- まえがき /柴田 義松
- T 理科の「基礎・基本」とは何か
- /柴田 義松
- 1 「学力」問題をどう考えるか
- (1) 学力とは何か
- (2) 教科の系統的学習は知識の詰め込みか
- 2 子どもの科学的認識の発達と教育
- (1) 「問い」から思考は始まる
- (2) 科学的概念形成の道筋
- 3 理科の「基礎・基本」をどうとらえるか
- (1) 教科内容精選の基本原則
- (2) アメリカの科学教育ナショナル・スタンダード
- (3) シンガポールの理科教科書から学ぶ
- U 低学年理科の「基礎・基本」とその学び方
- /笠井 守
- 1 はじめに
- 2 低学年の子どもの発達をどうとらえるか
- 3 生活科のとり扱い
- 4 低学年の自然科学的教育のめあて
- 5 自然への働きかけ3つ
- (1) 自然のたんけん
- (2) ○○○さがし
- (3) 物を作ったり,育てたり
- 6 低学年の空気学習
- 7 低学年の物づくり
- (1) 宝物になるような船づくりをめざして!
- (2) がんばりが目に見える,かさこづくり
- 8 低学年の水溶液学習
- V 中学年理科の「基礎・基本」とその学び方
- /大森 亨
- 1 昆虫学習からトンボ池づくり
- (1) 1人1匹以上の「自分のヤゴ」を採取する
- (2) 課題1 「アゲハの幼虫はサナギになったのに,ヤゴはどうしてサナギにならないのか」
- (3) 課題2 「ヤゴの体の表の色は茶色,裏の色は白色,なぜなのだろう」
- (4) 課題3 「ヤゴはおしりからいきをしている。では,アオムシはどこでいきをしているんだろう」
- (5) 授業実践から考えたこと
- (6) 学校と地域を結ぶトンボ学習
- (7) 環境を作りかえる主体としての成長を
- コラム(トンボ)
- 2 物の重さと体積,そして密度
- (1) 物の学習をどうつくるか
- (2) 子どもたちの予想をくつがえすことから
- (3) 空気にも重さがあるのだろうか
- (4) あらためて,重さと体積は別
- (5) 浮き沈みは密度の違い
- (6) 体積が増えると密度は軽くなる
- 3 電気の通り道と金属
- (1) 豆電球をつけよう
- (2) 金属学習
- (3) みがいて,みがいて鏡づくり
- (4) これは金属発見機だ!!
- (5) 磁石で分別,つぶして固める
- (6) 鉛を溶かして,置き物づくり
- (7) 「もののけ姫」から学ぶ
- コラム(かかとはどこだ)
- W 高学年理科の「基礎・基本」とその学び方
- /生源寺 孝浩
- 1 はじめに
- 2 「力の学習」=小学校5年生の静力学の実際
- (1) 「力の学習」の到達目標
- (2) 「力の学習」をこのようにすすめた
- 3 気体と物の燃焼(物の燃え方と空気)
- (1) 小学校での物質学習と物質認識
- (2) 「気体と物の燃焼」の学習をどうすすめるか
- (3) 「気体と物の燃焼」の学習で身につけたもの
- 4 総合学習〈人間学〉「自分の可能性は自分の中にある」をつかむ
- (1) はじめに
- (2) 「人間のからだ」と「人間のありよう」をどう教えるか
- (3) 「人間のからだ」と「性教育と自分史」の授業の概要
- (4) 理科「人間のからだ」の学習――その内容と留意点
- おわりに――「人間学」を実践して思うこと
- あとがき /柴田 義松
まえがき
教育内容を「基礎的・基本的内容」に精選するということは,これまでも学習指導要領改訂のたびにいわれてきた。しかし,その「基礎・基本」とは何かが明確に規定され,説明されたことは一度もない。そのため,「基礎的・基本的内容」に精選したはずの学習指導要領が発表され,それに準拠した教科書が作られれば,その内容すべてが「基礎・基本」であるととらざるをえない。にもかかわらず,「基礎・基本」とは何かの議論が教育現場に絶えないのは,現場人の健全な良識に基づくものだといえよう。というのも,教える内容を真に基礎的・基本的なものにしぼり込むということは,教師にとって日々の切実な実践的課題であり,授業で子どもたちを学習内容に集中させるためには不可欠の作業であるからだ。
各教科の基礎的・基本的内容は何かを明確にし,教える内容をぎりぎりに精選するということは,教材を少なくするということでは必ずしもない。むしろ,精選された内容について,地域や学校の実態に即し,子どもの認識の筋道にも合わせて豊かな教材が選択され,提示されてこそ,その内容が子どもたちにしっかりと習得されることになる。
