- はじめに
- 第1章 「音楽科の授業」にかかせない指導スキルのポイント
- 1 「音楽科の授業」にかかせない指導スキルとは
- 2 14の視点からの指導スキルのポイント
- 第2章 音楽授業の指導スキル70
- 指導計画・授業準備
- 1 音楽の学習の意味を伝えるスキル
- 2 次の授業予定を伝えるスキル
- 3 他の題材との関わりを伝えるスキル
- 4 分かりやすい板書スキル
- 授業全般
- 5 オリエンテーション(授業開き)のスキル
- 6 生徒の様子を捉えるスキル
- 7 教材研究をするスキル
- 8 学びを深めるワークシートをつくるスキル
- 発問・言葉がけ
- 9 教師の言葉の受信を促すスキル
- 10 ほめるスキル
- 11 音と言葉を結び付けるスキル
- 12 生徒の意欲を引き出すスキル
- 13 生徒の発言を理解するスキル
- 14 生徒の知覚・感受を促すスキル
- 15 感想を伝えるスキル
- 学習形態
- 16 学習形態を使い分けるスキル
- 17 生徒の学びを深める学習形態の工夫のスキル
- 18 対話的な学びを実現するスキル
- 19 協働を生み出すスキル
- 20 器楽分野で必然性のあるペア学習を展開するスキル
- 21 グループ学習から全体学習につなげるスキル
- 歌唱
- 22 歌いやすい環境をつくるスキル
- 23 生徒に学習の成果を自覚させるスキル
- 24 音楽の構造に着目して表現の工夫を考えられるようにするスキル
- 25 自分の発声や発音の仕方に着目できるようにするスキル
- 26 曲種に応じた発声の扱いに関するスキル
- 27 共通教材の扱いに関するスキル
- 器楽
- 28 合奏をもっと楽しむスキル
- 29 アルトリコーダーを無理なく演奏できるようにするスキル
- 30 打楽器の特徴を生かすスキル
- 31 打楽器を用いたリズムアンサンブルのスキル
- 32 はじめての和楽器授業スタートスキル
- 33 和楽器の学習を苦手にさせないための指導スキル
- 創作
- 34 生徒の発想を促すスキル
- 35 創作のアイデアを広げるスキル
- 36 必要感をもって「旋律」をつくるスキル
- 37 必要感をもって「音楽」をつくるスキル
- 38 自分の思いが表れている音楽を感じ取れるようにするスキル
- 39 創作と鑑賞をつなげるスキル
- 鑑賞
- 40 ねらいに応じて曲との出合いを工夫するスキル
- 41 鑑賞の教材研究スキル
- 42 鑑賞の授業のワークシートをつくるスキル
- 43 鑑賞の授業で発言を活発にするスキル
- 44 鑑賞の授業で協働的に取り組む場面を設定するスキル
- 45 鑑賞を深めるスキル
- 〔共通事項〕
- 46 〔共通事項〕を学習の支えにするスキル
- 47 最適な音楽を形づくっている要素を選択するスキル
- 48 全ての音楽を形づくっている要素をバランスよく扱うスキル
- 49 題材に位置付けた音楽を形づくっている要素を効果的に扱うスキル
- 50 知覚や感受を実感させるスキル
- 51 用語や記号による音楽表現上の効果を実感させるスキル
- 学習評価
- 52 評価の場面や方法を精選するスキル
- 53 生徒と評価を共有する(合意形成)スキル
- 54 学習のねらいを明確にして評価につなげるスキル
- 55 授業での記述内容を評価に生かすスキル
- ICT活用
- 56 効果的な活用方法を考えるスキル
- 57 歌唱分野におけるICT利活用のスキル
- 58 ICTで演奏技能を高め互いの演奏を楽しむスキル
- 59 創作分野におけるICT利活用のスキル
- 60 ICTで創作のアイデアを広げるスキル
- 61 鑑賞領域におけるICT利活用のスキル
- 新しい生活様式
- 62 楽曲にアプローチするスキル
- 63 表現を練り上げるスキル
- 64 音楽を止めないためのスキル
- 学校行事
- 65 限られた授業の中で生徒が表現できるようにするスキル
- 66 音楽集会で生徒が感性を働かせることができるようにするスキル
