- まえがき
- 1章 中学校社会科のリニューアルの必要性と方向
- 1 生きる力をはぐくむ社会科の方向
- (1) 新しい学力観と生きる力
- (2) 生きる力と社会科
- 2 リニューアルが要請される中学校社会科
- (1) 変化に対応できない社会科学習
- (2) 生涯学習が要請する社会科のリニューアル
- 3 生きる力をはぐくむ授業改善のポイント
- 2章 教材研究・教材開発のヒント
- §1 地理的分野
- ―地域の規模に応じた調査を中心に見方や考え方と基礎的な知識の両立を目指した教材開発―
- 1 新しい地理的分野と「地域の規模に応じた調査」
- 2 「地域の規模に応じた調査」の教材研究・教材開発
- §2 歴史的分野
- ―導入単元とダイジェスト化を中心に見方や考え方と基礎的な知識の両立を目指した教材開発―
- 1 「導入単元」設定の意味と教材開発の前提について
- 2 ダイジェスト化について〜「古代までの日本」を例に内容をどのように扱うか〜
- §3 公民的分野
- ―見方や考え方と基礎的な知識の両立を目指した教材開発―
- 1 新学習指導要領より〜「かかわり」を通したアプローチ〜
- 2 体験を通したアプローチ
- 3 具体的な指導計画例
- 3章 授業づくりのニューバージョン
- §1 学習の過程を重視した授業改善
- 1 なぜ「学習の過程の重視」なのか
- 2 学習の過程を重視した授業改善とは
- 3 学習の過程を重視した授業改善のポイント
- §2 例題と練習問題で構成した事例学習
- 1 いま,なぜ,事例学習なのか
- 2 取り上げる事例の条件
- 3 地理・歴史学習における事例学習の構成・展開の工夫例
- §3 生徒の主体的な学習を促す授業改善
- 1 「社会科のリニューアル」「授業づくりのニューバージョン」の考え方
- 2 「主体的な学習」と「適切な課題を設けた学習」
- 3 地理・歴史・公民的分野における「適切な課題を設けて行う学習」
- 4 「主体的な学習」を促す学習の内容と方法
- 5 公民的分野において社会問題を取り上げる意義
- 6 「中国残留邦人」問題から学ぶ「現代日本の歩みと私たちの生活」
- §4 表現,発表の場を重視した授業改善
- 1 なぜ表現,発表の場を重視しなければならないのか
- 2 表現,発表の場を重視した授業改善の視点
- 3 表現力を高めるための工夫
- 4 表現したものを発表する場の工夫
- §5 コンピュータを活用した社会科学習
- 1 シミュレーション機能を生かして
- 2 通信機能を生かして
- 3 情報提供を主としたソフトの活用
- 4 コンピュータ周辺機器の活用
- §6 ゲーム,パズルなどを取り入れた社会科授業
- 1 ゲーム,パズルのような「遊び」で学力は伸ばせるのか?
- 2 カードゲームで基礎的な知識を定着させる
- 3 シミュレーションゲームで計画・実行・評価の総合的な能力を育成する
- 4章 選択教科との関連化プランニング
- 1 リニューアル化のための基本的な考え方
- 2 選択「社会」はどう変わったか
- 3 必修教科と選択教科と「総合的な学習の時間」との関連について
- 4 これからの選択「社会」のリニューアル化のための視点と方法
- 5 リニューアル化した選択教科の実践例
- 5章 総合と関連づけた展開のニューモデル
- §1 実感をともなってわかる学習の創出
- 1 なぜ社会科は「暗記教科」と言われるのか
- 2 「体験」を通して実感をともなう学習に
- 3 課題研究を通して学習の「意味」,「意義」がわかる学習に
- §2 身近な題材から問題解決能力を育成する
- 1 校内生活における課題の発見と追究
- 2 「身近な地域」の課題を発見し,追究する
- 3 地図帳から課題を発見して追究する
- §3 教育課程全体の中から社会科の役割を見る
- 6章 新評価規準による評価活動の方向とニューバージョン
- §1 中学校社会科の評価改善の方向とアイデア
- 1 新しい社会科の評価観と評価改善の方向
- 2 中学校社会科の評価改善のアイデア
- §2 テスト問題改革の工夫とアイデア
- 1 学習指導要領の改訂と社会科のテスト問題
- 2 テスト問題の改革の前に必要な「社会科」の授業改善 ―指導と評価の一体化―
- 3 テスト問題の改革で「技能・表現力」を鍛え,「思考・判断力」を高める
- 4 ペーパーテスト問題を作る―テスト問題改革の実際
まえがき
