- まえがき
- 第1章 学力調査問題が求める新学力像とは
- §1 理科が求める新しい学力とは
- 1 中央教育審議会の提言
- 2 文部省の教育課程実施状況調査
- 3 理科で求められている学力
- 4 評価問題の工夫
- 第2章 新学力調査問題の特徴と評価改善の方向
- §1 新学力調査問題の特徴(「文部省教育課程実施状況調査」問題の特徴)
- 1 問題全体について
- 2 各観点について
- §2 評価改善の方向
- 1 新しい学力観に立つ評価の特徴
- 2 4観点による評価
- 第3章 学力調査問題の分析と授業改善の方向
- §1 学力調査問題の分析
- 1 分野毎の傾向と分析
- 2 学年毎の傾向と分析
- §2 授業改善の方向
- 1 新しい学力観のめざす授業の方向
- 2 新しい学力観のめざす授業の改善
- 第4章 学力調査の特徴を踏まえた新評価問題の実際
- A 第一学年の評価問題
- §1 「物理的領域」の問題例
- 1 問題例「光の進み方」
- 2 問題例「力と圧力」
- 3 問題例「音」
- §2 「化学的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 評価の観点
- §3 「生物的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- 6 実施結果の考察
- §4 「地学的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- B 第二学年の評価問題
- §1 「物理的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- §2 「化学的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- §3 「生物的領域」の問題例
- 1 カエルの飼育
- 2 だ液のはたらき
- 3 毛細血管を流れる血液の調査
- §4 「地学的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- 6 実施結果の考察
- C 第三学年の評価問題
- §1 「物理的領域」の問題例
- 1 問題例(1)「力の働き・力と運動」
- 2 問題例(2)「力と運動」
- §2 「化学的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- §3 「生物的領域」の問題例
- 1 学年、領域
- 2 評価問題のねらい
- 3 評価問題
- 4 解答類型
- 5 評価の観点
- 6 実施結果の考察
- §4 「地学的領域」の問題例
- 1 問題例(1)「地層と過去の様子」
- 2 問題例(2)「火山と地震」
まえがき
教育課程実施状況調査の結果はまだまとめができていないが,これまでの分析ではつぎのことがいえる。
〈全体的に見て実施状況はおおむね良好である〉
全体的に実施状況はおおむね良好である。ペーパーテストの結果は,思考力や表現力を問う問題,記述式の問題を増やしたこともあって,通過率は前回よりもやや低い。調査研究協力校の調査では,全学年を通して,全ての内容についておおむね良好であった。
〈関心・意欲・態度は良好である〉
調査研究協力校での調査結果によると「自然事象への関心・意欲・態度」の観点の実現状況は全体として良好である。
〈観察・実験に伴って思考する力,表現する力はやや低い〉
自然の事象に関する観察や観測に関わる基礎的な力は良好であるが,観察・実験に伴って思考する力や表現する力はやや低い。問題解決のために,生徒が観察・実験の方法を考え具体的に実践する力は低い。
〈ペーパーテストでは記述式問題を大幅に増やした〉
第1学年から3学年まで合計すると,記述式問題が前回の19問から103問に,択一式問題が前回は224問から181問になった。記述式問題の割合は前回の7.8%から36.3%になったことになる。
これらからいえることは,全般に良好であるが,思考力・表現力には,なお課題があるということである。このことは他の調査でも同様の結果がでている。
第三回国際数学理科教育調査によると,日本の中学生の理科の学力は世界でトップレベルであるが,択一式問題に比べて,論述式の問題は解答率が良くない。課題を解決する方法を述べる問題は良くない。
これらは理科教育で今まさに求められている課題である。今回,ペーパーテストでは,記述式問題を大幅に増やしたが,記述式問題が正答できると言うことは,自ら課題をはっきり把握し,自らの考えで解決の方法を考え,自らの力で表現する力があるということになる。特に課題を与えてその課題を解決する方法を具体的に述べる問題を出題している。また,観察・実験の結果を基に考察したり,論拠を述べる問題を出題している。課題を解決した後新たな課題に挑戦する意欲が示されているかを問う問題を出題している。これらの問題の出題を通して,理科教育の課題は明快になっているように思う。
教育課程審議会の中間まとめでは次の4つの柱が示された。
@ 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること
A 自ら学び,自ら考える力を育成すること
B ゆとりある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充実すること
C 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育を展開すること
このなかで,「A 自ら学び,自ら考える力を育成すること」は諮問では「@ 自ら学び,自ら考える力などを育み,創造性を育てること。」とあり,「これからの教育においては,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質・能力などの『生きる力』の育成を図ることや創造性を積極的に伸ばしていくことがいっそう強く求められています。」と説明している。多くの知識を教え込むことになりがちであった教育の基調を転換し,知的好奇心・探求心を育て,自ら学ぶ意欲と主体的に学ぶ力を身に付けるとともに,論理的な思考力,判断力,一表現力,問題を発見し解決する能力を育成し,創造性の基礎を培わなくてはならない。創造性は,学習の過程での些細な思いつきやひらめきでも良いし,将来の創造性の開花の基礎を培うことでも良い。「創造性」がこのように教育の全体にかかわるところで述べられるのは今回が初めてである。この創造性は芸術や文学など全ての教科・領域にかかわることであるが,科学にかかわることが最も重みがある。理科教育の大きな課題である。先のペーパーテストの結果が求めていることがここに示されている。このような学習が教育全体としても求められているし,理科教育においてもこのことが求められている。このことは今度の学習指導要領の改訂で具体的に示していかなければならない課題である。
そのために今回のペーパーテスト問題をもう一度詳細に検討する必要がある。そしてその検討から授業改善の方策を読みとっていただきたい。本書では第3章で,学力調査問題の分析と授業改善の方向を述べているのはそのためである。第4章では,学力調査の特徴を踏まえた新評価問題の実際として,第1学年,第2学年,第3学年ごとに,物理的領域,化学的領域,生物的領域,地学的領域に分けて,評価問題を具体的に詳しく分析している。また,第1章では,学力調査問題が求める新学力像について,第2章では,新学力調査問題の特徴と評価改善の方向について述べている。これらを通して理科教育改善の方向と理科の授業の改善の方策を読みとっていただきたいと切に願うものである。
1998年5月 文部省初等中等教育局教科調査官 /三輪 洋次
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