このような授業が成立するための本質的かつ実践的な問いかけとして,教師は常に何がその教科の基礎・基本であるかを問い,追求することが必要である。したがって,このような研究は,わが国では特に1960年代以降,民間の教育研究団体に所属する教師や研究者による実践的研究の豊かな蓄積がある。しかし,残念なことにそれらの研究は,学習指導要領の改訂に反映されることはほとんどなかった。これまで改訂に際して行われた「基礎的・基本的内容」への精選は,従来の内容が「盛り沢山に過ぎ」たり,「高度になりがち」で,授業について行けない生徒がいるからといった理由で,「内容の再配分や削減」を行うという消極的な意味の量的精選にとどまっている。
教科内容の精選には,もう1つのこれとはまったく違ったやり方による積極的な意味の精選がある。すなわち,従来の内容をたんに間引きするような量的精選ではなく,内容の系統性とか教科の構造を見直して,教育内容を質的に改造するような精選である。現代の学問・文化の成果に照らし,従来あったあまり意味のないガラクタ的な内容を取り去るようにすれば,理論的水準の上ではより高度な内容のものにしながら,生徒の負担は軽減するということも可能である。60年代に,アメリカをはじめ先進諸外国で行われた教育内容の「現代化」は,そのような教科構造の再編を目指した積極的精選の試みであった。わが国では,数学教育における量指導の体系化とか「水道方式」による算数指導の革新,分子論・原子論の立場に立つ理科教育の改造,日本語教育の新しい体系,「人間の歴史」系統案の開発などが行われた。教科内容の精選は,このように科学の基本的概念や原理の指導を重視した「教科の現代化」やその後の「楽しい授業」の研究成果に学び,それを発展させるものでなければならない。
基礎的・基本的内容については,「繰り返し学習」することによって確実な定着を図るようにするということが,教育課程審議会答申には繰り返し述べられている。反復練習は,たしかに文字の書写,算数の九九や計算力,あるいは運動技能のように半ば無意識的・自動的に遂行される技能の習得には必要であり有効であるが,より高次な知識の習得には別の方法が必要である。「繰り返し学習」の場合も,内容によって繰り返し方は異ならねばならないが,さらに,表意文字である漢字の場合は,学習の仕方にも別の工夫が可能であり必要である。漢字で作る熟語は語彙指導の対象としてさまざまの分類が可能であり,漢字学習にはこのような点を考慮した合理的・系統的な指導が必要である。「国語」の改善の基本方針として,教課審答申には「自分の考えを持ち,論理的に意見を述べる能力,目的や場面などに応じて適切に表現する能力,目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育てることを重視する」と述べられている。ここで重視されている「論理的に意見を述べる能力」とか「的確に読み取る能力」といったものは,一朝一夕に身につくものではない。何年もかけて繰り返し学習するなかで身についていくものである。教科により,その方法にも当然さまざまの異なる工夫が必要となるが,各教科の基礎・基本の確実な習得を図る上で教師が共通して守るべき指導の原則となるものをまとめてあげてみれば,次のようになろう。
1.基礎・基本の学習を,ただ機械的な繰り返し反復にゆだねることは避け,子どもたちの知的好奇心を喚起し,できる限り論理的な理解を可能とするような方法や教材・教具の活用を図る。
2.学習の必要性や意義が子どもたちにも自覚され,子どもたちが自ら進んで学習に取り組むよう動機づける。
3.明確で意外性のある「問い」,本質的で,子どもが背伸びすればとどくような問題の作成につとめる。
4.基礎的なことは誰にも分かるものであり,またできるようにしなければならないのであるから,学級のみんなが助け合い,協力しあって学んでいくような集団学習の方法の活用にもつとめる。
5.繰り返し学習のなかでは,ゲームとか班競争を取り入れるなど,学習を楽しくする方法の活用を図る。
本シリーズ「教科の『基礎・基本』と学力保障」は,このような考えに基づいて編集したものである。各巻で,教科の基礎・基本のとらえ方を学習指導要領との対比で概説したあと,各教科(担当分野)の基礎・基本は何かをよりくわしく検討するとともに,その学び方指導のあり方について,子ども自身の学び方に焦点をあて具体的に論述した。
読者のみなさんの率直な感想,遠慮のない御意見,御批判をお寄せいただければ幸いである。
2001年12月 編 者 /柴田 義松
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明治図書
















