- 序文 /有田 和正
- T 保護者の心配
- 一 内容の削減と授業時数の削減
- ――六つのとまどい
- 二 わたしの提案
- 1 タラントのたとえ
- 2 これから育てる子どもは?
- 3 応用のきく基礎・基本を教える
- 4 一番面白いところから切り込む
- 5 新しい授業づくりの方法
- 6 指導技術の必要性
- U 発展学習とは何か
- 一 シンプルに考えよう
- 1 「発展学習」のおこり
- 2 発展学習は授業の発展である
- 二 「おたよりノート」は基礎・基本
- 1 おたよりノート
- 2 「おたよりノート」とはどんなもの?――子どもの表現力を伸ばす学級通信
- (1) 「おたよりノート」の書かせ方/ (2) 「おたよりノート」は学級経営の核/ (3) いい文を沢山きかせる
- 三 発展学習の典型「はてな?帳」
- 1 学習したことを発展させて書く
- (1) 面白い実験をする子ども/ (2) ユニークな秋をとらえる子ども/ (3) 体験活動へ発展させる子ども/ (4) 「春」さがしを楽しむ子どもたち/ (5) 一年生の子どもに脱帽――これが限界?
- 2 学習したことをすぐ使ってみる子ども
- 3 視点を転換して発展させる子ども
- 四 総合的学習へ発展させる
- 1 新教育課程の構造
- 2 社会科から総合へ発展させたみごとな実践例――杉浦真由子先生の実践
- V 総合的学習へ発展する教材の開発
- 一 「シクラメン」を教材化する
- ――愛知県御津町が日本一の産地になったわけ――
- 1 シクラメン農家を取材
- 2 日本一の産地になったわけ
- (1) 漁業からシクラメンへ切り替え/ (2) 水耕栽培で手間が減った
- 二 シクラメン栽培のポイントは何?
- 1 シクラメン栽培のポイント
- (1) 土つくりが勝負/ (2) 肥満はダメ/ (3) 病気や害虫を早くみつけること/ (4) 出荷時期(目あて)を決める
- 2 出荷先
- 三 シクラメン栽培のコツは?
- 1 歌で売れ出したシクラメン
- 2 シクラメン栽培のコツ
- (1) いかに手間をはぶくか/ (2) 坪単価を上げる工夫/ (3) 農家の楽しみ/ (4) 後継者が一六軒ともいる/ (5) 種は自家製
- 四 山葵日本一(静岡県中伊豆町)を教材化する
- 1 変な日よけがあるな?
- 2 わさび栽培の命は「水」
- 五 山葵栽培の面白い工夫
- 1 わさび田にハンノキがあった!
- 2 わさび田にモノレールがあった!
- 3 わさびはポットに植えていた!
- 六 一五九名で山葵生産日本一
- 1 水温調節のむずかしさ
- 2 栽培法の変化と道具
- 3 一五九名で日本一のわさび生産
- 4 中伊豆町のわさび栽培の歴史
- 七 山葵栽培の歴史は町の歴史だ!
- (1) わさび栽培の始まり/ (2) わさび栽培の成長/ (3) 国有林(御領地)を借りるわさび田/ (4) 農地改革とわさび田/ (5) 狩野川台風の直撃/ (6) モノレールの設置/ (7) わさびは「世界の味覚」に/ (8) 生わさびの効用/ (9) わさびの値段の変化
- 八 山葵田は「農地?」〜栽培方法の変化
- 1 国有から個人農地に
- 2 わさび栽培法の変化
- (1) 畳石方式の栽培/ (2) パイプ栽培
- 3 わさびの盗難
- 4 わさび食の歴史
- 九 十勝平野の原風景は守れるか?
- 1 十勝平野の美しさ
- 2 防風林は何のため?