基礎学力の低下を大義名分にして,生きる力をキーワードにした教育課程の改善を批判したり,拒んだりする意見が聞かれる。それでは,逆に,これまで通りの学習指導を継続していけば,子どもたちは近未来の社会に主体的に対応していくための基礎学力を身に付けることができるのだろうか?実際の中学校社会科は,高校進学のための受験対策を最優先し,知識詰め込みの学習指導を展開しているが,それで基礎学力は身に付いていたのだろうか。もしそれで身に付いていたとするならば,基礎学力はイコール学校知(学校で生まれ,学校で育ち,学校で使われる知力)ということになるが…。
なぜならば,受験のために詰め込んだ知識は,受験が終わり,学校を卒業するとたちまち忘却されるため,学力のピークは入試の時期となっているからである。それは同僚の教師をみてみれば一目瞭然であろう。社会科の先生は,仕事柄,社会科の教科書の記述内容を毎年のように繰り返し指導しているので忘れる機会を失っているが,他教科の先生はそうではない。かつて一所懸命詰め込んだ地理や歴史などに関する知識も今ではほとんど忘れ,その知識量を受験生と比べると,教師の方がかなり劣っている。
それでは,なぜ忘れてしまうのか。その原因は大きく2つある。1つは,丸暗記的に文字や言葉で詰め込んでいるため,そもそも忘れやすく,また,テストのようにそのものズバリの問いにしか役に立たず,そのためテストから解放されるとたちまち忘れてしまう。他の1つは,詳しさを競い,詰め込んでいる知識が細かな知識であったりするため,社会生活を営むうえでほとんど必要なく,そのためせっかく身に付けても生かしたり使ったりする機会がなく,忘れてしまう。知識の質も,知識の身に付け方の質も悪いため,生活知と一体化して機能しないのである。
そうした学校知にとどまっているような学力が,基礎学力であるはずがない。また,それだけに受験指導に埋没してはならず,本来の基礎学力を身に付ける教育を推進する必要があるのである。
変化の時代は生涯学習の時代である。変化の時代は,事実認識に追われる時代であり,事実認識の結果を覚えるのではなく,事実認識の方法を身に付け,自ら主体的に事実認識をしっかり行っていくことができるようにする必要がある。したがって,これからの時代に生きる人間は,現状や現時点までの社会的事象を知識化して身に付けるといった,いわば覚えるという学び方に陥っていてはならない。見方や考え方,問い方や調べ方といった方法的なものを中心にした学び方を身に付けることが必須となっているのである。
ただし,それだからといって知識を軽視してはならない。サッカーのルールを知らなければ,サッカーに関心をもつのは難しい。それと同様に,変化する社会に関心をもつためには,社会に関する基礎的な知識を身に付ける必要がある。社会生活を営む上での基礎・基本といった観点からフィルターをかけ,社会認識を深めるための座標軸になるような基礎的な知識については,義務教育の段階でしっかり身に付けさせる必要がある。
このように考えると,変化の時代,生涯学習の時代の基礎学力は,知識と学び方の両面から検討する必要があるといえよう。中学校社会科も学習指導の内容や方法を見直し,知識の厳選と学び方を学ぶ学習の充実を図り,知識と学び方の両立をめざした授業改善を進めていくことが肝要である。
ところで,学び方を身に付けさせるためには,問いと答えの間,学習の過程を大切にして追究的な学習を展開する必要がある。また,学び方を身に付けるのは生徒だから,追究的な学習は生徒が主役になって進める必要がある。これまでは,ややもすると生徒の主体的な学習や適切な課題を設けて行う学習は効率が悪いとされてきたが,学び方を学ぶ学習においては教師主導型の講義式の授業の方がむしろ効率が悪いのである。このように考えると,社会科教師の授業観も大きく変える必要があり,中学校社会科はコペルニクス的転換を求められているといえよう。
本書は,新しい社会科の趣旨を踏まえ,これからの社会科の方向を見据えて授業改善の方途を具体的に提示しようとしたものである。本書を手掛かりにしてロマンに充ちた社会科教育談義が交わされ,古い学力観に立つ社会科をリストラし,子どもの成長を扶ける営みとしての本道を行く社会科をめざしてリニューアル化が進むことを祈念している。曲がり角,転換期は創造的な営みが期待,要請されている時期である。新時代が要請する基礎学力を確実に身に付けさせることができるよう,各地で生涯学習の時代に対応した社会科の授業改善の試みや挑戦が行われことを願っている。
多忙の中で難しい課題に果敢に挑戦し,原稿としてまとめあげてくださった執筆者の先生方に敬意を表し,感謝申し上げます。また,末筆ながら,本書の刊行にご尽力をいただいた明治図書の安藤征宏氏をはじめ編集部の方々に深甚の謝意を申し上げます。
平成14年1月 編者 /澁澤 文隆
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- 明治図書