- まえがき――ひと流れの動きに生命ありと―― /松本 千代栄
- 1章 身体と表現
- 身体表現を読む
- 1.表情・動作
- [1] からだで語り合う日常――記号化された身体
- [2] からだと言語――心を代弁する身体
- [3] からだと表現――象徴化された身体
- 2.演じられた世界
- [1] 祭儀性の演
- [2] 遊戯性の演――リズム・仲間・陶酔
- [3] 審美性の演――個の覚醒と美的形成
- 3.ファッション――身体意識
- 身体で表現する
- 1.身体表現の仕組み
- [1] 運動とイメージの連合
- [2] 舞踊の構造と要素
- 2.身体で語る――@表現の語法
- [1] 表現の材質としての身体
- [2] 動きの単語(身体―運動の要素)
- [3] 動きの語句(運動―変化―連続の要素)
- [4] 動きの文章(群―構成・主題―構成の要素)
- [5] 動きのデッサン(主題の要素)
- 3.身体で語る――A語彙を広げる,動きの文体・作風
- [1] 変化・連続の動き
- [2] 動きの質と情調
- [3] 動きの文体・作風
- 4.表現と効果
- [1] 表現と美的原理
- [2] 集団創作
- [3] 表現と効果(道具,衣装,音)
- 2章 道をもとめる
- 巻頭言 生涯に生きるダンス学習
- 巻頭言 教育と文化――舞踊の現在を考える――
- 巻頭言 トータルな識見と建設力を
- 巻頭言 「私自身」を問う――節目の刻に――
- 巻頭言 大地を踏みしめて――人間学としての舞踊を――
- 巻頭言 個を啓き,共生の時代を拓く――舞踊――
- 巻頭言 感動の世界
- 女教師の問題
- 十年後を夢みる
- 今月のことば “道”をもとめる
- 人間の始源の豊かさを
- 3章 舞踊文化と教育 1.舞踊の原理
- 講座 舞踊文化と教育(1) 「語り」と「踊り」のパフォーマンス
- 講座 舞踊文化と教育(2) 「祭儀」と「表現」の演舞
- 講座 舞踊文化と教育(3) 「女性」と「男性」を拓く身体形式
- 講座 舞踊文化と教育(4) 変身の美を求めた段落形式
- 講座 舞踊文化と教育(5) 形式を越える形式――現代の打ち明け――
- 講座 舞踊文化と教育(6) 「人は,なぜ踊る?」
- 4章 舞踊文化と教育 2.文化と教育をつなぐ
- 中学生への話 芸術舞踊の様式について
- 読んでおきたい本 ダンス
- 研究 教科における情操育成(3) 体育科をとおして
- 研究 身体表現による人格指導
- 間拍子論考――間と動きのメカニズム――
- 特別講演 日本人と身体表現――現代社会における意義と方法を求めて――
- 舞踊教育の比較研究(在外研究報告S.51.3〜5)
- 特別講演 舞踊教育の比較研究――在外研究の報告から――
- 自己表現の喜びを子供らに 松本千代栄女史に聞く
- 新しい舞踊教育への課題 いまダンスで何が問題か
- 論説 舞踊の本質を生かす学習指導
- 論説 ダンス・フォア・オールの時代――世紀末の中の胎動と新生――
- 記念講演 からだで語る世界 Human beings as performers
- 論説 続・からだで語る世界――かたちと表現質――
- 論説 舞踊教育研究の課題――学習指導研究の前提として――
- 講座 中高校生への講話 創作舞踊とは
- 体育の戦後史に学ぶ ダンス教育の成果と展望
- インタビュー イギリスの舞踊教育を問う /マリオン・ノース,ボニー・バード
- 特集――ダンスの授業・Q&A ダンス教育の世界と日本
- 論説 ダンスとは何か――その潜在的特質――
- 論説 これからの舞踊教育
- 論説 舞踊の近現代を読む――教育研究の四十五年――
- 論説 表現の教育――人間学を求める――
- 論説 現代社会と舞踊文化
- 論説 舞踊鑑賞――変幻の妙味――
- 夏季講座講話 文化の総体を擁する表現
- 特集 戦後50年学校体育の成果と課題 戦後50年 ダンスの教育の成果と課題
- 身体形式と芸術経験の融合―「表現」学習――大学の研究と教育現場の連携によって――
- 特集◇身体表現 表現と体育,そして舞踊教育
- 講座 人間発達と「表現」――問題解決学習を先駆けた五〇余年――
- 授業研究 表現・ダンス ダンス学習 極性の原理――美と感動の源――
- 私の思い出の一冊――川端康成著「美の存在と発見」――
- 5章 お茶の水女子大学 最終講義
- 最終講義 ひと流れの動きに生命あり――と
- 松本千代栄 業績一覧
- 松本千代栄 バイオグラフィー
- あとがき /安村 清美
まえがき
――ひと流れの動きに生命ありと――
舞踊文化を見つめつつ,人間発達と自主創造性の学習を求め続けた年月は,留めおく術もなく過ぎ去ったが,折々の思いをこめた筆跡は,今もその刻々の想いを鮮やかに甦らせる。
第1巻『舞踊論叢』には,創造的芸術経験としての舞踊の特質を問いつつ,体育科のなかに位置づけられた舞踊の存在を,その文化の本質のままに,人間教育に資するものとしようとする思索と努力の日々の論考が収められている。舞踊教育の核心を「ひと流れの動きに生命ありと――」と,見定めて求め歩いた年月の足跡でもある。
第2巻『人間発達と表現――幼・小期』には,奈良女子高等師範学校附属小学校で子どもたちと取り組んだ,初心の実践の記録が収められている。
