- 刊行にあたって
- まえがき 授業づくりのための私たちの課題 /宗倉 啓
- T 一人ひとりの思いを生かす授業の工夫
- 宝はこび競争・宝はこびリレ―を通して(基本の運動)―小学1年生 /中荒 江朋子
- 1 競争を伴う運動の問題点
- 2 「宝はこび競争」で自分の伸びを実感する
- (1) 指導計画/ (2) 宝はこび競争とは?/ (3) コースは1点から?それとも自分で選ぶ?/ (4) コースを2つにすれば,意欲も2倍!
- 3 「宝はこびリレー」で自分のよさ仲間のよさに気づく!
- (1) 宝はこびリレーとは/ (2) リレーの約束はみんなで決める/ (3) チームの意欲を高めるために/ (4) 作戦タイムの支援のあり方
- 4 子どもの心に寄り添って行けば
- 5 おわりに
- U 解放され、他者とかかわれる身体と心を育てる「体操」を
- ―感じとる体操のススメ―(小学校高学年) /五十嵐 淳子
- 1 子どもの身体の現実と私の願い
- 2 体操のねらいと内容―私案―
- (1) ねらい(私案)設定/ (2) 内容とする三つの柱
- 3 授業づくりの視点と実際
- (1) 基本の視点/ (2) 授業の主な内容と流れ/ (3) 内容の具体的な説明/ (4) 学習の財産としての「体操ノート」
- 4 鍛える体操からふれあう体操へ
- V 恥ずかしさを感じさせない表現運動
- ―模倣の運動から表現運動へ―(小学校低・中学年) /畑中 泉
- 1 敬遠される表現運動
- (1) 表現運動は楽しいもの/ (2) では,なぜ表現運動は敬遠されるのか/ (3) 恥ずかしさを感じさせないためにどうすればよいか
- 2 模倣の運動で心と体の掘り起こしを 2年「にんにんにんじゃ」
- (1) 心と体を解放する手だてとしての小道具/ (2) 児童の感じたこと
- 3 表現運動への移行 4年「4の2号 発進!!」
- (1) より表現的な動きへ高めるために/ (2) 学級作りに生かすための手だて
- 4 児童の変容・残された課題
- W 一人ひとりを大切にする表現運動の授業
- ―教師の言葉がけの工夫―(小学校高学年) /加藤 美恵子
- 1 「一人ひとりを大切にする」授業をめざして
- (1) 表現運動の授業との出会い/ (2) だれにでもできる授業研究の重要性
- 2 実践例「自由に思いのままに」から(5年生)
- (1) 運動の特性/ (2) 学習のねらいと学習計画/ (3) 一人ひとりを大切にする学習の展開/ (4) 子どもたちの学習から
- 3 小さな能力を見いだし大きく育てる教師でありたい
- X 「大目玉」で速くする
- ―短距離走を知的に、楽しく!!(小学校3年生) /村田 正樹
- 1 短距離走で教えたいこと
- (1) 子どもたちは蛇行している/ (2) 本実践のねらい
- 2 指導の構想
- (1) どのように指導するか/ (2) どんな方法で
- 3 指導計画
- (1) 単元の流れ/ (2) 留意事項
- 4 授業の展開
- (1) 足跡調査の結果/ (2) まっすぐに走れば合格するかも/ (3) 視点を決めると,まっすぐ走れるぞ/ (4) 大目玉を見て走るぞ
- 5 子どもの変容
- (1) 記録の伸び/ (2) 子どもたちのノートから
- 6 実践を終えて
- (1) 子どもの感想から/ (2) 蛇行は防げたのか/ (3) まとめにかえて
- Y 学ぶ力を高める短距離走(8秒間走)の授業(中学1年)
- /瀧口 正之
- 1 授業が始まる前に考えておきたいこと
- 2 学級における課題設定のあり方
- 3 課題(めあて)の設定
- 4 なぜ「8秒間走」か?
