- まえがき
- 巻頭言
- T なぜディベートをするのか
- §1 なぜディベートが英語学習で必要なのか
- ――体験型学習のすすめ――
- 1 もっと「意味のある繰り返し」を
- 2 違いを作って意見を拮抗させる
- §2 オランダで見た驚くべきディベートの授業
- ――全てはここから始まった――
- 1 これがディベートなのか!?
- 2 ディベートは仕掛けがものを言う
- 3 このディベートを成功させた条件
- §3 コミュニケーション能力を高めるディベート
- ――これなら話せるようになる――
- 1 これからは必ずディベート学習が必要になる!
- 2 英語でディベートをするのはなぜか
- §4 ディベートは教室で何を育てるか
- ――生徒が熱狂するにはわけがある――
- 1 ディベートが育てる力
- 2 ディベートの面白さを満喫する
- U 「英語でディベート」の下地を作る
- §1 コミュニケーションが図れる集団を作る
- ――comfortableな仲間づくりをペア学習で――
- 1 はじめに
- 2 ペアの作り方に配慮する
- 3 ペアを作る
- 4 兄弟ペア,ライバル・ペアを作る
- 5 ペア・リーダーを育てる
- 6 ペア学習の有効性を理解させる
- 7 全ては実態把握から
- 8 マンネリから脱皮させるアイデア
- 9 生徒たちがペア学習を支持する理由
- §2 「発信型」英語への道
- [1] 英語を楽しく聞き取る活動を仕組む ――コミュニケーションはキャッチボール――
- 1 相手の言っていることをしっかりと聞く
- 2 聞きとれるようになるための効果的な方法
- 3 音読こそがヒアリング能力を高める
- 4 ヒアリングでメモをどう残すか
- [2] 聞きたくなる,話したくなる,書きたくなる活動を仕組む ――まず自尊心を育てよう――
- 1 聞きたくなる,話したくなる,書きたくなる Show and Tell
- 2 書くときの指導をどうするか
- 3 話すときの指導をどうするか
- 4 Show and Tell の教師の演出
- 5 Show and Tell のスピーチを聞いてコメントを書く
- 6 新聞を読んでスピーチ(My Opinion)をする
- [3] 英語で発信する活動を仕組む ――スキットやドラマ作りを通して――
- 1 英語で発信するとは
- 2 表現力をつけるための練習
- 3 authentic な場面を作り出す
- 4 小物を実際に持ってきて演技をする
- §3 表現力と論理性を高める
- [1] 自分の意見が述べたくなる活動を仕組む ――身近な話題で頭をやわらかくする――
- 1 感情を表す形容詞を使う(対象は2年,3年)
- 2 読んでわかりにくい部分を補う(対象は2年,3年)
- 3 好きか嫌いかを意識させる(対象は2年,3年)
- [2] 文をつなげて話題を発展させる ――コンテクストをふくらませる――
- 1 紋切り型からの脱出
- 2 反対の立場で付け足す,または理由を言う
- [3] 相手にすばやく反応する ――消しゴムを使って楽しく――
- [4] 間違い探しと添削で英語の力をつける ――誰でも気楽に参加できる活動を――
- [5] 具体的な場面を想像して述べる ――lt's interesting.ではわからない――
- 1 「感想」ではなく「伝えること」に目的を変える
- 2 読み手(聞き手)を意識して書く(話す)
- 3 具体的な描写に気づく
- [6] 反駁で論理を鍛える ――誰でも反論するのは楽しい――
- [7] 意見を論理的に述べられるようにする ――両面から考える――
- [8] Four Cornersで自分の意見を持つ ――どの子にも Because〜.で意見が生まれる――
- 1 自分の意見を持つようになる Four Corners
- 2 ひと味違った Four Corners
- §4 学びの磁界(まとまった内容のもの)をつくる
- ――英詩,創作童話,エッセイを楽しんで作る――
- 1 自己表現のしかたを考える
- 2 学びの磁界を作る
- 3 使いながら英語を学ぶ
- V ディベートを体験する
- §1 失敗から学んだこと
- ――わかったつもりと見切り発車が失敗を招いた――
- §2 「ディベートは楽しい!」というイメージを作ろう
- ――まず日本語でやってみて,対応の指導をする――
- 1 意見の桔抗は学習へのエネルギーになる
- 2 ディベートで生徒が変わった!
- §3 話したくなるような論題を設定する
- ――身近な題材で意見が分かれるものを――
- §4 ジャッジを育てる
- ――論理性を見極めることの大切さを教える――
- 1 論理的思考を育てる
- 2 教師がジャッジの結果を見せて説明する
- §5 実際にディベートを体験する(日本語編)
- [1] 3人グループのマイクロ・ディベートを楽しむ ――ジャッジを体験して論理性を学ぶ――
- 1 なぜマイクロ・ディベートが効果的なのか
- 2 マイクロ・ディベートの実際の指導をどうすればいいか
- [2] 4人グループ対抗のディベートを楽しむ ――ナンバリング,グルーピング,ラベリングを学ぶ――
- 1 ナンバリング,グルーピング,ラベリングとは?
