- まえがき
- 優れた社会科授業スタンダード共同研究について /岩田 一彦
- 1 スタンダード研究の意義
- 2 スタンダード研究の組織・経過
- 3 外国の社会科研究との関係
- 4 社会科授業の評価と今後の課題
- T 地理領域における優れた学習指導案とその要件
- 地理領域の学習指導案について /岩田 一彦
- 1 社会認識形成に通じる提案授業
- 2 学習指導案の備えるべき条件
- 3 地理教育としての新しい提案授業
- リアリティーの二重性の理解
- ─北谷町における2つのアメリカを題材として─ /中谷 昇
- 1 授業構想の基本的な考え方
- 2 学習指導案
- 3 意義
- 価値判断力を育成する中学校社会科地理的分野の授業
- ─政府開発援助の学習を例に─ /藤原 敏宏
- 1 主題
- 2 単元についての考え方
- 3 学習指導案
- 4 意義
- 流域を素材とする「地域の規模に応じた調査」の学習
- ─中学校地理的分野「矢作川流域」の単元開発─ /加藤 有悟
- 1 はじめに
- 2 流域社会分析の観点─社会地理学の「基礎諸機能」─
- 3 典型的事例としての「矢作川流域」
- 4 流域を素材とした授業モデル
- 5 おわりに
- U 歴史領域における優れた学習指導案とその要件
- 歴史領域の学習指導案について /児玉 康弘
- 1 はじめに
- 2 各指導案の優れた特質
- 3 歴史領域の優れた授業の要件
- 江戸時代の産業・流通の発達をとらえる授業
- ─「新潟町」発展の原因・背景を追究する活動を通して─ /倉澤 秀典
- 1 はじめに
- 2 題材について
- 3 学習指導案
- 4 意義
- 経済構造を現代的問題関心より分析させる歴史授業構成
- ─小単元「第一次世界大戦中の日本社会と経済構造」の場合─ /粟谷 好子
- 1 はじめに
- 2 学習指導案
- 3 意義と課題
- ネットワーク論に基づく高等学校世界史の授業
- ─小単元「モンゴル民族の発展」の場合─ /平井 英徳
- 1 はじめに
- 2 授業の実際
- 3 おわりに
- 単元「フランス革命と国民国家の誕生」の教育内容開発
- ─「国民国家論」を中核とした理論批判学習─ /中村 真人
- 1 はじめに
- 2 授業構成の視点─国民国家論とフランス革命─
- 3 授業計画
- 4 授業展開
- 5 意義─世界史学習の手段化─
- 概念探究的授業構成と内容知の革新
- ─小単元「タイ国民国家の形成と発展」─ /森 才三
- 1 問題の所在と小単元の主題
- 2 概念探究的授業構成の方略
- 3 内容知の革新
- 4 小単元「タイ国民国家の形成と発展」授業試案
- 5 小単元の意義
- V 公民領域における優れた学習指導案とその要件
- 公民領域の学習指導案について /棚橋 健治
- 1 公民領域における授業の「よさ」
- 2 「人口減少社会をいかに生きるか」の授業に見られる優れた授業の要件
- 3 「ファミリィ・アイデンティティ」の授業に見られる優れた授業の要件
- 4 「プルサーマル問題」の授業に見られる優れた授業の要件
- 5 公民領域における優れた授業の要件
- 高等学校公民科単元「人口減少社会をいかに生きるか」の開発
- ─ミクロとマクロの両視点に立つ制度設計学習─ /吉村 敦
- 1 はじめに
- 2 問題構成型授業の志向
- 3 高等学校「現代社会」授業計画書
- 4 意義
- 生徒の批判の視点を保障する社会科授業の開発
- ─「ファミリィ・アイデンティティ」の概念に基づいて─ /井上 奈穂
- 1 問題の所在
- 2 学習指導案
- 3 指導細案
- 4 教材化の意義
- 価値判断力を高める社会科論争問題授業の開発
- ─中等後期単元「プルサーマル問題」─ /田本 正一
- 1 本研究の目的
- 2 価値判断力を高める指導について
- 3 単元の目標と指導計画
- 4 結語
- W 総合領域における優れた学習指導案とその要件
- 総合領域の学習指導案について /池野 範男
- 1 はじめに
- 2 総合領域の優秀性の解説
- 3 各学習指導案の優れている点
- 4 総合領域における授業の優れた要件
- 「公民学習」の場面を取り入れた「歴史学習」の試み
- ─“日本の戦時体制・ファシズム”をいかに教えるか─ /奥山 研司
- 1 主題の考察と教材研究のプロセス
- 2 授業実践の概要
- 3 学習指導案
- 4 本実践の意義
- 法意識を視点とした意思決定学習の授業開発
- ─歴史法廷「赤穂事件」を裁く!─ /乾 正学
- 1 はじめに
- 2 授業構成
- 3 学習指導案
- 4 実践結果
- 5 意義
- 現代日本の人口問題を総合的に追究する授業開発 /吉岡 智昭
- 1 単元構成
- 2 授業開発の意義
- 3 指導細案
まえがき
―社会科授業スタンダード―
昭和22年(1947)の社会科誕生以来,無数の社会科授業が展開されてきている.しかし,これらの授業が改善され,その成果が蓄積されてきたか否かについては,意見の分かれるところである.その原因は,何が優れた授業かについての共通のスタンダードが欠落していたからである.こういった混沌とした状況の中で,徐々に優れた授業を評価することのできるスタンダードが,今日,社会科教育界で認知されるようになっている.
