- まえがき――ひと流れの動きに生命ありと―― /松本 千代栄
- 1章 奈良の子どもたちから
- 舞踊教育にあたって
- 舞踊教育一ヶ年をふりかえって
- 1.舞踊美の特質
- 2.舞踊教育の目標と指導
- 3.子供の声と私の反省
- 日記断片
- ダンスの指導記録――(六年)――
- 身体をとらえつつ身体をのりこえていくもの
- 問題の子ども
- 火花の子たち――ダンス能力の指導――
- ただひとつの生命のために――なかよし演出グループダンス――
- 街頭の子ども 心の素顔
- 続,身体をとらえつつ身体をのりこえていくもの
- 表現の命脈――ダンスの実践をとおして――
- 一つの作品をとおして観る子供の傾向
- 1.一つの作品
- 2.作品を観る目
- 3.二つの事実をとおして考えてみること
- 芸術性の伸展と児童期
- 一人の生活をみつめつつ――創作ダンスの指導――
- 指導以前の準備――舞踊――
- 1.指導計画
- 2.対象の洞察
- 3.素材の検討
- 4.用具の整備
- 子供の立場からのダンスの指導
- 1.一つの立場
- 2.子供の変化
- 3.むすび
- リズム運動――指導要領理解のために――
- 1.現状を訴える
- 2.歴史的事情をふりかえる
- 3.問題解決の力として
- 学校におけるダンスの指導
- 1.指導は,児童,生徒の欲求の方向にそって行われるべきである
- 2.指導は確かな目標をもって進められるべきである
- 子供たちの生活を豊かにするリズム遊び,リズム運動
- 1.誰とでも楽しく遊べる遊び方をおぼえる
- 2.リズミカルな動きを楽しむ
- 3.美的表現の経験と,それに伴う技能をふかめる
- 松本講師「新しいダンス指導のあり方」
- 学校ダンスと芸術舞踊
- 表現の指導
- 小学校におけるリズムや身振りの遊び リズム運動の年間計画例
- 1.はじめに
- 2.年間計画例
- (1)リズムの立場から見た地域社会と,児童の特性
- (2)本校のリズム教育の努力目標
- (3)年間計画作成上の考慮点
- 男児のリズム指導をめぐって
- 1.男児の一般的傾向
- 2.男児の指導
- (1)子供自身に,リズムに対する特別な意識をおこさせないで指導する。
- (2)子供自身に動きのスケッチをさせ,親しみをもたせる。
- (3)子供自身に,進歩を確認させる。
- (4)リズミカルな動きのゲームをたのしませる。
- (5)リズムの遊びの意義を理解させる。
- (6)男児の特性にてらして,身振りの遊びをする。
- 七月のリズム指導
- 1.七月のねらい
- 2.計画
- 3.展開
- 子供の表現を生かす運動会
- 『ダンスの指導』 学芸会のために
- 1.十二月は,子どもの個性に目を注ぎ,子供からひきだす。
- 2.お正月は,シナリオを考える。
- 3.一月は動きのスケッチや作歌,作曲,製作にあたる。
- 4.二月は総まとめ
- 教室でできる冬のリズム運動
- 1.課題に対して
- 2.指導の例
- (1)予想
- (2)動きの輪唱,私たちのフォークダンスの学習内容
- (3)「動きの輪唱」の実際例
- (4)「私たちのフォークダンス」の実際例
- (5)注意
- 3.あとがき
- <指導計画立案上の問題点>移行措置とリズム運動――四年生を中心に――
- 1.指導要領の説明
- 2.題材のえらび方
- 3.作品のまとめ方
- 4.表わし方
- 5.み方
- 6.指導のコツ
- 創作ダンスを先駆けた子どもたち
- ◆巻頭論文◆表現運動のポイント――感動の体験から動きの質をひきだす――
- 1.運動領域の特性を再認する
- 2.発達と表現の特性をふまえる
- (1)表現題材と発達
- (2)動きとグループの発達
- 3.学習のポイントをおさえる
- (1)ハッとする瞬間を生かす――低学年――
- (2)かかわりあって表現探険――中学年――
- (3)自分たちでの作品づくり――高学年――
- 2章 幼児の表現
- 動きの表現
- 1.動きの表現の発達
- (1)動きの表現の活動と発達
- (2)動きの表現の発達的特性
- 2.幼児における動きの表現の教育
- (1)動きの表現の教育的意義
- (2)表現の領域と区分
- (3)動きの表現の指導
- 表現あそび 第1回 表現あそび 保育モデルの設定
- 表現あそび 第2回 どうぶつの曲芸
- 表現あそび 第3回 ことりごっこ
- 表現あそび 第4回 お水が大好き
- 表現あそび 第5回 仲間と表現
- 表現あそび 第6回 花火
- 表現あそび 第7回 運動会「おまつり」
- 表現あそび 第8回 秋の野山
- 表現あそび 第9回 火の子だ! 跳び出す○○
- 表現あそび 第10回 雪のお祭り
- 表現あそび 第11回 鬼はー外,福はー内!
