体育授業づくりへの挑戦3子どもと共に生きる体育の授業

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私だってみんなと一緒に/すもうをとろう/体育の授業を通して見えてきた子どもの姿/さくらちゃん,できないからやるんだよ!/障害児学級


復刊時予価: 2,618円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-725006-9
ジャンル:
保健・体育
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 168頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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刊行にあたって
はじめに
T 私だってみんなと一緒に(小4)
/山口 正富
1 はじめに
2 4年生での体育実践―バスケットボール
(1) 「シュートが入らないのは先生のせいだ。先生のうそつき。」/ (2) 里美という女の子/ (3) 教育観と子どもたち/ (4) 実践のねらい/ (5) 里美ちやん,何班なの?/ (6) 里美の願い/ (7) シュートポイントを見つけた/ (8) 里美のパス練習/ (9) パスが一番うまい班/ (10) いよいよリーグ戦…立ち上がれ里美…/ (11) 里美がシュートを決めた/ (12) 4年生での実践を終えて
3 5・6年生の里美
4 みんなと一緒に
U すもうをとろう(小3・4)
〜からだとからだをぶつけ合って学ぶ子どもたち〜 / 鎌田 克信
1 はじめに
2 すもうをとろう
(1) すもうをとろう/ (2) これでいいのだろうか/ (3) 自動車を押す/ (4) 子どもたちの願っているもの/ (5) 負けてよかった
3 もう一度すもうに取り組もう
4 おもいきりすもうをとろう
5 「押し」を学ぶ
6 先生を倒そう
7 すもうの実践を終えて
V 体育の授業を通して見えてきた子どもの姿(小3・4)
/今野 孝
1 はじめに
(1) K君との出会い/ (2) 運動着を着たK君/ (3) 体育嫌いの子どもたち
2 マット運動「つる回り」の授業を通して
(1) 「つる回り」/ (2) 鳥のようにやさしい感じで/ (3) 「つる回り」で変わったM子/ (4) 「つる回り」で立つ
3 1年目を終えた時点で
4 子どもたちの新たな問題
5 「さかだち」の授業
6 「さかだち」の授業で変わったY子
7 2年間の取り組みを終えて
W さくらちゃん,できないからやるんだよ!(小3・4)
/内海 泉
1 はじめに
2 なわを使った運動に取り組んで
(1) なぜなわをやろうと思ったのか/ (2) さくらに乗り越えてもらいたい壁/ (3) なわを使った運動の授業計画/ (4) 授業の展開/ (5) なわの運動の実践を振り返って
3 後悔からはじまったとびばこの実践
(1) 今年こそ逃げないでとびばこに挑戦/ (2) 授業の流れ/ (3) 授業の展開/ (4) とびばこの実践を振り返って
4 まとめ
X 障害児学級での体育授業と子どもの発達の姿(小1〜3)
/我妻 耕一
1 しげちゃんとの出会い
2 1年生
(1) 自分から手をつなぐ/ (2) ブランコのり/ (3) 跳び箱
3 2年生
(1) 排便が言えるようになる/ (2) 凧揚げ/ (3) 手押し車/ (4) 坂道下り/ (5) ジャンプ台からの両足着地/ (6) ろく木/ (7) 棒跳び/ (8) 跳び箱
4 3年生
(1) ろく木/ (2) ジャンプ台からの両足着地/ (3) 棒跳び/ (4) 跳び箱/ (5) 棒と跳び箱をつなぐ/ (6) けんかの中でも成長する/ (7) 気持ちよく揚がる凧
5 おわりに
Y バトンパスの「不安」の克服を目指して(中3)
〜学級集団づくりと体育の授業〜 / 制野 俊弘
1 カニを捕る子
2 授業以前
3 班日記―子育て日記―学級通信「あすなろ」
4 このクラスでよかった!
5 リレーの「不安」の克服を目指して
(1) リレーのおもしろさと「わかる」内容/ (2) 問いからの出発
6 学級集団づくりと学習集団づくり
Z 子どもをスポーツの主体者に育てる
体育の授業を目指して(中2)
/矢部 英寿
1 はじめに
(1) 今日の中学生が背負っている重荷/ (2) スポーツの主体者と体育の教科内容/ (3) 1年間の体育の授業を通して何を教えられるか
2 マット運動の授業
(1) 授業のはじめに/ (2) できるためのコツ(理論)の発見/ (3)「絶対ムリ派」対「みんなできるまでやる方がいい派」/ (4)「一生懸命+こつ+仲間=できる」/ (5) さやかの悪戦苦闘/ (6)「学校の勉強なんてしょせん成績のためだ」と思ったけど
3 バレーボールの授業
(1) オリエンテーション/ (2) グループ毎の試合と練習/ (3) スーパー4のゲーム分析との比較/ (4) 全体の中の部分とて/ (5) ローテーション問題,突発/ (6) ローテーションルールをめぐる学習
4 バレーポールの学習のまとめ
5 1年間の体育の授業を振り返って
[ 教科指導と生活指導の環流
/田中 新治郎
1 はじめに
2 教科指導と教科外活動の指導の関係
(1) 発達における活動の本質/ (2) 教科と教科外活動/ (3) 教科指導と生活指導
3 授業における生活指導
(1) からだと運動文化の主体の課題/ (2) 学習の共同化でコミュナルな知を
4 戦後初期の生活体育
(1) 生活綴方と生活指導/ (2) 新体育=生活体育/ (3) 丹下保夫による生活体育/ (4) 佐々木賢太郎らによる「もう一つの生活体育」/ (5) 生活体育に学ぶ
5 終わりに

