社会科教材の論点・争点と授業づくり6
“人権”をめぐる論点・争点と授業づくり

社会科教材の論点・争点と授業づくり6“人権”をめぐる論点・争点と授業づくり

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人権への理解ではなく見方・考え方をどう育成するかを焦点化。

本書は、人権という文脈から従来の社会科授業をとらえ返す論点・争点から執筆されている。人権についての観念的、抽象的な理解でなく、人権についての見方・考え方をいかに育成するか、教材化の理論的根拠、など具体的に指摘している。


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ISBN:
4-18-456517-4
ジャンル:
社会
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 180頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき
T 人権をめぐる論点・争点と社会科授業
[1] 社会科授業における人権学習の問題点 /田渕 五十生
(1) 社会の現実から遊離した社会科授業
(2) 人権に関する観念的な学習内容
[2] 同和教育の成果と問題点 /田渕 五十生
(1) 同和教育の開始とその特徴
(2) 同和教育の拡大
(3) 同和教育の問題点
[3] 同和教育から人権教育へ /田渕 五十生
(1) 人権教育をめぐる論点と争点
(2) 在日外国人教育をめぐる論点と争点
(3) 自尊感情(セルフエステーム)をめぐる論点・争点
[4] 人権学習活性化への具体的な提言 /田渕 五十生
(1) 学習内容の改善点
(2) 学習方法の改善点
U 人権問題の教材化と社会科授業の理論
[1] 人権教育は,果たして必要なのか? /岡崎 裕
(1) 人権教育におけるアプローチの類型
(2) 社会科的人権教育
(3) 同和教育と人権教育
(4) 人権教育をめぐる国際的潮流―学校のあり方について―
[2] 社会認識教育としての人権教育
―「知識・体験・感性」を論点・争点にして― /米田 豊
(1) 人権教育としての社会科教育の位置
(2) 社会科教育における人権教育を問い直す論点・争点
[3] なぜ,女性の権利は人権なのか /中島 美代子
(1) 家事はだれの仕事か
(2) 夫婦同姓の問題
(3) 憲法は家族を破壊するか
(4) 家庭科教科書に問題はあるか
(5) フェミニズムの潮流に対立する逆流
(6) 逆流の源は何か
(7) 世界の潮流とともに
[4] アメリカ合衆国の多文化教育が示唆するものは? /松尾 知明
(1) 多文化教育と社会科教育
(2) 文化多元主義から多文化主義へ―多文化主義の論争―
(3) 本質主義と保守派の描くアメリカ像
(4) 多文化主義と革新派の描くアメリカ
(5) 多文化主義と社会科教育の見直し
V 人権を視点にした社会科授業づくり
[1] 差別と区別の違いは?
―民族的マイノリティーの視点から― /大久保 佳代
(1) 奈良の在日外国人教育の歴史と争点
(2) 6年生社会科「韓国併合と強制連行」実践から
[2] 何がバリアなのか?
―障害者の視点を取り入れた地域学習― /皿谷 光良
(1) バリアについて
(2) 小学校で行われる人権とバリアの学習
(3) 単元名「何かお手伝いできることはありませんか」の実践から
[3] どう育てる? 自尊感情を
―参加型を通してジェンダーバイアスに気づく― /大森 正子
(1) S子との出会い
(2) 性教育を人権教育として
(3) 実践事例 その1
(4) 実践事例 その2
[4] インターネット上での人権は?
―新しい人権をめぐる授業づくり― /野間 浩一
(1) 広がるインターネットの世界
(2) 「匿名」インターネットにおける論点・争点
(3) 実践の紹介
[5] 社会科で「差別を見抜く目」を培うために
―人権の視点に立った地理の授業づくり― /向本 博俊
(1) 「I DON'T KNOW」
(2) 地理的分野で「人間の営みを」
(3) 授業実践「南アフリカ共和国に生きる人々―マリーの選択―」
(4) 二度と「I DON'T KNOW」とつぶやかせないために
[6] 「思い」「願い」だけの人権教育でよいのか?
―人権の視点に立った歴史の授業づくり― /東元 信浩
(1) 「思い」「願い」の人権教育を見直すことから
(2) 中学校歴史的分野における人権学習の視点
(3) 授業実践例
[7] 身近な題材での公民の人権学習
―公民における人権学習の争点・論点― /河原 和之
(1) 公民学習における人権の学習課題と方法
(2) 公民学習における人権教育をめぐる争点・論点
(3) 憲法第14条「平等権」の授業
[8] 被害者の人権か、被疑者の人権か?
―プライバシーと人権の授業づくり― /佐貫 誠
(1) 高校「現代社会」における人権の授業
(2) 「実名報道と人権を考える」の授業
(3) 参加型学習の導入とその成果
執筆者一覧

