- はしがき
- 第1章 日本文化にとまどう外国人
- 1 高価な贈り物(価値基準)
- 2 「謙譲の美徳」は通じません(価値基準)
- 3 人差し指(Index finger)を使ったばっかりに…(ジェスチャー)
- 4 永平寺でアメリカ人旅行客が「??」(社会習慣・常識)
- 5 忍者 vs Ninja(社会習慣・常識)
- 6 水着で温泉!?(社会習慣・常識)
- 7 パーティーで話しかけられたけれど(行動基準)
- 8 せっかくの冷たいビールが…(価値基準)
- 9 ジョークのないスピーチなんて(価値基準)
- 10 将来の夢:「結婚したい」って変ですか?(価値基準)
- 11 人形はステキでもだめ!?(価値基準)
- 12 空港で出迎えてくれた人を無視?(ジェスチャー)
- 13 たくさんのクラブに入りたいのです(価値基準)
- 14 クリスマスは何のお祭り?(社会習慣・常識)
- 15 先生が授業拒否!?(ジェスチャー)
- 16 虹にはいくつ色がありますか?(社会習慣・常識)
- 17 「いただきます」は“Let’s eat.”?(社会習慣・常識)
- 18 HAPPY NEW YEAR !(社会習慣・常識)
- 19 ビールをつがないのはケチ?(行動基準)
- 20 「先輩」って何ですか?(社会習慣・常識)
- 第2章 外国文化にとまどう日本人
- 21 しかられているときに先生をにらむなんて(ジェスチャー)
- 22 ゲップをするのがマナーです!?(社会習慣・常識)
- 23 質問ばかりで授業がすすまない!(行動基準)
- 24 アメリカ人女性が抱きついた(?)人は…(社会習慣・常識)
- 25 ホームステイ先でこき使われた?(社会習慣・常識)
- 26 「がんばって」vs“Take it easy.”(価値基準)
- 27 かわいい子どもの頭をなでて,なぜいけないの?(社会習慣・常識)
- 28 単なるピースサインのつもりが…(ジェスチャー)
- 29 私の前ではいちゃつかないでください(行動基準)
- 30 ニューヨークのニューイヤー・パーティー(社会習慣・常識)
- 31 中国の時計は不吉?(価値基準)
- 32 「ありがとう」と言って欲しかった(行動基準)
- 33 ドイツでおどろいた(価値基準)
- 解説編
はしがき
本書は姉妹編(『国際理解教育パズル60選』『国際理解・異文化学習パズル&クイズ46選』)が好評であることを踏まえ,「理解」から「発信」へ一歩内容を進めたものです。姉妹編でも述べましたが,インターネットであれ,通常の書きものであれ,相手と面と向かうものであれ,異文化の人とのコミュニケーションにおいては,文化,特にculture(Cultureと区別する)が大きな影響を持つことになります。Cultureとは,ごく簡単に言えば「能,オペラ,茶の湯,建築物,絵画・彫刻,音楽など,ある集団の人が時間をかけて発達させたもので,通常目に見えるもの」であり,ふつうは違いが見た目にわかるのでコミュニケーション上誤解の原因になることはないでしょう。しかし,cultureは「人々の価値基準・行動基準など,目に見えず,思考レベルに影響を与えるもの」なので,知らず知らずのうちにコミュニケーション上の誤解を生む原因にしばしばなります。たとえば,話をしている相手の目をみつめる(eye contact)のが行動基準である文化の人と,目を伏せがちで時々視線を合わせるのが礼儀にかなうとされる文化の人が出会い,話をすればどうなるでしょうか。きっと,互いが違和感を持ち,気持ちのよいコミュニケーションにはなりにくいでしょう(本文の12課,15課参照)。
次に書くのは私の個人的な体験です。カナダで滞在中に滞在先の人とその親戚の人合わせて12〜13人で小旅行をしました。途中で温泉に立ち寄る計画がありました。私は温泉が大好きなので楽しみにしていましたが,実際にそこに着いてみて驚きました。まず,温泉といえば,趣のある庭や建物のある旅館(ホテル)を想像するのが多くの日本人であるように,私も無意識のうちにカナダ風(!?)庭園露天風呂のようなものを思い描いていたのでした。しかし,そこにあったものは単なる「(温水)プール」でした。ごく普通のコンクリートの建物があり,その中の公衆浴場の脱衣場のようなところで着替えをするのです。周りの人は次々に水着に着替えて「温泉」へと繰り出していったのですが,水着を用意していなかった私は入浴を断念せざるを得ませんでした。