1945年敗戦。教育の目的を見失った。翌1946年には奈良へ戻り,模索の中に「ダンス」――創作学習に取り組んだ。子どもたちの煌きに瞠目しながら,教育人生の根幹が育まれた日々の記録である。
他方に,幼児の遊びの中核にも,「身体表現」を置くべきだと考えた園との交流。東京都新宿区の幼稚園との長年の取り組みは,この巻にその成果を収めている。
第3巻『人間発達と舞踊創作』は,“大学へ移ることで,あなたと同じではなくとも,あなたの思想を受け継ぐ人が育つ――”と,恩師竹之下休蔵先生の勧めを享けて大学の人となり,広く人間発達と表現を考え,教育・研究を推進する立場に立った時――。
戦後初の「学校体育指導要綱」(昭和22年)で,作成委員として初めて「ダンス」(作品創作・作品鑑賞・表現技術)の名称を採り,創造的芸術経験を学習に採り入れた。その年月の足跡――「教える教育から,ひきだす教育への転換」――「問題解決学習」としての小集団学習の実証的研究と成果を,ここに残している。
また,教師としての自主研修の会――与えられた研修の機会だけでなく,教師は生涯,自発的に研修を続けるべきである――との信条を持し,会を興した日からの足跡もここに収めている。
第4巻『舞踊発想と音楽』――この巻には,人間発達と経験を考え,学習者の表現をより豊かに――と希い,創案・制作した多くの「舞踊発想と音楽」の創案を収集・提示している。
奈良女子高等師範学校附属高校時代の清田倫子先生の豊かな詩歌の教育,東京女子高等師範学校での音楽専攻の学恩,とりわけ,宅孝二先生の「演奏」への深いお導き,また,多くの作曲家の協力なくては,この舞踊音楽発想創案の研究は成し得なかった。想を湧かせ,想を手引きして,新しい創作を拓く先達の役割――こんなに楽しい仕事を続けることができたのは,何よりの幸せであった。
この楽しい豊かな出会いの機会をいただいたのは,日本コロムビアの足羽章・井上英二両氏からであった。
また,この巻には,思いがけない機会を頂いて,英国女王エリザベス二世陛下に捧げた「栄光の春の日に」の作演を収めている。陛下のご覧になるであろう日本の自然や文化を想像しながら,「In Spring Glory ――栄光の春の日に」の創案を持ち,子どもたち・学生たちとともに作をまとめた。翌日の新聞には,女王様の美しい笑顔とともに,春の季節の「栄光」と,女王様をお迎えする「栄光」を重ねた発想を生かした作演の写真が大きく掲げられていた。解説者として後部座席に座した私の着物姿を,子どもたちは「先生も女王様みたい!」と喜んでくれた。序破急のはこびで,和楽器も加えての作曲は,演の心をより鮮明にして下さったと感謝している。数少ない洋と和の風情を備えた楽曲として心に残る。
また,「プログラム」には望まれて,多くの「ことば」を贈らせて頂いた。作品が「上演」される時,作者と観者は,初めて「出会いの時」を持つ。「プログラム」には,この「一期一会」の時を,一人でも多くの人に――と願い,“ことば”を贈る。贈る“ことば”は,言い換えれば,作者と主題を見詰める舞踊観であり,また作者・観者に贈る表現愛の心でもある。
第5巻『舞踊教育の開拓』――教職にあった長い年月は,変動の時代に立ち,多くの社会的役割を負う日々でもあった。
体育の中のダンスの在り方を問われつつ,海外での指導・視察の機を得て視野を開き,また,第6回国際女子体育会議東京開催を実現して,海外依存ではなく,自立の襟度を――と,理想とする将来を展望した時期でもあった。
(社)日本女子体育連盟の設立。長として歩き続けることは,研究者としては岐路に立つ日々も少なくはなかった。しかし,社会人としての「私」は,この人間集団の中で育くまれたと省みている。
更に,この巻に収められた,この長い道程の中で頂いた多くの讃辞や評価は,この年月を見守り,育んで下さった,数えきれない多くのお力の証である。お導きを得ての年月を思いかえし,よき見守りを得た人生の幸をあらためて噛みしめ,深謝している。
最後に,「松本千代栄撰集」5巻の編纂を企画・完成して下さった「舞踊文化と教育研究の会」の安村清美( 編集代表)・中村恭子・野章子・岩川眞紀の皆様に,また,完成を見ることなく,逝かれた――大鋸桂子様を思い,ここに心からの謝意を表したい。
よき教え子たちに見守られて,共々に歩いた年月は,何よりの至福の時であった。
刊行の実現は,明治図書出版株式会社編集部の石塚嘉典氏,有海有理様をはじめ,編集部の皆様のお力添えによるものである。心細やかに原稿を見届けていただいて,全5巻がまとめられた。
本撰集が,人間発達と舞踊に関わる方々のために,ひとつの灯を点じることになれば,これ以上に嬉しいことはない。
この夏は,韓国忠北大学体育学科創立50年記念国際シンポジウム(実行委員長:下在京教授)に招聘され,英・仏・中国からの講師にお出会いし,記念講演「One Flowing Movement Contains the Total Essence of Human Existence 」を終えて帰国。国を越えて師弟の縁を思う時であり,舞踊と舞踊教育の個と汎世界性を思う時ともなった。多くのお力を得て,本撰集が世におくられる――。
この世界の人間文化と教育の限りない充実・発展を願いつつ――。
2007年12月 /松本 千代栄
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- 明治図書