- プロローグ エネルギー授業は奥深い /寺本 潔
- 第T章 エネルギーの大事さ納得の図解術
- 1節 エネルギーの問題は複雑な絡み合った糸だ
- 2節 図とストーリーで考えれば氷解する
- 3節 単元づくり・授業づくりにはストーリー立てが必要
- 第U章 どんな学習活動がエネルギー授業を盛り上げるか
- 1節 意思決定過程を重視する方法
- 2節 製作活動(ものづくり)を取り入れる方法
- 3節 エネルギー・環境教育における話し合いの意義
- 4節 視野の拡大を意識する方法
- 第V章 エネルギーの授業実践をどうストーリー化するか
- 1節 電気の大切さが分かり,電気となかよく暮らせる子の育成
- ――第2学年生活科「げんき,でんきたんけんたい」の実践を通して――
- 2節 「見えないエネルギー」から「見えるエネルギー」へ
- ――中学3年理科・エネルギーを体感できる実験を通して――
- 3節 くらしの変化〜消し炭(ぼや炭)作りに挑戦〜
- ――第4学年総合的な学習の時間・社会科の実践を通して――
- 4節 長野県から電気を考える授業プラン
- 5節 ソーラークッキング
- ――小学3年理科 太陽の光を集め,ゆで卵を作って食べよう――
- 6節 地域で実際に起こった環境・エネルギー問題の解決方法を話し合う
- ――小学5年社会科・総合単元『どうする? RDF(ごみ固形燃料)』の指導を例にして――
- 7節 めざぜ! 暮らし上手
- ――健康で快適な住まいづくりを通して――
- 8節 すすめるべきか! 原子力発電
- ――未来のエネルギー社会を創造しよう――
- 9節 環境やエネルギーについて知り,自ら取り組む子を目指して
- 10節 エネルギーと環境についての学習活動の工夫
- ――技術・家庭科「コンセントの向こう側」「手回し発電機付きラジオの製作」の実践を通して―
- 第W章 エネルギー授業のお助けマン&道具箱
- 1節 外部講師による授業の導入法
- 2節 家庭の協力体制の構築
- 3節 行政・NPOからの支援構築
- 4節 各種HP,企業パンフの活用法
- 第X章 近未来のエネルギー教育の焦点
- 座談会,その前に……
- 「エネルギー&環境学習フォーラム」座談会
- 日本型エネルギー・環境学習について
- 座談会を終えて……
- バランスを考えたエネルギー消費生活
- コラム
- 自転車人力発電機
- 交通機関のポスターから環境問題を考えてみよう
- すごいぞ,山の土
- 短編化映像教材
- まさか? 徒歩通勤で手当て支給
- こんなとき 電気パチパチ!! つけようかな 消そうかな 〜知的障害養護学級でのエネルギー学習〜
- エピローグ /澁澤 文隆
プロローグ
エネルギー授業は奥深い
イラク問題,中国の東シナ海での越境資源探査,大陸氷河の減少,台風被害,インド洋大津波など,立て続けに資源・環境・生存に関わる問題が生じている。このままで事態が推移したならば地球に近い将来,何らかの破綻が訪れるのではないか,と不安が脳裏をよぎる昨今である。エネルギーと環境(資源)の問題は,人口・食料問題,開発と貧困,人権やジェンダーの問題,平和と暴力の問題などにもつながっていて,深刻で緊急な諸課題となっている。地球環境自体が悲鳴をあげはじめていて,持続不可能ではないか,と国際的な規模で危機感が認識されるようになった。こういった変化に対応して教育の世界でも環境教育の必要性(例えば,持続可能な開発のための教育)が高まってきているが,こと「エネルギーと環境」に関しては教育実践が遅れている。なぜなら,エネルギー環境問題については理科や社会科,家庭科,技術科,数学科など対象を細分化していく個別の教科(科学)によって分析的に解説するだけにとどまっているからだ。
しかし,今日,現実社会からの要請では個別に接近することよりも,システム全体を丸ごと理解することの方に必要性が移ってきている。システムとは,分かりやすく言えば絡み合った糸のような網目である。熱帯雨林であれ,海洋や森林であれ,都市であれ,街であれ,家族が住む1軒の住宅であれ,個人の暮らしであれ,その姿を把握しようと思えば,エネルギーや物質の流れをいわば毛糸をほぐすように理解しなくてはならない。同時に太陽や水,風,地下資源に発するエネルギーや土壌栄養分の循環がそれらのシステムには見出される。さらに,電気やガスなど人間が利用しやすいように変換されたエネルギー源は有限であり,その在り処や利用が偏っている事実も受け止める必要がある。例えば世界人口の2割が,世界の資源の8割を消費している事実がその偏りの証拠であり,重要な学習テーマでもある。
本書は,そうした学習テーマに対し,果敢に挑戦して授業づくりを行った中部5県の現場教師たちによる教育実践の軌跡である。「エネルギーと環境」という見えにくいテーマだからこそ,見えやすいようにと二つの切り込み方を採用した。一つは「図解」であり,もう一つが「授業ストーリー」という手法である。エネルギーや環境という複雑に絡み合った糸を丸ごとつかむには,図解で関係や構造を単純化して理解することが有効である。
冒頭の第T章では,エネルギーを取り巻く複雑な諸問題を教材化する上で図解を用いてストーリーを描く利点について簡単に解説した。教師にとってエネルギーというテーマに対し,どのような視座に立てば授業が組み立てられるか,いくつかの基本的な視点を提示した。続く第U章では,具体的なエネルギー授業の組み立て方を類型別に論じた。中部5県の教師たちがそれぞれの特色を持って推進してきた授業づくりのノウハウが述べられている。さらに第V章はエネルギー授業に関する多様な実践記録をコンパクトに掲載した。この章を読んで,是非自分もエネルギー授業に取り組んでみたいと意欲的に発想される方が出てこられることを望みたい。第W章は授業づくりに欠かせない外部からの支援の活用法について解説されている。ともすれば,現場の教師は自分の力だけで授業づくりを行おうとしがちであるが,ここでは連携をキーワードに授業づくりに使える道具箱について記述してある。最終章の第X章は,これからの展望を中部5県のフォーラム代表者に語ってもらった座談会記事である。エネルギーと環境がこれからの教育にとっていかに重要なテーマであるか,識者の見地がまとめられている。これらに加えて,コラムもユニークなヒントが満載である。
本書が,そうしたエネルギー・リテラシー(エネルギー問題に主体的に関わろうとする資質・能力)の育成の一助になれば望外の喜びである。
エネルギー&環境学習フォーラム代表
愛知教育大学 /寺本 潔
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- 明治図書