- まえがき
- 1章 絶対評価の適切な運用と簡略化
- §1 学習評価と学力評価を分けて考える ―簡略化への道1
- 1 単元レベルの学習評価と学力評価
- 2 細分化した学力評価の問題点
- §2 分断型,継続型の学力を見分けた学力評価の運用 ―簡略化への道2
- §3 基礎学力を身に付ける授業改善と評価
- 2章 社会科の多様な評価と方法
- §1 多様な評価方法の特質と基礎・基本
- 1 テスト法の特質と工夫のポイント
- 2 観察法の特質と工夫のポイント
- 3 作品法の特質と工夫のポイント
- 4 質問紙法による自己評価の特質と工夫のポイント
- 5 ポートフォリオ法の特質と工夫のポイント
- §2 社会科における絶対評価の工夫のポイント
- 1 観点別評価の工夫のポイント
- 2 総括的評価,評定のポイント
- 3章 社会科授業の絶対評価の実際
- §1 地理的分野
- A 地球上の位置関係と水陸の分布
- B 都道府県の調査 ―香川県を例として―
- C 自然環境から見た日本の地域的特色
- §2 歴史的分野
- A 歴史の流れの大観
- B─1 産業の発達と町人文化
- B─2 近世の日本 イ
- C 近現代の日本と世界 明治維新
- §3 公民的分野
- A 現代日本の歩みと私たちの生活
- B 私たちの生活と経済
- C 政治単元「地方の政治」
- 4章 通知表と指導要録
- §1 学習指導要領と指導要録
- §2 通知表の意義
- §3 通知表改善の工夫
まえがき
生きる力,総合的な学習,基礎学力などとともに今日の学校教育のキーワードになっているものの一つに絶対評価がある。特に中学校では,高校入試の内申(調査)書とも関連して,この絶対評価の適切な運用が当面する最大の課題になってきている。ただし,全国的な動向をみると,当面する課題にどう対応するかに追われており,全体的に対症療法的な対応がめだっている。それは,絶対評価による5段階評定の5や4をつける人数を全体の割合から調整するといった相対評価化の方向で対処したり,高校入試の内申(調査)書に絶対評価を昨年度から導入した都道府県とそうでない都道府県とで絶対評価への取り組みや対応の仕方にかなりの温度差がみられたことなどからわかる。
評定の絶対評価化は上からの要請であり,実質的に長年相対評価に慣れ親しんできた先生方が戸惑うのも無理はない。そのため,不慣れさの中での試行活動の連続であり,大きな負担になっていることも確かであろう。評価活動を意識するあまり,学習指導がおろそかになるなど本末転倒の授業になることもあるであろう。しかし,それだからといって相対評価に回帰することを主張したり,相対評価化によって絶対評価を歪曲化したり,あるいは手抜き,抜け駆け的な対処に知恵をしぼったりするのはいかがなものか。生徒指導要録の改訂のあゆみをみると,相対評価が集団内の優劣の判別にとどまり,生徒間の競争意識,優劣意識を助長するといった弊害がめだったため,それへの対応に腐心してきたことがわかる。一方,基礎・基本を踏まえた学習指導を展開し,すべての生徒に基礎学力を身に付けさせる学習指導を推進するためには,目標に準じた評価である絶対評価を主体にする方が適切であることは明らかである。それだけに,相対評価か絶対評価かなどといった議論をするのではなく,研修に努め,省力化を工夫するなどして,絶対評価をいかに歪曲化しないで適切に運用し,軌道に乗せるかに英知を結集することが大切である。
本書は,その一環として,実際の授業場面でどのような評価活動を行っていけばよいか,特に評価に追われて学習指導がおろそかになっていくようなものではなく,評価が効果的な学習指導を促し,授業改革に結びついていくようにするためにはどうしたらよいか,といった課題意識に立って編集している。そのため,綿密さを競うのではなく,節目節目での効果的な評価活動といった点に留意し,負担を軽減化する中で実施可能な評価活動を提案する方向で実践実例をまとめている。教師が評価の目をギラギラ輝かせているために生徒が萎縮してしまうような授業ではなく,生徒が伸び伸びと学べるようにするために便宜学習状況をチェックし,必要に応じて指導計画を見直したり軌道修正したりしていくような,そんな評価活動を提案することに努めている。ただし,それだからといって各実践事例は完成されているわけではなく,むしろまだまだ試行錯誤の状態にあるものであるといってよいであろう。そのため,例えば小刻みな学力評価をめぐって,1章で編者が述べていることと3章の実践事例との間にずれが生じたりしている。そうしたずれを承知の上で本書を発刊したのは,3章の実践事例がいずれも熟考に熟考を重ねたものであり,現段階では中学校社会科を担当する先生方の具体化の手掛かり,たたき台に十分になり得るものであると判断したからである。したがって,本書を活用するに当たっては,モデル,見本にしてこの通りにやるというのではなく,本書を具体化の手掛かり,ヒントの場として位置付け,活用することが望まれる。
絶対評価は,評価規準づくりを中心とした準備の段階から,実際に評価活動を実践する段階に入ってきている。特に,毎時レベルの評価活動をどう効果的に行っていくか,そしてそれによって得られた評価情報をいかに指導・支援に生かしたり,単元レベルの評価に行かしたりしていくかといったことが実践課題になってきている。そうした中で,一方で評価に追い回されたり,負担が過重になったりして,評価に押し潰されそうであるとの声が聞かれるようになったりしている。それに対しては,不慣れさの中での一時的な負担でやがては軽減化されるものであるとか,また,将来的にみれば転換期として必要な戸惑い,負担であるということもできよう。しかし,一方で,ややもすると綿密さ,きめ細かさを競うような提案に振り回されている面もあるであろう。そうした動向に鑑み,本書は,現実に実施可能なものという点に留意してまとめている。しかし,それでも本書の事例は理想的で負担も大きく,実施困難と思われる向きもあるであろう。その場合は,類書と本書との違いに着目し,読者自身で一層の省力化や負担の軽減化を図る妙案を検討していただきたい。そして,実施可能で効果的な絶対評価の運用を提案していただきたい。
創造の営みが主役になる転換期は英知の結集が必要である。創造するためには大変なエネルギーが必要であるが,一方で創造にはその営みに参加した人しか味わうことができない喜びや豊かさ,充実感がある。本書を手掛かり,たたき台にして,多くの先生方が絶対評価をめぐる創造的な営みに参加していただけたら幸いである。
多忙な中で難しい要請に果敢に挑戦し,原稿としてまとめてくださった執筆者の先生方に感謝申し上げます。また,末筆ながら本書の刊行にご尽力いただいた明治図書の安藤征宏氏をはじめ編集部の方々に深甚の謝意を申し上げます。
平成15年4月 編者 /澁澤 文隆
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- 明治図書