- 5 授業の計画と実際
- (1) 第1時…「オリエンテーション」/ (2) 第2時…「50m走の試走」/ (3) 第3,4時…「仲間のフォームを具体的に指摘しよう」/ (4) 第5時…「『壁』を見つけて,課題へと高めよう」/ (5) 第6時…「VTRから速く走るための秘密を探ろう」/ (6) 第7時…「クラウチングスタートとスタンディングスタートのどちらが速いだろう?!」/ (7) 第8時…「ハンドグリップを握って走った時と腕を押さえて走った時ではどんなことを感じましたか」/ (8) 第9時…「自分の課題を明確にしよう」/ (9) 第10,11時…「自分の課題に注意しながら練習しよう」/ (10) 第12時…「8秒間走の記録会と学習調査をしよう」
- 6 まとめ
- Z 子どもを鉄棒に親しませる授業
- ―お話鉄棒をTTで実践―(小学校3年) /大下 祐司
- 1 今までの鉄棒指導を見直す
- (1) 楽しく取り組ませる手立て/ (2) 鉄棒運動の技術系統/ (3) 単元構成/ (4) 仲間とともに上手くなるための授業方法
- 2 お話鉄棒をしよう
- (1) 単元計画/ (2) 第1次 オリエンテーション/ (3) 第2次 鉄棒遊びで感覚づくり/ (4) 第3次 膝かけ振り上がりの練習と連続技づくり/ (5) 第4次 自由問題の発表会
- 3 成果と課題
- (1) 成果/ (2) 課題
- [ 上手になるための“手がかり”をもたせる側転の授業づくり(小学校中・高学年)
- /野路 佳男
- 1 はじめに
- 2 側転指導の基本的な考え
- (1) 側転に倒立は必要か/ (2) “グリコマーク”へのこだわり/ (3) 腰の高さを中心とした考え
- 3 系統性を考えた側転指導
- (1) 逆さ感覚に慣れる/ (2) まっすぐ回るぞ/ (3) 腰,肘,膝,つま先を伸ばすぞ/ (4) ホップ側転から前方倒立回転へ
- 4 おわりに
- \ 3:3(スリー・オン・スリー)ゲームの挑戦!
- ―学習したことがゲームにつながるバスケットボールの授業めざして―(小学校5年生) /森本 則雄
- 1 バスケットボールの問題点
- (1) はじめに/ (2) 今までの授業を振り返って/ (3) 3:3ゲームの採用
- 2 実践の概要
- (1) 3:3とは?/ (2) 「3:3」の教材としての魅力/ (3) 授業の概略
- 3 授業を終えて
- (1) 児童の感想/ (2) 教師の反省,今後の課題
- ] オープンスペースを使ってパスをつなぐポートボール(小学4年)
- /綿谷 浩一
- 1 混合型球技の授業の問題点
- (1) 教師の問題/ (2) 子どもの問題/ (3) 何を教えるか
- 2 育てたい技能
- 3 実践の工夫
- (1) 学習条件(ルール・コート・教具)を工夫しよう/ (2) 単位教材を工夫して技能を身に付けよう
- 4 作戦ってどうするの?
- (1) 攻撃方法にはどんなものがあるの?/ (2) ポジションどりはどうすればいいの?
