- まえがき /武村 重和
- 第一部 「生きる力」へのアプローチ(理論編)
- 第1章「生きる力」と「自分さがし」
- 1 今,求められる「生きる力」
- (1) 子どもたちは本当に変わったのか
- (2) 21世紀の社会をどのように生きる子どもを育てるのか
- (3) 今,育てたい「生きる力」とは
- 2 「生きる力」と小学校教育
- (1) 小学校教育に求められるもの
- (2) 「自分さがし」とは何か
- (3) 「自分さがし」を可能にする教育とは
- (4) 「自分さがし」を育む学校,家庭,地域の連携
- 3 生活科・理科における「生きる力」
- (1) 生活科における「自分さがし」とは
- (2) 理科における「自分さがし」とは
- 第2章 オープン化構想による「生きる力」へのアプローチ
- 1 「自分さがし」を可能にする単元構想の基本
- (1) 学習を捉え直すための発想転換
- (2) 子どもが登場する学習構想とは
- (3) オープン化構想とは
- 2 単元のオープン化構想
- (1) 単元のオープン化構想と横断的総合的活動
- (2) オープン化構想による単元づくりの具体
- (3) 活動の成立要件と支援
- (4) 評価と支援
- 3 アプローチ単元と「自分さがし」
- (1) アプローチ単元とは
- (2) アプローチ単元厳選の視点
- 第2部 オープン化構想による単元モデル(実践編)
- 1 地域素材を取り込んだ単元づくり
- (1) オープン化構想における地域素材の位置づけ
- (2) 遺跡公園と生活科の単元開発
- (3) ふるさとの川(喜瀬川)の変容と子どもたち
- (4) 川に学ぶ生命と環境
- 第1学年 ふしぎいっぱい,大中やよいの村へ 〜タイムマシンにのって〜
- 第5学年 喜瀬川の生命とともに
- 2 教科枠を乗り越える横断的総合的単元の展開
- (1) 総合的な単元設定の必然性
- (2) 多面的な視野からの「水」の探求
- (3) 「火」に関わる総合的プロジェクトの展開
- 第4学年 水の旅を追いかけよう
- 第6学年 僕らは炎のチャレンジャー
- 3 子どもの発想から構成される学習活動の展開
- (1) 子どもたちの発想が学習を変える?
- (2) プロジェクトの展開から生み出される発想
- (3) こだわりや問題意識から発想を生み出す場の設定
- 第2学年 ぼくらは町のツアー会社 〜町のステキへご案内〜
- 第3学年 じょうぶなだんごのヒミツを探ろう
- 4 生活に向けて開かれる学習のあり方
- (1) みんなだれもが学習世界を持ち得ている
- (2) 生活科における活動の開放
- (3) 科学性が子どもたちの生活に開かれていくとき
- 第1学年 ドキドキ.ドン! 1年生! 〜1年生になったよ〜
- 第2学年 蓮池おもちゃランドをつくろう
- 第3学年 蓮池っ子ルミナリエ
- 第5学年 マッスルランキング 〜力は重さに勝てるか?〜
- あとがき /大辻 裕彦
まえがき
子どもは,未成熱であり,未完成であり,可塑性に富み,無限の可能性をもつがゆえに,意図的な教育環境にて育てられます。
子どもは,良い環境では,子猫よりはるかに好奇心が強いです。不安や恐れの感情をあまりもたず,未知なるものに興味や関心をもちます。子ども自ら意欲をもって体験し,観察し,めあてをもって行動します。考え,感じたことをイメージ化し,身体や絵,図,文章にて表現します。子どもは課題をもって調べたり,操作したり,体験や学習活動を振り返って,予想と結果を考え直したり,友だちと協力して調べたことを話し合ったりして,よりよい問題解決を行います。子どもは,良い学習場面においては,問題を見つけ,個々の事実を集め,整理し,規則性を求めようとします。友だち同士で考えを練り,深め,理由を考え,その発見を友だちに伝えます。言葉によって思考し,概念化し,事象にひそむ存在の理法を認識しようとします。このような活動の資質と能力を育てることは,まさに「生きる力」の教育の実現と言うことができます。このような良い教育環境の場を創造して学習指導を行うには,先に学術的な知的内容の理解過程があるのではなくて,子どもの課題追求の連続と発展の過程があり,広がり深まる学習が想定されていなければなりません。このような教育を実現するために「オープン化をめざす総合単元の開発」が必要であるのです。
オープン化をめざす総合単元の開発による授業は,子どもに知的認識の伸長を促進するだけではなく,そのような場で,子どもは,飼育栽培をしたり,新聞や本を作ったり,製作活動や料理をしたり,お祭りごっこやゲームをしたりして,創る活動に没頭し,我を忘れることがあるのです。
子どもは何かを成し遂げたときは歓声を上げ,心の底から喜び,感動に満たされた状態を経験します。子どもは自己に生きがいを見つけ,自己を実現し,自己のよさを見つけます。次第に,美しいもの,正しいものに共感する感受性も高まり,個性的な自分を自覚していきます。これはまさに,「自分さがしの旅」と言えましょう。
学校,家庭,地域の環境との相互作用を通して,自己が生きる信念や理想を学びとり,自己の経験に意味を与え,自己の価値を読みとっていきます。子どもは自己の内的生活の充実をめざし,社会的に,精神的に,道徳的に成長し,新しい価値や世界観を創っていきます。これらの子どもたちによって,新しい文化や社会が創造されます。
蓮池小学校の大辻裕彦校長先生を中心に,学校の先生方のこのような教育の開発に,敬意を表するとともに,出版のお世話になった明治図書の江部満氏及び樋口雅子女史に厚くお礼を申し上げます。
平成9年秋 広島大学教育学部教授 /武村 重和
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- 明治図書