- 2 実際のディベートを体験する
- 3 調査活動が必要になるような論題を設定する(第1時)
- 4 見通しを持たせる(第1時)
- 5 考えを整理する(ナンバリング,グルーピング,ラベリング)(第2時)
- 6 作戦を考える(第3時)
- 7 フローシートの書き方を学ぶ
- [3] クラス対抗のディベート大会を楽しむ ――より盛り上がるように教師が仕掛ける――
- 1 ライバル意識を利用する
- §6 英語でディベートをする
- [1] ペアで紙上ディベートを楽しむ ――時間を気にせず手紙のやりとりの感覚で自由に――
- [2] クラス対抗の紙上ディベート合戦を楽しむ ――真似たい意見をチェックし口頭ディベートへ――
- 1 教科通信の上で紙上ディベート合戦を仕組む
- 2 ペアの紙上ディベートへ
- [3] コンピュータでディベート合戦を楽しむ ――LANと「キーボード共有」の機能を使って――
- §7 1時間で体験できる英語のディベート
- ――日本語(ペア)→英訳 (全体)→英語(ペア)――
- §8 英字新聞を使って英語のディベートをする
- ――どんな資料とフローシートを与えるか――
- 1 知識と方法だけではコミュニケーションは図れない
- 2 英字新聞を利用する
- §9 教師も実際にディベートを体験しよう
- ――教師も楽しさを実感しよう――
- 1 ALTと模擬ディベートを体験してみる
- あとがき
まえがき
中学校でも英語のディベートはできる。
実際に3年間ディベートを実践してみて私はそう確信した。
そこで次の2つの目的でこの本を書いた。
[1] ディベートができるようになる生徒を育成するためのシラバスについて具体的に紹介する(U章)
[2] 英語のディベートを実際に指導したいと考えておられる先生方にディベートのやり方のいろいろな方法を紹介する(V章)
だから,できるだけ授業で使えるアイデアや方法を書くようにした。
生徒たちは私の授業のやり方を「中嶋マジック」と呼んでいる。そんな彼らが,この本の読者に向けてメッセージを考えてくれた。
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・中嶋先生はマジシャンだ。先生が杖をふる。私たちが「そんなことできない」と言っても全然受け入れてくれない。しょうがないのでブツブツ言いながら取り組む。そのうちに夢中になっている自分に気づく。終わった時はなぜか満足している。時には感動してしまうことさえある。先生はそれがわかっていたかのように見て見ぬふりをしている。(平成6年度卒 金井郷子)
・中嶋先生は,生徒がどうやったら英語が身につくのかを心得ていて,いろんなアイデアでせまる。ディベート,ペア学習,英語の歌,ひと味違った教え方など,さまざまだ。だから次にどんなやり方が出てくるのかわくわくする。その中嶋マジックがこの本で紹介されるそうだ。これは絶対のお薦めだ。(3年 遠藤美穂)
・中嶋先生の授業は,他の先生だとなぜか頭に入らないのに,その時間のうちに覚えていってしまう。とても不思議だ。しかしとても楽しい。(3年 杉岡万里子)
・授業の初めに,よく3分間で簡単な英語の討論を行う。先生がある質問を出して私たちがジャンケンで肯定,否定に分かれて対決するのである。これが白熱する。しかも,相手のことを真剣に聞くようになると,相手の気持ちもわかるようになってくるのである。(3年 小竹 翠)
・中嶋先生がディベートの本を出すという。いいことだ。ディベートは実にわくわくする。相手がどんなことを言ってくるかわからないからだ。相手の意見に素早く反応して反論するというのは大変だ。ディベートには筋書きがない。だから面白いのだ。また英語でディベートをすると,本当に英語を使って話しているという気持ちになれる。必死に相手の意見を聞き,自分の意見を英語で伝えようと必死に考える。ずいぶん賢くなったような気がする。(3年 加賀見由希)
・ディベートで自分の意見をいろいろ考えたり,相手の言うことを予想したりするのは確かに難しい。でも,中嶋先生の方法だと不思議なことにやりたいという気になる。ディベートで頭を使うのが苦痛ではなくなり,英語を使うのが楽しくなってくる。(3年 米田伊都子)
・ディベートは楽しい。相手と意見を言い合うのでとてもやりがいがある。準備をして話すのも大切だが,その場で即座に英文を作ってメッセージを必死に伝えようとするのは発想力を高めることができてとてもいい。ぜひ,クラスで英語でディベートをされることをお薦めする。(3年 野原大資)
・ディベートは,頭の回転を早くするとてもいい勉強法である。なによりもいいのが,私たちが真剣になれるということだ。自分たちの意見を戦わせているとき,英語が手段であることに気づく。すると,とても気が楽になって英語を使うことが楽しくなってくる。また,ディベートを経験すると物事を深く考えることができるようになる。この本で,たくさんの方にディベートの良さを分かってもらえるのではないかと,私は密かに期待している。(3年 中付裕子)
