教科の「基礎・基本」と学力保障2
社会科の「基礎・基本」の学び方

教科の「基礎・基本」と学力保障2社会科の「基礎・基本」の学び方

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社会科の基礎・基本をどうとらえるか/社会科(地理・産業)の基礎・基本と学び方/社会科(歴史)の基礎・基本と学び方/社会科(政治・公民)の基礎・基本と学び方 ほか


復刊時予価: 2,563円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-407921-0
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 160頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき /柴田 義松
T 社会科の「基礎・基本」をどうとらえるか
/柴田 義松
1 はじめに
2 「社会科」の教育内容はどのように厳選されたか
3 社会科の基礎・基本とは何か――同心円拡大方式の批判
4 歴史教育の基礎・基本とは
5 社会科の理念を再生させる道
U 社会科(地理・産業)の「基礎・基本」とその学び方
/白尾 裕志
1 社会科(地理・産業)の「基礎・基本」を考える
(1) 「同心円拡大方式」にはこだわらない
(2) 科学的な社会認識の「科学的」とは何か
2 社会科(地理・産業)の基礎・基本
3 社会科(地理・産業分野)の主な内容
4 社会科(地理・産業)の「基礎・基本」の学び方
(1) 地図作り――3年生社会科の導入
(2) 地域の人々の生産の様子の学習――働く姿をありのままに表現する
(3) 地域の人々の消費の様子の学習――市の人たちの買い物
(4) 自動車工業――人と生産の関係を中心にした実践
5 おわりに
V 社会科(歴史)の「基礎・基本」とその学び方
/河崎 かよ子
1 はじめに
(1) 子どもにとっての学ぶ意味
(2) 「基礎・基本」をどう考えるか
(3) 小学校歴史教育の内容
2 農具を手がかりに昔の暮らしを探る――中学年
(1) 地域のうつりかわり
(2) 地域の民俗資料館をたずねて
(3) 「いつどのように使ったの?」――昔の米づくりの1年
(4) 中学年歴史学習の基礎・基本
3 大昔の暮らし(6年生)
(1) 野尻湖の象
(2) 石器づくりを体験する
4 戦国時代の村の生活(6年生)
(1) ものの始まりを問う
(2) 資料の観察・読み取り
(3) 村の団結・自治・おきて
(4) 「戦国時代の村の生活」の授業における基礎・基本
5 日露戦争(6年生)
(1) 平和の意味を掘り下げる
(2) 討論で思考をきたえる
(3) 討論学習・日露戦争
(4) 「日露戦争」の授業における基礎・基本
6 15年戦争を考える(6年生)
(1) 問い続けるということ
(2) 戦争とは何か
(3) なぜ戦争を止めることができなかったのか
(4) 「15年戦争を考える」授業における基礎・基本
7 おわりに
W 社会科(政治・公民)の「基礎・基本」とその学び方
/宮崎 充治
1 政治・公民分野の「基礎・基本」を考える
(1) 自前の「概念装置」をつくる
(2) 内容と方法の統一を
(3) 政治・公民分野を教える教室空間――その三重性
(4) 「概念装置」を社会的な関係の中に位置づける
(5) 市民としての価値の形成
(6) 政治状況と若者
2 政治・公民分野における基礎・基本の内容とその学び方
(1) 環境問題への入り口――ゴミの実践
(2) 憲法を政治学習の中心にすえる(その1)――恒久平和主義を学ぶ
(3) 憲法を政治学習の中心にすえる(その2)――基本的人権の尊重
(4) 世界の基本的な構造にせまる――国際理解教育
あとがき

まえがき

 教育内容を「基礎的・基本的内容」に精選するということは,これまでも学習指導要領改訂のたびにいわれてきた。しかし,その「基礎・基本」とは何かが明確に規定され,説明されたことは一度もない。そのため,「基礎的・基本的内容」に精選したはずの学習指導要領が発表され,それに準拠した教科書が作られれば,その内容すべてが「基礎・基本」であるととらざるをえない。にもかかわらず,「基礎・基本」とは何かの議論が教育現場に絶えないのは,現場人の健全な良識に基づくものだといえよう。というのも,教える内容を真に基礎的・基本的なものにしぼり込むということは,教師にとって日々の切実な実践的課題であり,授業で子どもたちを学習内容に集中させるためには不可欠の作業であるからだ。

 各教科の基礎的・基本的内容は何かを明確にし,教える内容をぎりぎりに精選するということは,教材を少なくするということでは必ずしもない。むしろ,精選された内容について,地域や学校の実態に即し,子どもの認識の筋道にも合わせて豊かな教材が選択され,提示されてこそ,その内容が子どもたちにしっかりと習得されることになる。