まえがき

 大学で人権問題について講義する時,筆者は受講者に向かって,次のような発問をする。「人権という言葉は難しい言葉ですよね。誰にでも分かりやすい身近な言葉に置き換えてくれませんか?」と―。すると「人間に備わった基本的な権利」であるとか,「人間として持って生まれた普遍的な権利」であるとか,極めて抽象的な答えが返って来る。けれども,現代人に享有されている人権は,決して生得的に備わったものではなく,歴史の過程で厳しい闘いの中から獲得されたものである。

 女子学生が多いので女性の権利保障の一例として,具体的に育児休暇の権利について,「生後3ヵ月で首の座らない赤ちゃんを放置できなくて,いかに多くの女性教師が教育現場から去っていったか,心を鬼にして職場復帰したわれわれが自分の問題として提起したから育児休暇の権利が獲得できたのです」というベテラン教師の逸話を紹介する。

 そこでもう一度,「では,今のあなたにとっての人権とは何ですか?」と問い返す。すると学生たちは黙してしまう。そこで,「これはおかしいとか,不合理だと思った身近な事例を隣の人と話してください」と指示する。すると学生たちは口々に語りだすようになる。

 2003年度の授業である。ある男子学生が,「教師に向かないと気づいて企業訪問したのに,『教育大学の学生は本社には不向きです』とあからさまな態度で断られた」と発言したとき,別の女子学生が,「面接されただけでいいではないですか。私の場合,女子というだけで門前払いされたしまった」と追加発言をした。自分の率直な体験と重ね合わせて語る雰囲気の中で,「海外青年協力隊に応募しようと思ったが,『日本国籍を有する者』という国籍条項が目に入り自分の夢が閉ざされてしまった」と在日コリアンの学生が語り,人権についての認識が深化された。人権が自分の問題として意識されるようになったのである。

 人権には多様な言い換えがあろう。筆者は,人権を「自己実現」とか「自己決定権」とか「あるがまままの自分でいい権利」と言い換えている。自尊心を踏み躙る差別や偏見の除去は言うまでもない。だが,個人の「自己実現」をどう社会的に保障するか,これが現代における人権問題のキーワードでないかと思っている。

 本書は,『社会科教材の論点・争点と授業づくり』の第6巻『“人権”をめぐる論点・争点と授業づくり』として,人権という文脈から従来の社会科授業をとらえ返す論点・争点から執筆されている。

 まず,T章「人権をめぐる論点・争点と社会科授業」では,従来の社会科授業が人権思想発達史中心の学習に終始して,人権についての観念的,抽象的な理解に陥った経緯を指摘した。そして,今後,どのような視点からの教材化が必要なのかについて論じている。人権についての知識内容ではなく,人権についての見方や考え方をいかにして育成するか具体的に指摘している。

 U章「人権問題の教材化と社会科授業」では,人権問題についての教材化の理論的な根拠を,4人の方々から提示していただいた。特に,アメリカの多文化教育についての報告は,社会科の教材化に新たな視点を提供してくれるであろう。

 V章「人権を視点にした社会科授業づくり」は,教育現場の第一線で活躍されている方々に執筆していただいた。執筆者に共通しているのは,反差別の具体的な事例なしに人権教育一般はありえないという認識である。取り上げているのは,民族差別,障害者差別,女性差別,部落差別など具体的な人権侵害事例を通しての授業づくりの一端である。さらに,最近注目を集めるようになった「被害者の人権問題」や「長崎女児殺害事件」に代表されるネット上の人権問題についての授業実践も報告されている。読者の方々の授業実践と比較していただき,忌憚のない批判をいただければ幸いである。

 最後に,出版界をとりまく厳しい事情の中で,このような形で出版することに尽力いただいた樋口雅子編集部長にあらためて感謝する次第である。


   /田渕 五十生

著者紹介

田渕 五十生(たぶち いそお)著書を検索»

1945年生まれ

広島大学大学院文学研究科修士課程(西洋史学専攻)修了

現在:奈良教育大学社会科教育教室

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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