- 4 水泳の指導
- 5 その他の運動指導
- (1)竹馬
- (2)一輪車
- (3)バドミントン
- おわりに
はじめに
運動のできない子どもに運動指導する。たとえ障害があろうと格段普通と変わった方法で行うことではない。
明治図書の真鍋恵美さんから特別支援学級の先生にわかりやすい運動指導の方法の執筆依頼を受け,承諾を迷いました。というのは,30年以上も障害児の運動指導を実践し続けている現在ですが,普通と変わりないことを指導しているだけで,特に障害があるからといって特殊な教材を用いて特別な運動指導をしている訳ではないからです。ただ運動を噛み砕いて子どもに分かりやすいようにしているだけなのです。自閉症であろうとダウン症であろうと身体が動く子どもであるという括りでしかないのです。差異を認めるとするならば個々の運動特性だけと考えています。ですから,指導者と子どもの関係性,補助の方法などもごく普通に行っているので執筆に迷ったわけです。
本書では「なんのために運動指導するの?」といった根本的な問題を頭に入れ,目的,運動指導の考え方,指導者のあり方などをキーワードとして提示しました。本文中にマニュアルとして紹介した章は一事例ということで捉えていただければと思います。なぜならば,指導者と子どもの関係性,場所,時など環境は刻々と変化していきます。指導は指導者と子どもとの関係性の上に成り立ちます。事務的で機械的だけの操作だけでは決して通用しないからです。
その子の人生における運動指導という大きな目標から考え,今の目標を設定する。大きな目標の成果は5年,10年先に現れるかもしれないけれど,小さな目標の結果はすぐに現れます。その結果において更なる問題解決に至るまでのマネジメントシステムを構築するのです。結果は必ず出さねばなりません。その結果を出すのが指導力と考えています。
キーワードについて各先生方はいろいろな考えをお持ちになると思います。筆者としては,簡単なキーワードを子どもの指導をイメージしながらもう一度深く考えて欲しいと願います。そうすることによって良い結果に通じるものと信じております。
私は個人で運動指導を実践しています。当然そこには会費という金銭の対価が発生します。結果がなければ契約は存在しません。いかに効率良く指導を実践していくかの最前線でいつも子どもと闘っているのです。しかし私にはそれを理解してくれる強い戦友がいます。それが保護者です。
おそらく運動指導というテーマで執筆するのはこれが最後となると思っています。今後は運動での媒介ではなく就労という媒介を通して完全自立のシステムとそのプログラムに挑もうとしています。
実践記録という位置づけでもある本書の執筆の機会を与えて下さった明治図書の真鍋さんをはじめ,戦友である保護者や多くのサポーターの皆様,そして主人公である「努力の価値観」を知った子どもたちに心より賞賛し感謝します。
2006年早春
伯耆の国大山山麓『森の学び舎』にて /九重 卓
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- 明治図書