- まえがき
- T 認め合う学習集団づくり
- 一 居場所づくり
- 二 少しずつユッタリと
- 三 子どもに寄り添う授業づくり
- U 語りかけの学級びらき
- 一 教室から保護者へ発信
- 二 ハプニングのことばを拾う
- 三 はじめての文づくり
- V 一年生担任
- ─初体験の奮戦記
- 一 初日から反抗する子
- 二 仕切り屋さん登場
- 三 ルールを守ろう
- 四 大きな態度を叱る
- W 国語
- ─ふところを深くして見守る
- 一 もっと大きな声で
- 二 話す力を育てる
- 三 読む力をつける
- 四 「力太郎」─子どもが進める授業
- X 算数
- ─授業で自信を
- 一 関わり合いの関係をつかむ
- 二 どの子もアクセスできる
- 三 かけ算って簡単だ!
- Y 国語
- ─居場所づくり
- 一 「アレクサンダとぜんまいねずみ」
- 二 活発な授業展開
- 三 子どもとともに山場をつくる
- Z 国語
- ─語りかけと問いかけの構想
- 一 聞く力と話す力
- 二 全員発言を仕組む
- 三 教材研究と発問の工夫
- [ ドイツの「生活科」
- ─総合学習の伝統
- 一 ドイツの小学校
- 二 事実教授とは
- 三 事実教授─「時間」
- 四 「時間」を自分にたぐり寄せたら
- 五 教師へのサポート体制
- \ 「生活」を通した学び
- ─幼小連携をめざして
- 一 生活科と幼稚園教育
- 二 幼稚園での生活を通した学び
- 三 アメリカ進歩主義教育と生活科
- ] 実践へのコメント
- 一 学習集団づくり第一歩─門川実践
- 二 若い教師の学習集団づくり─三野実践
- 三 個別的な配慮を全体の中に埋め込む─富岡実践
- 四 授業で気になる子を元気づける─小畑実践
- 五 一枚指導案─小泉実践
- 六 身にかかる発問─早田実践
- 七 ドイツの「生活科」─内藤論文
- 八 幼小連携とカリキュラム─塩路論文
はじめに
学力って一体何でしょう。漢字や計算力、今ではコンピューター操作も基礎・基本の中に入るでしょう。このような能力をすべての子どもに保障するには、教師は、どのような授業をしたらよいのでしょう。
「百マス」計算を毎日やれば、それで算数の基礎・基本が身につくのでしょうか。学力を保障するには、従来の学級を解体して、子どもの能力に応じた習熟度別指導がよい、という声が大きくなってきています。本当にそれですべての子どもに学力が保障できるのでしょうか?
今一度、学級の教育力を見直してほしい、というのがわたしの率直な気持ちです。学力とは、最大限一般化して言えば、@自分の頭で考えることができる力 A自分の意見を持つ力 B自分の意見を他人に説得していける力 と整理できます。この三つの力をすべての子どもに保障していくには、教師はどのように授業を展開していけばよいのか、という問題をわたしは三〇年以上現場の先生方と共同研究してきました。そこから得た結論は、[多様な子が混ざった学級で授業をする、しかも、学級のすべての子が参加できるような授業を創りだしていくしかない]という事実です。
[教科書には○○と書いてある、教師はこう言った。でも、それを自分が今まで見てきたこと、やってきたことと結びつければどうなるのか、と自分の頭で考える。そして自分の意見を持つ。時には、ここまでは分かるが、ここから先はまだ経験していない → だから分からない、ということも生じる。でも、これもその時点での自分の意見。教師から、発言を促されれば、「分からない」と正直に現状を説明する。この説明は教師一人に対してだけでなく、共に授業に参加している仲間への説得となる。わたしの意見にあの子はうなずいてくれた、でも別な子はうなずいてくれなかった。うなずいてくれなかった子に対して、わたしが先の意見に至ったのはこのような背景があるからだ、と丁寧に説明し直す。これもまた、説得となる。]
学習集団の授業では、小学校低学年であれ、高学年であれ、右の[ ]で括ったような対話を丁寧に繰り返していきます。その中で、先の@〜Bの学力につながる力が訓練され、育まれていくのです。自分の頭で考えたけれども「分からない」ということを相手に説得していくことは、従来の知識注入型授業に慣れさせられている子どもには相当しんどいことです。この相手の中には教師も入るからです。未だに「正答」か否かで子どもたちを振り分けていく教師がいます。でもこのような教師と違って、学習集団の授業を創りだし、すべての子どもに学力を保障していきたいと願う教師は、この種の「分からない」という発言が気兼ねなしに出せるような授業環境をまず創りだすことに取り組みます。
自分の頭で考えたけれども「分からない」「なぜ?」と言うつぶやきを、教師が丁寧に拾います。そして、それらの「分からない」「なぜ?」に対して、「分かった」「できた」と言っている子が説得していく場面を設定します。集団思考の組織化です。その中で、分かったと思っていた子に、[自分が予想もしなかった問題に気づく → ハッとして考え直す]ということが起こります。これが「学び直し」です。学習がしんどい子のつぶやきを拾って全員参加の授業=集団思考を組織していこうとする教師にも、この種の「学び直し」の体験が多々生じます。
どの教科でも、毎時間、先のような集団思考の過程を組み込んでいくことが、すべての子どもに学力を保障していくことにつながっていくのではないでしょうか。そのためには、教師はまず授業づくりでどこから手をつけていけばよいのでしょうか。その手法には、小学校の低・中・高学年で若干の違いがあります。この点を具体的に汲み取り、明日からの実践に活かしてもらうために、この三巻本では、想いを同じくする実践家や大学人にお願いして、低・中・高学年毎に各教科での実践や論文を執筆してもらい、それに編者である豊田がコメントを付けました。
学級のすべての子どもに学力を保障できるような授業がしたい、と日夜励んでおられる先生方や、これから教師になろうとする学生諸君に何がしかの示唆を与えることができれば、望外の幸せです。
最後になりましたが、出版事情が厳しい今日、約束よりも二年程遅れたにもかかわらず、辛抱強くお待ち頂き、出版して下さった明治図書の江部満さんに、感謝いたします。
二〇〇四年八月一日 蝉時雨聞こゆる寓居にて /豊田 ひさき
この本は、幼稚園から小学校に入学する際に生じると言われている「小1プロブレム」をどのように軽減していかないといけないのかについて考えるきっかけ、手助けになる本です。