ちょっと大げさかなと思えるようなものもあるが,彼らの期待に応えられるような出来映えになっているかどうかは読者の判断にお任せしたい。
ところで,本書をお読みになる前に述べておかねばならないことがある。私の授業を支える基本理念についてである。この本はそれに基づいて書かれていることをまずご了解いただきたい。次の3点である。
1 書くことを重要視している
論理的に話すためには,まず自分の考えがまとめられることが大切である。話すことだけを続けても,決してまとめられるようにはならない。そんな時,書くという行為が頭を整理するのにとても役に立つ。なぜなら,自分の書いた内容の論旨を即座に読んで確認できるからだ。書き手と読み手という二役を同時にこなすということが,この「確かめる」という作業を可能にする。だから私の授業では書くことをとても大切にしている。基本的には「たくさんの量を書く」ということである。なぜなら,定着させるには量(慣れ)をこなすことが大切だからである。そしてその内容と方法は次のようになる。
@友人の意見やスピーチやビデオ(映画や歌のビデオクリップ)を聞く,見るという活動の後で必ず意見を書く。
書きたいという必要感を生み出すためである。
A詩,エッセイ,童話や紀行文などのようにまとまった文を書く。
言うまでもないが,まとまりのある文を書くことで論理が意識できるようになるからだ。
B英作文(和文英訳)をする。
日本語と英語を対比させることで,日本人の一番つまずきやすい語順を意識できるようになるからである。
書くことなら誰でもできる。他人の考えに左右されない自分の意見が持てる。そしてその結果,話し合いにも主体的に参加できるようになる。
2 教科通信等を利用し「価値観偏差(意見や考えの違い)」を生み出す
自分の考えと同質なものは自らを高めてくれない。むしろ自分の考えとは異質なものは興味をわき立たせ,新しい自分を発見させてくれる。そこで,教科通信を利用して,いろんな生徒の考えや作品を提示する。「学力偏差」ではなく「価値観偏差」に基づく授業をつくり出すのである。友だちの考えや意見,作品は彼らにとってまさに生きた教材なのだ。これについては,後で具体的に述べたい。教科通信を作るのはなかなか大変だ。だが,食い入るように読む生徒たちの真剣な顔がそんな疲れなど吹き飛ばしてくれる。
3 指導の内容をできるだけ単純化する。しかし,面白さと深さを兼ね備えた内容(コンセプトが強いこと)になるよう工夫する。
生徒たちをやる気にさせるコツは,いかに教える内容を単純化するかである。むずかしいことをやさしく教える。これが大切だ。私は一時間の授業で押さえるポイントを2つ,多くても3つとしている。なぜなら「わかった」という満足感が大きいと次の活動につながるからだ。
そして,意欲的にするにはもう一つ条件がある。内容を魅力的なものにするということだ。ちょっと努力すればやれそうだとか,今までの経験を生かしてできそうだという見通しが持てるような課題にしたとたんに生徒は意欲を見せるようになる。
気をつけたいのは,内容はいかに単純でわかりやすくても,面白くて深さがあるものにするということだ。やっていくうちにどんどん自分の考えが深くなり,面白くなってくるという題材や学習過程にしたいものだ。
さてこの本は,T章が「総論編」,U章が「表現力や論理性を身につけるアイデア編」,V章が「ディベートの実践編」という3部構成になっている。
目的に応じてどこからでも読み進めていただきたい。
「なぜ中学校でディベートなのか?」とか「今の授業を変えたい」とお考えの方はT章から読まれるとよい。ディベートが大切な理由がわかっていただけると思う。
将来ディベートをしてみたいが,まず生徒に段階的に表現力や論理性を身につけさせたいとお考えの方はU章から読まれるとよいだろう。
すぐにでも中学校でディベートを実践する具体的な方法をお知りになりたい方は,そのままV章から読まれるとよいだろう。
いずれも,今まで講演やワークショップや全国大会の発表などでご紹介し好評だったものを取り上げたので,きっとすぐに日々の授業に役立つのではないかと思う。
最後に,読者のみなさんに私の好きなことばをプレゼントする。
本気でやれば大抵のことができる。
本気でやれば何もかも楽しい。
本気でやれば誰かが助けてくれる。
実はこれは,本校の校長室,事務室,職員室,私の自宅にかかげてあることばである。この本を読まれた読者のみなさんが,本気でディベートを実践していただければ,こんなに嬉しいことはない。
/中嶋 洋一
-
- 明治図書
- 私自身が心踊る授業作りに関心があり、この本をどうしても手に入れたいと思っています。中嶋先生の書は本当に素晴らしく、私たち学ぶ側には絶対に知っておくべき多くのものがあるはずです。ぜひ復刊をお願いしたいです。2018/1/28