- はじめに
- 1章 なぜ,道徳授業でティーム・アィーチングを行うのか
- 2章 道徳授業で,どのようにティーム・アィーチングを行うのか
- 3章 ティーム・ティーチングを活かした道徳授業の実際
- 1. 資料提示でティーム・アィーチングを活かした事例
- @ 4年(「手品師」)
- A 2年(「モムンとヘーテ」)
- 2. 話合い活動でティーム・ティーチングを活かした事例
- @ 5年(「友だちのしようこ」自作資料)
- A 5年(「うばわれた自由」)
- 3. 役割演技でティーム・ティーチングを活かした事例
- @ 1年(「はしのうえのおおかみ」)
- A 5年(「良雄のノート」)
- 4. ゲスト・ティーチャーをティーム・ティーチングで活かした事例
- @ 5年(「クリステイーの言葉」)
- A 5年(「ぼくの足」自作資料)
- B 4年(「交かん会」徳島県版副読本)
- 4章 これからティーム・アィーチングを実践する方へ
はじめに
中央教育審議会報告や教育課程審議会のまとめの公表後に, 「教師の意識改革が必要」「問われる教師の力量」「教師に発想の転換を迫る」などと各誌に報じられている。これらは,学校教育における教師の役割と意識変革の必要性・重要性の指摘である。
一方,最近の青少年犯罪における人間性の欠如した様相,すなわち生命の尊厳に対する感覚の欠如,行為に伴う責任に対する自覚の無さ,自己抑制力の欠如,自己を正当化する心理等の指摘は豊かな人間性の対極にあるもので,現代社会を生きる大人すべてに対して反省を促しているように思われる。
こうした状況のなかで学校における道徳教育,道徳の時間の指導をどのように進めていくかは一人一人の教師が解決すべき大きな課題である。
このような課題解決に向けた一つの方策として,平成10年6月に示された中央教育審議会の「新しい時代を拓く心を育てるために」(答申)がある。この答申では,道徳教育を見直し,よりよいものにしていこう一道徳の時間を有効に生かそうーと呼びかけている。そして,体験的な道徳教育を進め,心に響く教材の開発・使用とともに, 「ヒーロー」「ヒロイン」が子どもたちに語りかけること,子どもが一目を置く地域の人材の力を借りるなど人とのかかわりを通して,道徳性を育てることを提案している。
学級担任以外の人と協力して行う道徳の時間のティーム・ティーチングは,子どもの道徳性の育成にとって人とのかかわりを重視したものであるといえる。これまでの授業実践で得た確かな指導方法を踏まえながら,新たな工夫を加えることによって子ども自らが道徳的価値を自覚することが期待できる。また,学校の全教育活動を通して行う道徳教育を効果的かつ一体として進めるための全教師の理解・認識を深める意味でもティーム・ティーチングによる指導は有効であると考えられる。
本来道徳の時間の指導は,子どもの実態を把握している学級担任が行うことが原則であり,各教科等にない道徳の時間の特質がある。こうしたことから,道徳の時間でのティーム・ティーチングは各教科等の授業に比べて実践事例は必ずしも多いとは言えないのが現状である。
ところで,平成9年11月に示されたティーム・ティーチングの実施状況に関する調査結果(第一次報告)一国立教育研究所-によると,ティーム・ティーチングによる指導のメリットとして次のようなことがらが報告されている。
1 一斉指導の中で,より行き届いた指導の実現と個人差に応じた指導の実現が多くあげられている
2 「教員相互の交流・話し合いが日常的にみられるようになった」「教員相互が切瑳琢磨するようになった」「授業案の検討や研究会での発言が活発になった」「教職員間の人間関係に親しみや深まりがみられるようになった」「教員が協力して生徒指導に取り組むようになった」「若手教員の指導に効果がみられるようになった」など教員の変化がみられた。
3 「児童生徒に行き届いた一斉授業がなされるようになった」「児童生徒の姿がよく見えるようになった」
これらは道徳の時間の指導に関するものではないが,子どもが思考をはたらかせ自分自身の課題を解決しようとする一連のプロセスは,道徳の授業でも同じである。
一般に,同学年を組んだ教師の人間関係が親和的で協働姿勢が見られる場合,指導を受ける子どもの情緒が安定し学習活動が意欲的・活動的になることが経験的に知られているところである。道徳の時間におけるティーム・ティーチングもこのことが当てはまり,何でも言える自由な雰囲気がかもし出されれば,大きな効果が期待できる。子どものよき成長発達を願う多くの人々の協力を得て,その人のよい人格に直接ふれあうことによって子どもの心に響く道徳の時間にしていく努力がいっそう必要である。
新設される「総合的な学習の時間」の指導においては,個々の子どもがもつそれぞれの学習課題を複数の教師が,子ども自らが解決していけるように指導・援助していくことが考えられる。ティーム・ティーチングによる指導は,このような学習活動が円滑に行われるための効果的な指導方法である。体験を重視する「総合的な学習の時間」において,道徳教育との関連を図り道徳性を伸長する活動を積極的に行ううえでも,ティーム・ティーチングのよさを発揮していくことが望まれる。
本書は,これまで研究的に取り組まれてきた事例を紹介し,その利点とともに実践上の課題を発見し,その課題を解決すべく多くの実践が行われることを期待し提案したものである。「教育は実践にある」ことを念頭に,より確かな指導方法が開発され授業が活性化するとともに,教師と子どもが共に人間としてのよりよい生き方を考え,語り合う道徳の時間が展開されることを願うものである。
平成10年8月 /生越 詔二
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- 明治図書