出発前に誰も私に水着がいることを言ってくれなかったからです。その人たちにすれば当たり前のことであったのです。つまり,自分以外の誰かがいるところでは裸にならない」というこの文化の行動基準を知らなかった私にはどうしようもありませんでした。あとで,日本の温泉の話をすると,「プールでは水着を着るのに」と逆に不思議がられました。たしかに,プールでも温泉でも他の誰かといっしょになるわけですから,どちらの場合も「水着着用」というのは頷けます。しかし,それは理屈であって,「水着を着けて温泉に入る」などということは私はしたいと思いません。
こういうことを知らなければ,インターネットでメール交換をしている日本人の生徒が,カナダの生徒から「温泉に行った」という文とともに水着姿の人が映っている映像を受け取ったら違和感を持つでしょう。映像がなければ,「温泉に入る」ということに対し双方が互いに異なるイメージを持ったままということになります。もしこの日本人生徒が,後日カナダへ行く機会があれば,水着を持っていないため「温泉」に入り損ねることになります(本文6課参照)。
本書に収録したものの多くは,このような文化(culture)の違いが原因で起こる誤解により,自分自身,あるいは相手,場合により双方が,困惑・立腹・傷心するような場面を取り扱っています。現実には,多くの場合はその場の状況で何とか解決がつき,問題化することは少ないかとも思いますが,「あの国(文化)の人は失礼な奴だ」といった不信感や憎悪の念,蔑みの気持ちを持つことも多くあるでしょう。したがって,いろいろな場面で不信に思うようなことがあれば,「何か文化的理由があるのだろう」と思い,「このような場合は,私の国(文化)ではこうするのだけれど,あなたの国(文化)ではどうですか」と確認する姿勢を養うこと,また,それを実行できるだけのコミュニケーション能力を育成することが重要になります。
そこで本書では,姉妹編より一歩進め,そのような問題解決に役立つ会話例も載せることにしました。この会話例の日本人側の部分をまとめると,日本文化の立場を,メールや手紙,もちろん,面と向かって口頭で説明するのにそのまま使えます。なお,この会話例は英語で書かれています。実際には,別に英語でなくても,双方が理解できる言葉を使用すればいいのですが,現実問題として,今の世界では,母語が異なる人同士のコミュニケーションでは英語が使われることが非常に多いので,英語によるものとしました。
したがって,本書は,英語,ないしは総合的な学習の時間,あるいは(英語)の選択授業における国際理解教育の教材として使用できます。英文テキストと同じ内容の日本語テキストも用意してありますので,小学校(高学年)での授業にも使用できます。また,英文テキスト使用時の補足的な説明にも使用できます。解説編の説明はそのままプリントし、補助資料として児童・生徒に配布できるようにしてあります。むずかしいところは先生方で補足説明していただければよいかと思います。
姉妹編の2冊は,おかげさまで多くの先生方のご支持をいただいています。本書はそれに加えて,前述した会話例により,日本文化を相手に説明すること,つまり「発信型」の「国際理解教育図書」にしてあります。相手のことを受け入れるのも重要ですが,自分のことを相手にわかってもらうことも重要なのです。これからの時代はこの「双方向」のコミュニケーション能力がますます必要とされるからです。全部で33のトピックを載せていますが,トピック毎に,「ジェスチャー」「行動基準」「価値基準」「社会習慣・常識」の4つに分類してあります。しかし,実際は,価値基準があるから行動基準が生まれるのであり,それが社会習慣・常識になり,場合によりジェスチャーとして表されるというように,厳密には区別しにくいものです。したがって,便宜的な分類と考えてください。
本書を作成するに当たっては,明治図書編集部の樋口雅子氏にたいへんお世話になりました。厚くお礼を申し上げます。なお,多くのATELAS会員から資料や意見をいただきました。奥付にお名前を掲載させていただき感謝申し上げます。本書に収録しきれなかった資料も多くあります。
2003年6月24日 著者しるす
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- 明治図書