 このような授業が成立するための本質的かつ実践的な問いかけとして,教師は常に何がその教科の基礎・基本であるかを問い,追求することが必要である。したがって,このような研究は,わが国では特に1960年代以降,民間の教育研究団体に所属する教師や研究者による実践的研究の豊かな蓄積がある。しかし,残念なことにそれらの研究は,学習指導要領の改訂に反映されることはほとんどなかった。これまで改訂に際して行われた「基礎的・基本的内容」への精選は,従来の内容が「盛り沢山に過ぎ」たり,「高度になりがち」で,授業について行けない生徒がいるからといった理由で,「内容の再配分や削減」を行うという消極的な意味の量的精選にとどまっている。

 教科内容の精選には,もう1つのこれとはまったく違ったやり方による積極的な意味の精選がある。すなわち,従来の内容をたんに間引きするような量的精選ではなく,内容の系統性とか教科の構造を見直して,教育内容を質的に改造するような精選である。現代の学問・文化の成果に照らし,従来あったあまり意味のないガラクタ的な内容を取り去るようにすれば,理論的水準の上ではより高度な内容のものにしながら,生徒の負担は軽減するということも可能である。60年代に,アメリカをはじめ先進諸外国で行われた教育内容の「現代化」は,そのような教科構造の再編を目指した積極的精選の試みであった。わが国では,数学教育における量指導の体系化とか「水道方式」による算数指導の革新,分子論・原子論の立場に立つ理科教育の改造,日本語教育の新しい体系,「人間の歴史」系統案の開発などが行われた。教科内容の精選は,このように科学の基本的概念や原理の指導を重視した「教科の現代化」やその後の「楽しい授業」の研究成果に学び,それを発展させるものでなければならない。

 基礎的・基本的内容については,「繰り返し学習」することによって確実な定着を図るようにするということが,教育課程審議会答申には繰り返し述べられている。反復練習は,たしかに文字の書写,算数の九九や計算力,あるいは運動技能のように半ば無意識的・自動的に遂行される技能の習得には必要であり有効であるが,より高次な知識の習得には別の方法が必要である。「繰り返し学習」の場合も,内容によって繰り返し方は異ならねばならないが,さらに,表意文字である漢字の場合は,学習の仕方にも別の工夫が可能であり必要である。漢字で作る熟語は語彙指導の対象としてさまざまの分類が可能であり,漢字学習にはこのような点を考慮した合理的・系統的な指導が必要である。「国語」の改善の基本方針として,教課審答申には「自分の考えを持ち,論理的に意見を述べる能力,目的や場面などに応じて適切に表現する能力,目的に応じて的確に読み取る能力や読書に親しむ態度を育てることを重視する」と述べられている。ここで重視されている「論理的に意見を述べる能力」とか「的確に読み取る能力」といったものは,一朝一夕に身につくものではない。何年もかけて繰り返し学習するなかで身についていくものである。教科により,その方法にも当然さまざまの異なる工夫が必要となるが,各教科の基礎・基本の確実な習得を図る上で教師が共通して守るべき指導の原則となるものをまとめてあげてみれば,次のようになろう。

1.基礎・基本の学習を,ただ機械的な繰り返し反復にゆだねることは避け,子どもたちの知的好奇心を喚起し,できる限り論理的な理解を可能とするような方法や教材・教具の活用を図る。

2.学習の必要性や意義が子どもたちにも自覚され,子どもたちが自ら進んで学習に取り組むよう動機づける。

3.明確で意外性のある「問い」,本質的で,子どもが背伸びすればとどくような問題の作成につとめる。

4.基礎的なことは誰にも分かるものであり,またできるようにしなければならないのであるから,学級のみんなが助け合い,協力しあって学んでいくような集団学習の方法の活用にもつとめる。

5.繰り返し学習のなかでは,ゲームとか班競争を取り入れるなど,学習を楽しくする方法の活用を図る。

 本シリーズ「教科の『基礎・基本』と学力保障」は,このような考えに基づいて編集したものである。各巻で,教科の基礎・基本のとらえ方を学習指導要領との対比で概説したあと,各教科(担当分野)の基礎・基本は何かをよりくわしく検討するとともに,その学び方指導のあり方について,子ども自身の学び方に焦点をあて具体的に論述した。

 読者のみなさんの率直な感想,遠慮のない御意見,御批判をお寄せいただければ幸いである。


  2001年8月   編者 /柴田 義松

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