- まえがき
- T 再燃する基礎学力論争
- 1 学力問題をどうとらえるか
- 学力低下論の是非
- 学力低下の実態
- 2 学力論の史的展開
- 学力概念の整理
- 「実学」的学問観・学力観への転換の意義
- 「知育偏重」論への批判
- 3 基礎学力論の展開
- 戦後最初の基礎学力論争
- 旧教育・旧学力批判の不徹底
- 旧学力・旧教育とは何であったのか
- 4 戦後「新教育」の基礎学力論
- 「新教育」の新学力観
- 「新教育」の基礎学力論
- 5 読書算=基礎学力論
- 読書算=用具説の批判
- 読書算=基礎学力論の新たな展開
- 6 学力低下論再燃の原因は何か
- 「落ちこぼれ」は「詰め込み」のせいか
- 読書算の教育不振の原因は
- 学力低下は学習指導要領体制の構造的問題である
- U 読書算はなぜ基礎学力か
- 1 国語習得の教育的意義
- 母語習得の意義
- 言語習得の重要性を基礎づける第二信号系理論
- 2 ことばと思考の発達との関係
- 子どもにおけることばと思考の発達
- 話しことばと書きことばとの関係
- ことばの自覚性・随意性の発達
- 概念体系の発達こそが鍵
- 3 数・量体系の認識と教育
- 量の体系に基づく算数の指導
- 「水道方式」による計算指導の体系
- 水道方式の一般化
- 水道方式の教授学的意義
- V 基礎学力と各教科の「基礎・基本
- 1 「基礎・基本」とは何か
- 「基礎・基本」は広義の基礎学力
- 2 各教科の「基礎・基本」精選のあり方
- つねに「基礎・基本」とは何かを追究していこう
- 3 国語の「基礎・基本」とは何か
- 基礎学力は保障されるか
- 「国語」の教育内容はどのように厳選されたか
- 「国語」の基礎・基本とは何か
- 総合的学習の基礎としての国語の力
- 4 「国語」でどんな学力をつけるのか
- 学力の構造
- 「学び方=知識習得法」教育の必要性
- 読み方指導改善の具体策
- 知的道具を持って対象と取り組む授業
- W 学校の教育課程づくり
- 1 教育課程づくりとか何か
- 「教育課程の基準」とは
- 教育課程編成とは何をどうすることか
- 教育課程とカリキュラム
- 学校のカリキュラム開発とは何か
- 2 学校のカリキュラム開発の課題
- 学校のカリキュラム開発の基本問題
- 教育課程評価の必要性
- カリキュラム開発の「羅生門的接近」
- 「羅生門的接近」の必要性
- 3 今どんなカリキュラム開発か
- 学校は今どんな教育課程づくりを求められているのか
- どんな教育課程づくりを選択するか
- 教育課程づくりを始める前に考慮すべきこと
- 4 「総合的な学習の時間」をどうする
- この「時間」で何を学ぶのか
- 総合的学習のカリキュラム開発
- 教科学習と総合学習との関連
- 教科学習の発展としての総合的学習
- 5 学び方学習のカリキュラム開発
- 学び方学習の必要性
- 学び方学習のカリキュラム
- X 教科書のあり方・生かし方
- ―教科書の教授学的研究―
- 1 教科書の定義と意義
- 2 教科内容と教材との区別
- 3 教師と教科書との機能分担
- 4 よい教科書とは――現代教授学の見地から
- (1) 教科書の真実性
- (2) 教科書の系統性
- (3) 学び方を教える教科書
- 5 学び方を教えるアメリカの歴史教科書
- 6 わが国の教科書の特色と問題点
まえがき
読書算はあらゆる学力の基礎であり,まさに基礎学力そのものである。
基礎学力というと,何か低レベルの学力のように考える見方がある。そして,実際にも,そのような低レベルの読書算教育しかなされていない教育現場の実態もある。
戦後,アメリカ経由で出発した経験主義の「新教育」は,3Rsを「用具教科」として軽視する傾向があった。
これに対しては,ただちに「基礎学力防衛論」が立ち上がり,読書算を「人類文化の宝庫を開く鍵」として重視する論が展開されたのだが,学習指導要領の経験主義はその後も基本的に変わっていない。特に,国語の系統的指導がいまだに確立していない。このことが基礎学力低下問題を繰り返し引き起こす一因となっている。
算数・数学離れをはじめとする「学びからの逃走」は,これとはやや異なり,受験競争を引き金として起こった受験勉強的な学び方に問題があるといえよう。
いずれにしても,読書算の基礎学力は,「人類文化の宝庫を開く鍵」といわれるほどの評価も,そしてそれにふさわしいような扱いも,わが国ではいまだに受けていないといってよいだろう。
私は,読書算の基礎学力は,「人格の完成をめざし,平和的な国家及び社会の形成者として,真理と正義を愛し,個人の価値をたっとび,勤労と責任を重んじ,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成」を期するうえでも欠くべからざるものであり,すべての子どもたちにそれの確実な習得を図ることはどれだけ重視しても,し過ぎることはないと考えている。
読書算の基礎学力を重視するということは,その内容をより豊かに充実したものにしていくということでもある。
現代における読み書き能力(リテラシー)は,たんに文字の読み書きができるという識字能力にとどまっていてはならない。言葉の辞書的意味=「語義」と,実際の場で使われている文脈的な言葉の「意味」とを区別し,表面的な文章(テキスト)の理解にとどまらず,裏にかくされている意味(ポドテキスト)を読み取る力,さらには,それらの文章の真偽や論理的整合性を吟味し,批判的に読み取る力をも含めて考えなければならない。
私が,本書の論述にあたって第一に意図したことは,このような読書算=基礎学力の重要性の実質的意義を明らかにすることであった。この問題を,わが国における読書算教育の実際との関連において究明し,どのようにしたらこのような基礎学力をすべての子どもに保障することができるのかを追究しようともしたのだが,私の力量不足で,意図したことの実現にはほんのわずか手が及ぶ程度にとどまっている。
わが国の教育現場には,教師を取り巻くきびしい困難な状況のなかでもこのような教育の研究や実践に熱心に取り組んでいる教師がたくさんいることを私は知っている。そのような実践に学びながら,この研究をさらに深めていくことが私の今後の課題である。
本書の内容は,明治図書の雑誌『現代教育科学』(2002年度)と『授業研究』(2001年度)にそれぞれ1年間連載した論文が基になっている。いずれも江部満さんのお勧めによるものである。それらにいくらか加筆して本書をまとめあげることができたのも,江部さんの温かい励ましのおかげである。ここに厚く感謝の意を表しておきたい。
2003年2月 /柴田 義松
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- 明治図書