- まえがき
- T 学力が定着する理科ノートのポイント
- 1 「言語活動の充実」に向けて
- (1) 子どもたちの学力について
- (2) 言語活動の充実
- 2 理科における「言葉の重視と体験の充実」
- (1) 「言葉の重視と体験の充実」という考え方の背景について
- (2) 理科における「言葉と体験」について
- (3) 言葉を重視した学習指導の改善
- (4) 体験を充実した学習指導の改善
- 3 新しい小学校理科
- (1) 理科の改善の基本方針
- (2) 理科の目標
- (3) 観察・実験の結果を整理し考察する学習活動,科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動の充実
- 4 理科におけるノート指導のポイント
- (1) 問題解決のプロセスをノートに記述する
- (2) 問題解決の結果を的確に考察し,表現する
- U 理科ノート指導と授業モデル
- 1 第3学年 「風やゴムの働き」
- 2 第3学年 「光の性質」
- 3 第3学年 「電気の通り道」
- 4 第3学年 「植物の育ち方と体のつくり」
- 5 第3学年 「太陽と地面の様子」
- 6 第4学年 「空気と水の性質」
- 7 第4学年 「電気の働き」
- 8 第4学年 「人の体のつくりと運動」
- 9 第4学年 「季節と生物」
- 10 第4学年 「天気の様子」
- 11 第4学年 「月と星」
- 12 第5学年 「物の溶け方」
- 13 第5学年 「振り子の運動」
- 14 第5学年 「植物の発芽・成長・結実」
- 15 第5学年 「魚の誕生」
- 16 第5学年 「流水の働き」
- 17 第6学年 「燃焼の仕組み」
- 18 第6学年 「水溶液の性質」
- 19 第6学年 「電気の利用」
- 20 第6学年 「人の体のつくりと働き」
- 21 第6学年 「土地のつくりと変化」
はじめに
平成20年3月に新しい学習指導要領が告示され,あわせて6月には解説書が公表されました。とりわけ今回の改訂においては,言語活動の充実について,国語科を中心としながらも全教科等で取り組んでいく方向性が示されました。小学校理科においても科学的な言語や概念を使用する理科学習の展開などをすることによって,言語活動の充実を目指しています。
言語活動の充実という観点から,観察,実験において結果を表やグラフに整理し,予想や仮説と関係付けながら考察を言語化し,表現することを一層重視する必要があります。これまでの理科においては,観察や実験の前に位置付く予想や仮説をもつ場面における指導の工夫改善は行われてきました。一方,観察や実験の後に位置付く結果から結論を導き出す場面における指導については,工夫改善の余地が十分にあります。こうしたことから,子どもが観察や実験の結果を考察,吟味し,一つの考えをもつことができるようにする指導法の開発が,今後ますます求められていくでしょう。
こうした学習活動を通して,思考の基盤となり,コミュニケーション力の育成につながる言語力を育成していくことが大切です。言語力を育成するという意味では中心となる教科が国語科であることはいうまでもありません。しかし,国語科だけでは言語力の育成を図ることは難しいのです。そこで,各教科の様々な学習場面において意図的計画的に言語活動を設定していく必要があります。例えば,理科の観察・実験レポートや社会科の社会見学レポートの作成や推敲,発表・討論などが考えられます。こうした取り組みによって子どもたちの言語に関する能力は高められ,思考力・判断力・表現力等の育成が効果的に図られることになります。
このため,今回の学習指導要領の改訂においては,各教科の教育内容として,言語活動の充実にかかわる活動,例えば,記録,要約,説明,論述といった学習活動に積極的に取り組む必要があることの趣旨が示されています。例えば,理科における生命やエネルギーといった基本的な概念の理解は,これらの概念に関する個々の知識を体系化することを可能とし,知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものです。
また,言語力の育成に当たっては,子どもの発達に応じた指導が重要となります。幼児期から小・中・高等学校へと発達の段階が上がるにつれて,具体から抽象へ,あるいは,感覚的なものから論理的なものへと,認識や実践ができるものが変化してくるのです。
小学校理科における言語活動の充実は,問題解決の過程に沿って,教師が意図的に言語を駆使する場を設定しながら図られるものです。問題解決の充実を目指して,言語活動を取り入れていくのです。
言語活動には,読む,書く,聞く,話すという四つの活動が想定されますが,例えば,話し合うことによって,子どもの見方や考え方はふくらみ,確かなものへと収斂していくのです。また,書くことによって,子どもの見方や考え方は深まり,目的的なものへと変容していきます。こうした子どものイメージをふくらませ深めるために,言語の果たす役割は大変大きなものといえます。
理科は,自然を対象にしながら追究を通して,自然についての考えをつくり,もつ教科です。追究には,実証性,再現性,客観性といった「科学的な」手続きが保証されていなければなりません。こうして獲得した観察・実験の結果と自分の経験を照らし合わせて,自分の考えをつくり,その考えを的確に表現する力の育成が重要になります。
理科においては,自分の考えを表現するテキストは文字や記号だけに限りません。図や表,グラフなども含まれます。読み取る対象も多様です。図や表,グラフで表現するだけでなく,それらを駆使して,自分の考えを自分の言葉で説明する力も育成していくことが期待されます。
また,観察・実験の結果とそこから導き出される考察(あるいは,「結論」)を分けて記録させていくことも重要です。こうすることにより,子どもは,結論の意味や追究の価値を見いだし,問題解決を通してつくり,もった考えを確実に習得していくことになるからです。
自分の考えを表現する能力を身に付けさせるには,問題解決の後に位置付く「書く」段階の充実だけでなく,問題解決そのものを充実させることが重要です。問題解決の充実とは,自然事象から情報を読みとり,予想し,実験計画を立て,検証していくことを一連の流れとして充実させることです。これらの過程において,子どもが見通しをもちながら,その一歩一歩を確かめながら進めていくことができてこそ,その後のアウトカムが充実してくるのです。観察事実やデータを解釈し,統合する中で,自分の考えとそれまでの生活経験を結び付けて考察し,表現できるようにしていくことが重要です。
本書においては,「書く」活動,とりわけ,理科のノートやカードへの記述に焦点を当てて,小学校の理科の授業をどのように改善したらよいか,わかりやすく解説します。「言語活動の充実」に向けて,理科の授業でどのように取り組んだらよいか,とりわけ「理科のノート指導」のポイント,アイデアを事例をまじえながら紹介します。
本書が,21世紀の理科教育の充実のために,子どもに学力をつける授業づくりに向けて大いに参考となり,今後の学習指導の在り方を示唆し,意欲的な取り組みへの契機となることを期待しています。
平成22年5月 /日置 光久
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明治図書















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