- 5 指導計画
- 6 子どもの変容
- 7 実践の成果
- (1) ポートボールで身に付けた力は,今後も使えるのか?/ (2) ポートボール指導のポイント/ (3) ポートボールの位置づけ
- ]T 「ロールパス・サッカー」へへの挑戦(小学校6年生)
- /森下 昇一
- 1 これまでのサッカー授業実践の問題点
- (1) 教師側の問題/ (2) 児童の関心・能力差の問題
- 2 本実践のコンセプト
- (1) サッカー授業では何を教えるべきなのか/ (2) 10時間前後の単元計画でできることは何か
- 3 本実践のコート,チーム,ルール
- (1) チーム作り/ (2) ルール作り/ (3) コート作り
- 4 ロールパス・サッカー4つの柱
- (1) インサイド・キックにこだわれ!/ (2) 足の裏でボールを踏め!/ (3) パスコースを選択しよう/ (4) スペースに動け
- 5 ゲームの質の変化
- (1) 実践の前半のゲーム/ (2) 実践の中盤のゲーム/ (3) 実践の後半のゲーム
- 6 児童の感想(アンケート結果)とまとめ
- (1) 5秒ルールの是非について/ (2) サッカーは楽しかったか
- ]U スポンジボールでテニスの醍醐味を学ぶ(高校選択授業)
- /吉田 隆
- 1 スポンジボールならテニスの戦術が学べる
- (1) スポンジボールの使用/ (2) ショート・テニスのゲームの方法/ (3) 戦術を学ぶテニスのおもしろさ
- 2 テニスの醍醐味に触れるための学習計画
- (1) 学習の流れと改善した学習計画案/ (2) 戦術を学ぶための段階的学習/ (3) 秘策づくり
- 3 学習を成功させるための手立て
- (1) ペア学習と相互観察/ (2) 技術理論とテニス文化をトータルとして学ぶために
- 4 実践の分析と生徒の変化
- (1) 子どもたちの作った作戦表の分析/ (2) Tさんの成長
- 5 おわりに
まえがき
授業づくりのための私たちの課題
私たち教師の身近で原則的な問題は,子どもたちをスポーツや体操などの題材にどう出会わせ,どうかかわらせ,どう育てていくか,というプロセスづくりにあると思います。授業は,子どもの欲求に任せて放任にしたり,熟練者の真似事をさせて済むほど単純でもなければ楽観的でもありません。
授業は,多様なレベルにある子どもたちの技能,体力,運動経験,感情,認知などを考慮しながら,みんなが授業に主体的に参加できるように学習指導のプロセスを仕組む。みんなが技能的,認知的,情意的に進歩することを保障しようというのが「授業」だと思います。
私たちの勤務する校種は様々ですが,小学校の先生は中学・高校の実状がわかり,また中学・高校の先生も小学校の実状がわかることはとても大切なことだと思います。以下の事柄は,このような考えに基づいた討論から導き出した私たちの「授業をつくるための共通の課題」です。
1.授業は,みんなをどう育てるのかという願いを持ちながら,できる子・できない子を含めた全員が学習に参加できるようにする。
2.既成のスポーツなどは「素材」ととらえ,そこから教えたいことを教育内容として明確にする。そのためには,素材の特質,構造などを分析する。
3.教育内容の明確化では,クラス全員に獲得させたい共通の教育内容と個にみあった教育内容を押さえる。そしてそれを教えるための教材づくりや教材の精選を行う。
4.教材づくりでは,これまでの子どもの「つまずき」を考慮する。つまずきという事実の背後にある原因を分析し,そこからその子にあった課題を設定する。そして課題解決のための方法としての教材や教具を考える。
5.教材づくりでは,@子どもが教育内容を獲得しやすいように「援助する」,A学習の混乱を防ぐために不必要な教育内容を「拘束する」,これら二つの要素を併せ持つ教材を考案する(松下佳代氏らがいう制約論)。従って,既存のルール・教具・コートなどを工夫する。
6.教材づくりや授業では,特に個人種目に分類されるスポーツ(例えば陸上競技や器械運動など)は,その特質において集団による強い協力性が内包されているわけではないので,集団学習ができるように組織する。
7.できたり,うまくなるための「手がかり」を得るためには,運動を科学的に分析する必要があり,「考える」「わかる」といった技術の認知的側面を授業に組み込む。もっともそれは,子どもの実態に応じて導入するのであって,方法も仮説実験授業的,発見学習的,一斉授業における発問や説明など多様である。
8.わかったり,できるためには仲間の観察,分析,指摘が必要であり,相互協力の大切さを実感させるためにも異質のペア学習あるいはグループ学習を組織する。
9.授業では,子どもの運動技能,技術認知,情意,社会的行動の変化をそのつど評価することに努める。
10.子どもへの指導言語(例えば,指示や助言)は,否定的なものではなく,肯定的なものにするよう心がける。
本著は,これらの諸点を意識して実践を行ったものです。実践によってその強弱や濃淡はありますが,強いて文脈やテーマを統一するような作業は行いませんでした。全国の先生方からご批正をいただければ望外の幸せです。
最後に,このような研究的実践の公刊の機会を与えていただいた山本貞美先生,明治図書江部満氏に心より御礼申し上げます。
1998年4月 代表 /宗倉 啓
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- 明治図書