はじめに

 今日の日本は,子どもの発達と教育に対する親や国民の願いと期待がかつてないほど高まる中で,それとはうらはらに,学校が多くの困難を抱え,そのスリム化と再編がうたわれるという,学校にとって,教師にとって,親にとって,そして子どもにとっての「受難の時代」であるように思われる。

 体育の授業について言えば,旧来の鍛錬主義的な授業やむきだしの「体力づくり」に代わって,「楽しさ」や「個の尊重」が強調される中で,一見,良い方向に向いているようにも感じられるが,その教育的意義が子どもや教師にどれほどの重さで捉えられているかと考えると,21世紀の学校教育の中で体育は生き残って行けるのかとうすら寒い思いを感じざるを得ない。

 このような中で,教育としての体育の意義を捉え直す上でいつも思い出されるのが,戦後の「新教育」期に行われた佐々木賢太郎の『体育の子』(新評論,1956年)の実践である。これは,この時期に提唱された「生活体育論」に期待と疑問をもちながら新しい体育授業のあり方を模索していた人々に,「よし,これならやっていける」という展望を示したものであった。

 しかし同時に,この実践は,戦後の荒廃と貧困の中で,子どもの生活の中で生じるあらゆる問題を体育授業の中に抱え込み,その解決を願ったがゆえに,その課題の大きさと重さの前に「オロオロして,教科としての独自性を見失っているのではないか」という批判を投げかけられたものでもあった。

 それから40年,日本の学校と教育は,「教育の現代化」の時代をくぐり抜け,経済と社会の高度成島に大きく「貢献」してきたが,その中で同時に,「受験戦争」や「いじめ」,「不登校」などの深刻信問題も生じてきた。そして,今日の日本の学校と教育は,冒頭に述べたような「受難」の中で,きたるべき21世紀にむけてのそのあり方を模索しているのである。

 本書は,そのような中で体育授業がどうあるべきか・どうあり得るかを,私たちが日々行っている実践の中に探ろうとした試みである。

 本書に実践記録を寄せた者の多くは,20代後半から30代前半にかけての若い教師である。彼らは,「受験」と「学校」の神話が頂点に達すると同時に崩れはじめた時代に教育系大学に学び,教師となった。そして,この時代は,教育学の世界で「子どもが見えなくなった」と言われた時代であり,体育授業に引き寄せて言えば,スポーツ技能や体力の向上の背後にある子ども内面や生活が見えなくなり,それを教育実践の課題としてどう引き取ったらよいかがわからなくなった時代でもあった。

 しかし,その時代をこえて,現在再び,「学力」と「生きる力」の統一,「教育」における「科学」と「生活」の統一が教育の課題として浮かび上がってきている。この課題は,教育指導(体育授業)と生活指導の関係,体育の学習集団づくりと学級集団(生活集団・自治的集団)づくりの関係を問うことを焦点として追及されるものであるように思われる。本書に収められた実践が,体育という教科を少なからずはみ出していると感じられるかもしれないゆえんは,そのことを強く意識しているところにある。

 もう一つは,本書の「子どもと共に生きる」という表題には,「自分さがし」ということが現代の子どもと青年の発達の自立に関わる重要な課題となっている中で,青年教師である彼ら自身の自己確立と子どもたちの自立とを重ね合わせて,ともに追求して行こうという問題意識が込められている。

 未来は子どもと青年に託される。そのことに希望を託しつつ,また自らの未熟さとおそれ多さを十分自覚しつつ,私たちのこのささやかな実践と心意気を,一昨年の冬に帰らぬ人となった佐々木賢太郎さんの霊前に捧げたい。

 最後に,本書に登場する子どもたちの名前の取り扱いについては,一人ひとりのかけがえのない人格を尊重して,本名で書くのを原則とした。しかし,プライバシーその他の問題もあり,本人および親がそれを望まない場合には,仮名もしくはイニシャルで書くことにしたことをつけ加えておきたい。


  1997年5月5日   /久保 健

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