- 十 教会を教材に
- 1 教材はどこでもある
- 2 五島列島の教会の「はてな?」
- W 子どもの知的好奇心を満足させる授業を
- 一 新しいことを知りたがっている中学生
- 二 中学生が求めている授業
- 三 小学生の好きな授業
- X 基礎・基本を教えると子どもは自然に発展させる
- 一 教科書を教える授業
- 二 基礎・基本から発展学習へ
- 三 教科書は最低基準の内容
- 四 教科書の中に基礎・基本をさがす
- 五 教科書の発展教材を考えておく
- Y 発展学習には思考の足跡が見えるノートの活用を
- 一 ノートは学力をつける手段
- 二 書くことを楽しんでるノート
- 三 成長が見えるノート
- 四 「考え」の足跡が見えるノート
- 五 自分で調べたことや考えを書いたノート
- Z 知識や学習技能を倍増できる力をつけること
- 一 知識や学習技能の倍増のしかたを
- 二 基礎学力共振の具体例
- 1 一年生の応用力
- 2 社会科と総合の共振
- あとがき
序文
二〇〇二年四月より、新しい学習指導要領が実施され、これまでにない「超薄い教科書」で学習することになり、学力低下が心配されている。折しも、二〇〇二年一〜二月に実施された学力テストの結果が公表され、「おおむね良好」と発表された(二〇〇二年一二月)。わたしは、「はてな?」と思った。
これは、事前に設定していた正答率を上回る教科が多かったからだという。しかし、目標設定値を低く設定すれば「良好」ということになるではないか。詳しくみると前回より結果がよかった問題は全体の四分の一にすぎず、逆に悪かったのはその倍近い。やはり、学力は低下しているとみた方が適当のようだ。
文部科学省は学力低下を予想したのか、二〇〇二年四月から実施された学習指導要領を、「教える内容の最低基準」であるとした。これまでずっと到達目標ないし標準としてきたことをあらためたのである。
学習指導要領が「最低基準」となったということは、これを具体化した教科書も当然最低基準ということになった。この最低基準をクリアした子どもには「発展学習」を行うことになり、学習指導要領を超える授業を認めたのである。これは画期的なことではあるが、学校現場に大きな混乱と不安を与えた。
二〇〇二年八月二二日、文部科学省は、教科書の範囲を超えた「発展学習」や、基礎をじっくり学ぶ「補充学習」の参考となる教師用指導事例集の小学校版を公表した(算数だけ)。これをみると新学習指導要領で削減された内容を軒並みに復活させている。
なお、次回の教科書検定では、発展的な内容の記載を容認するという。すべて学力低下への配慮である。
このような動きをみるにつけ、文部科学省の事例集に頼るより、自分たちで作った方がよいのではないかと考えた。
つまり、「教材・授業開発研究所」の事業の一つとして『新教科書を補う発展教材の開発 国語・社会・算数・理科』を、研究所の支部や研究サークルで出版したいと考え、各支部やサークルに呼びかけた。多くの支部やサークルが積極的に応じてくれた。
教科も希望をつのった。算数・理科の希望が多いだろうと予想していたところ、発展教材の開発が比較的むずかしいといわれる国語と社会を多くの支部・サークルが希望してくれ、驚いた。やはり、すごく意欲的な教師たちだと思った。
各支部・サークルは、地域性やサークルメンバーの特技・特色を生かした、実にユニークな教材を開発してくれ、とてもうれしく、力強く思った。
サークルメンバーは、よく考え、よく理解し、よく知恵を出し合い、新しいものを創り出してくれた。「これが発展教材だ」という決まったものがあるわけではない。だから、多様なものが出てくるのが当然であるし、その方が望ましい。
研究所の支部は北海道から沖縄まで全国にある。準備のできたところから順次出版していくことにしている。今回の出版物は、全国の教師に大きな刺激を与えるものと期待している。
今後は、基礎をじっくり学ぶ「補充教材」の開発も構想し、その準備をしているところである。
今回の一連の出版は、明治図書編集長の江部満氏のお力添えによるところが大きい。記してお礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。
二〇〇三年一月二日 教材・授業開発研究所代表 /有田 和正
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- 明治図書