- 表現あそび 第12回 ヒヨコの冒険
- 表現あそび 第13回 まわる―とまる
- 表現あそび 第14回 とぶ―とまる
- 表現あそび 第18回 あつまる はなれる
- 表現あそび 第22回 こおる―とける
- 表現あそび 第23回 打つ―たたく
- 表現あそび 最終回 もうすぐ春だ
- 続・身体をひらき・心をひらく――幼児の「表現」をみなおす――
- 松本千代栄 バイオグラフィー
- あとがき /安村 清美 /中村 恭子
まえがき
――ひと流れの動きに生命ありと――
舞踊文化を見つめつつ,人間発達と自主創造性の学習を求め続けた年月は,留めおく術もなく過ぎ去ったが,折々の思いをこめた筆跡は,今もその刻々の想いを鮮やかに甦らせる。
第1巻『舞踊論叢』には,創造的芸術経験としての舞踊の特質を問いつつ,体育科のなかに位置づけられた舞踊の存在を,その文化の本質のままに,人間教育に資するものとしようとする思索と努力の日々の論考が収められている。舞踊教育の核心を「ひと流れの動きに生命ありと――」と,見定めて求め歩いた年月の足跡でもある。
第2巻『人間発達と表現――幼・小期』には,奈良女子高等師範学校附属小学校で子どもたちと取り組んだ,初心の実践の記録が収められている。
1945年敗戦。教育の目的を見失った。翌1946年には奈良へ戻り,模索の中に「ダンス」――創作学習に取り組んだ。子どもたちの煌きに瞠目しながら,教育人生の根幹が育まれた日々の記録である。
他方に,幼児の遊びの中核にも,「身体表現」を置くべきだと考えた園との交流。東京都新宿区の幼稚園との長年の取り組みは,この巻にその成果を収めている。
第3巻『人間発達と舞踊創作』は,“大学へ移ることで,あなたと同じではなくとも,あなたの思想を受け継ぐ人が育つ――”と,恩師竹之下休蔵先生の勧めを享けて大学の人となり,広く人間発達と表現を考え,教育・研究を推進する立場に立った時――。
戦後初の「学校体育指導要綱」(昭和22年)で,作成委員として初めて「ダンス」(作品創作・作品鑑賞・表現技術)の名称を採り,創造的芸術経験を学習に採り入れた。その年月の足跡――「教える教育から,ひきだす教育への転換」――「問題解決学習」としての小集団学習の実証的研究と成果を,ここに残している。
また,教師としての自主研修の会――与えられた研修の機会だけでなく,教師は生涯,自発的に研修を続けるべきである――との信条を持し,会を興した日からの足跡もここに収めている。
第4巻『舞踊発想と音楽』――この巻には,人間発達と経験を考え,学習者の表現をより豊かに――と希い,創案・制作した多くの「舞踊発想と音楽」の創案を収集・提示している。
奈良女子高等師範学校附属高校時代の清田倫子先生の豊かな詩歌の教育,東京女子高等師範学校での音楽専攻の学恩,とりわけ,宅孝二先生の「演奏」への深いお導き,また,多くの作曲家の協力なくては,この舞踊音楽発想創案の研究は成し得なかった。想を湧かせ,想を手引きして,新しい創作を拓く先達の役割――こんなに楽しい仕事を続けることができたのは,何よりの幸せであった。
この楽しい豊かな出会いの機会をいただいたのは,日本コロムビアの足羽章・井上英二両氏からであった。