イギリスのナショナル・カリキュラムやアメリカ合衆国におけるナショナル・スタンダードが,教科書作成,授業設計に際して,基礎・基本の働きをするようになってきているからである.また,社会科教育界において,知識論が授業設計に際して,その基礎・基本の働きをしてきていることもあげられる.
こういった歴史的流れを作ってきたのが,本書の編集主体である全国社会科教育学会である.全国社会科教育学会は,昭和26年(1951)に西日本社会科教育研究会として発足し,昭和39年(1964)に日本社会科教育研究会に改称され,昭和61年(1986)に現名称になった.本学会は,学会誕生50周年を記念して,全国社会科教育学会編『社会科教育学研究ハンドブック』(明治図書,2001)を発行した.この書では,過去50年の社会科研究をオーバービューし,各分野の先進的論文を分析検討し,研究成果の総括を行った.この総括は,社会科研究論文の成果を中心に展開した.この成果を受けて,社会科授業に焦点を当てて,続いて研究を進めることとした.その際に,社会科の優れた授業の条件は何か,および学習指導案レベルで示す優れた社会科授業のモデルについて,明示していくことにした.こういった考え方の下に,社会科授業レベルのスタンダード研究に取り組んできた.その成果の一部が本書である.
本書の上梓に向けての経過を述べ,性格を明確にしていく.
(1)共同研究の目的と概要
スタンダード研究は,平成15年(2003)に研究計画を作成し,平成16年(2004)〜18年(2006)の3カ年をスタンダード授業の収集と評価にあて,4年間の継続研究として行った.本研究の目的は,次のように設定された.
目的:社会科教育学の学問的基準から見て,「優れた社会科授業」を収集・公開し,これからの社会科教師に期待する授業レベルのスタンダード(条件)を提示すること.
(2)本書の位置づけ
本書は,平成17年度(2005)の中学校・高校部門の成果を『社会科教育論叢』第45集として示したものを,広く公開するものである.出版に際して,それぞれの領域に選ばれた優れた社会科授業(学習指導案)に解説を加え,その領域における“優れた社会科授業”の条件となるものを説明した.
なお,平成16年度の小学校部門の成果は『社会科教育論叢』第44集として示されている.この成果は,『優れた社会科授業の基盤研究T 小学校の“優れた社会科授業”の条件』として出版されている.また,平成18年度(2006)の研究は,『社会科教育論叢』第46集(2007年3月刊行)に継続研究として提示しているので,参照してほしい.
本研究の成果が広く読まれ,社会科実践の場で優れた授業を確定していく際のスタンダードとなることを期待している.本書には掲載されなかった優れた社会科授業実践が,数多く存在している.これらの基盤の上に,本書記載の優れた社会科授業がある.学会員を中心として,優れた社会科授業実践を提供してくださった諸先生に感謝申し上げる.また,出版事情の厳しい中,本書の刊行に多大なご支援・ご助力をいただいた明治図書の樋口編集長に感謝申し上げたい.
平成19年5月3日
全国社会科教育学会会長
スタンダード研究委員会委員長
/岩田 一彦
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- 明治図書