- 67 学校全体で合唱コンクールを盛り上げるスキル
- 環境整備
- 68 音楽室の環境整備に関するスキル
- 69 学習しやすくするスキル
- 70 活動しやすくするスキル
はじめに
私は,平成2年4月に新規採用教員として長野県内の公立中学校に赴任しました。どのように授業をしてよいのかもよく分からないまま生徒の前に立ち,若さと勢いだけで授業に臨みましたが,はじめての3年生の授業で厳しい現実を知りました。どうにもこうにも授業にならないという状況を,今でもはっきり覚えています。その後,多くのクラスで厳しい現実を知ることとなりました。自分の目の前にいる生徒のつまらなそうな表情を見ることが,これほど苦しいことだとは思いませんでした。
当時の私は,授業がうまくいかない理由を,自分の授業に生徒を惹き付けるような魅力がないからだ,と考えました。そこで,どのようにしたら生徒を惹き付けることができるのかを考えて生徒の前に立つようにしました。しばらく経つと,「先生の授業,楽しいね」と言ってくれる生徒が出始め,「これはいいぞ!」と内心思っていました。そこで,あるとき生徒に,「どんなところが楽しいの?」と聞いてみました。生徒からの反応を集約すると,概ね次のようなものでした。「先生は授業のはじめに,昨日見た夢の話とか,中学生のころの面白いエピソードとか話してくれて,それが授業の時間の半分ぐらいになっちゃうときもあってとっても楽しい。ずっと歌を歌ったりしなくていいから疲れないし」…。
皆さんお気付きのように,生徒は,私が担当する時間が楽しい時間だと思ってくれているだけで,「音楽の授業が楽しい」と思っているわけではない,ということです。そのころ,授業がだんだん苦しくなくなってきたと感じていましたが,それは,授業がきちんとできるようになったからではなく,本来の授業の趣旨から外れていたからだったのでしょう。
初任校では,音楽科の教師が2名いました。1年目はS先生と,2年目以降はK先生とご一緒させていただきました。「苦しくなくなったのは本来の授業をしていなかったから」ということに気付かされた私は,S先生やK先生の授業を参観させていただいたり,廊下から覗いたりしていました。お二人の授業に共通していたことは,生徒が音楽活動を通して,楽しみながら着実に力を付けていく,ということでした。様々な手立てや言葉がけがありました。私は,「よし,真似しよう!」と思いました。
同じ学年,同じ教材,同じ手立てや言葉がけ。ところが,結果的には全く異なる生徒の姿がそこにある,という感じでした。このころ,同世代の仲のよい先生方には,「うちの学校の第一音楽室と第二音楽室の間の廊下にいれば,長野県の中学校で最高の音楽の授業と最低の音楽の授業が一度に参観できる」などと自虐的なことを言っていたことを思い出します。
このように言ってしまうと,「じゃあ,この本に書かれているスキルを真似しても,結局,うまくいかないんじゃないの?」と思われるかもしれませんね。でも,そうではありません。私も,前述のお二人の先生の真似をしただけではうまくいきませんでしたが,「真似をしよう」と思うことがあって,実際にやってみたからこそ,「なぜうまくいかなかったのか」「自分だったらどうするか」などを考えることができました。生徒が一人一人違うように,教師も一人一人違います。つまり,お二人の先生と私とはキャラが違います(当然,お二人の先生のキャラも違います)。ですから,同じ雰囲気づくりや同じ言い方はできませんし,それをやろうとすれば不自然になります。しかし,授業で大切にしたいことには共通点があるはずです。その共通点が見えてくれば,その後は自分のキャラを生かして,自分なりのやり方でやればいい。そう思います。
最後に,お忙しい中,本書にご執筆いただいた皆様,企画段階から様々にご助言,お気遣いをいただいた明治図書出版の赤木恭平氏に心から感謝いたします。全国各地の中学校で,先生も生徒も一人一人の個性が輝く生き生きとした授業が展開されることを願っています。
2022年4月 /臼井 学
これからは本誌に書いてあることを自分なりに解釈して行動していきたい