また,この巻には,思いがけない機会を頂いて,英国女王エリザベス二世陛下に捧げた「栄光の春の日に」の作演を収めている。陛下のご覧になるであろう日本の自然や文化を想像しながら,「In Spring Glory――栄光の春の日に」の創案を持ち,子どもたち・学生たちとともに作をまとめた。翌日の新聞には,女王様の美しい笑顔とともに,春の季節の「栄光」と,女王様をお迎えする「栄光」を重ねた発想を生かした作演の写真が大きく掲げられていた。解説者として後部座席に座した私の着物姿を,子どもたちは「先生も女王様みたい!」と喜んでくれた。序破急のはこびで,和楽器も加えての作曲は,演の心をより鮮明にして下さったと感謝している。数少ない洋と和の風情を備えた楽曲として心に残る。
また,「プログラム」には望まれて,多くの「ことば」を贈らせて頂いた。作品が「上演」される時,作者と観者は,初めて「出会いの時」を持つ。「プログラム」には,この「一期一会」の時を,一人でも多くの人に――と願い,“ことば”を贈る。贈る“ことば”は,言い換えれば,作者と主題を見詰める舞踊観であり,また作者・観者に贈る表現愛の心でもある。
第5巻『舞踊教育の開拓』――教職にあった長い年月は,変動の時代に立ち,多くの社会的役割を負う日々でもあった。
体育の中のダンスの在り方を問われつつ,海外での指導・視察の機を得て視野を開き,また,第6回国際女子体育会議東京開催を実現して,海外依存ではなく,自立の襟度を――と,理想とする将来を展望した時期でもあった。
(社)日本女子体育連盟の設立。長として歩き続けることは,研究者としては岐路に立つ日々も少なくはなかった。しかし,社会人としての「私」は,この人間集団の中で育くまれたと省みている。
更に,この巻に収められた,この長い道程の中で頂いた多くの讃辞や評価は,この年月を見守り,育んで下さった,数えきれない多くのお力の証である。お導きを得ての年月を思いかえし,よき見守りを得た人生の幸をあらためて噛みしめ,深謝している。
最後に,「松本千代栄撰集」5巻の編纂を企画・完成して下さった「舞踊文化と教育研究の会」の安村清美(編集代表)・中村恭子・野章子・岩川眞紀の皆様に,また,完成を見ることなく,逝かれた――大鋸桂子様を思い,ここに心からの謝意を表したい。
よき教え子たちに見守られて,共々に歩いた年月は,何よりの至福の時であった。
刊行の実現は,明治図書出版株式会社編集部の石塚嘉典氏,有海有理様をはじめ,編集部の皆様のお力添えによるものである。心細やかに原稿を見届けていただいて,全5巻がまとめられた。
本撰集が,人間発達と舞踊に関わる方々のために,ひとつの灯を点じることになれば,これ以上に嬉しいことはない。
この夏は,韓国忠北大学体育学科創立50年記念国際シンポジウム(実行委員長:下在京教授)に招聘され,英・仏・中国からの講師にお出会いし,記念講演「One Flowing Movement Contains the Total Essence of Human Existence」を終えて帰国。国を越えて師弟の縁を思う時であり,舞踊と舞踊教育の個と汎世界性を思う時ともなった。多くのお力を得て,本撰集が世におくられる――。
この世界の人間文化と教育の限りない充実・発展を願いつつ――。
2007年12月 /松本 千代栄
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- 明治図書