- まえがき
- 第1章 続く自由進度学習、続かない自由進度学習
- 1 教師と子供のマインドセットを変える
- 2 スモールステップで始める
- 3 強みから始め、広げ方の道筋を描く
- 4 子供と一緒に試行錯誤を繰り返す
- 5 成果だけでなく過程を見取って改善する
- 第2章 持続可能な自由進度学習の取り入れ方
- 1 準備 子供を見取る
- 2 準備 自由進度学習をおこなう素地を磨く
- 3 準備 教材研究を基に単元計画を立てる
- 4 準備 単元計画を基に、委ねる範囲を決める
- 5 準備 子供が選択できる教材を用意する
- 6 準備 環境構成を整える
- 7 委ね方 進度を委ねる
- 8 委ね方 難易度を委ねる
- 9 委ね方 順序を委ねる
- 10 委ね方 方法を委ねる
- 11 委ね方 環境を委ねる
- 12 委ね方 内容や題材を委ねる
- 13 委ね方 目的や目標を委ねる
- 14 見取り方 持続可能な見取り方を考える
- 15 見取り方 自由進度の中で総括的評価をする
- 16 教科別のポイント 国語
- 17 教科別のポイント 算数
- 18 教科別のポイント 社会
- 19 教科別のポイント 理科
- 20 教科別のポイント その他
- 第3章 準備と委ね具合が分かる 実践・自由進度学習
- 1 国語 ★☆☆ コースを選んで作る
- ―世界に一冊、自分だけの自動車図鑑を作ろう
- 2 国語 ★★☆ 表現方法を追究する
- ―中心人物が成長する物語を書こう
- 3 算数 ★☆☆ 自分に合う難易度を選んで学ぶ
- ―ひっ算のしかたを考えよう
- 4 算数 ★★☆ 調べたい形を探し、面積を求める
- ―四角形と三角形の面積
- 5 社会 ★☆☆ 適切な資料を選んで調べる
- ―神奈川県ってどんなところ?
- 6 社会 ★★★ 自分の選んだお店を調査する
- ―いろいろなお店の工夫を調べよう
- 7 理科 ★☆☆ 自由進度学習を体験する
- ―人や他の動物の体
- 8 理科 ★★★ 問題を選択して実験を進める
- ―電流が生み出す力
- 9 外国語 ★★☆ 自分らしい表現方法で伝える
- ―おすすめのお土産を紹介しよう
- 座談会
- あとがき
- 引用文献
- 執筆者一覧
まえがき
教室の様子が、静かに、しかし確実に変わってきています。子供たち一人一人の違いはより明確になり、知識の更新は速く、ICT端末や生成AIの活用も日常となりました。「正解を早く言える」だけではこれからの学びは成立しません。汐見(2021、20頁)が述べるように、正解は何かを「問い続けること」そのものが、学びの目的になりつつあります。子供たちが自分で問いをもち、考えながら学びを進める場面では、教師が驚くほどの主体性や集中力が引き出され、思考が深まっていく様子が見られます。
OECDの「Learning Compass 2030」では、学習者の当事者性が学びの中核に据えられ、日本でも令和3年の中央教育審議会答申において、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の必要性が示されました。こうした動きの中で、次のような多様な言葉が、全国の学校現場で広がっています。
○自由進度学習…「学習者があらかじめ用意されていた学習課題の系列を、自分なりの速さで学習する」学習スタイル(黒上、1987、53頁)
○単元内自由進度学習…「ある単元において、個々の子どもが、予め準備された教材を用いて、自分なりのペースで主体的・自立的に進める学習」(澤田、2013、2頁)
○自己調整学習…Zimmerman(2002)を踏まえ、「学習者が目標達成に向けて思考・感情・行動を自己調整しながら学習を進めるプロセス」と要約できる(65−67頁)
○個別最適な学び…「「指導の個別化」と「学習の個性化」の二つからなる「個に応じた指導」を、学習者視点から整理したもの」(奈須、2021、19頁)
呼び名や理論的背景は異なりますが、これらに共通しているのは、「子供が自分で学ぶ力を育てること」です。 現場で大切なのは、言葉の厳密さを争うことではなく、何を目指してその手立てを選ぶのかを明確にすることです。目的が不鮮明なまま形式だけが普及する兆しに一抹の危惧を感じています。そこで本書では、「子供たちに選択の自由があり、その中で教科の目標だけでなく、自己調整力の向上を目指す学習」を自由進度学習として位置付け、現場で生かせる形で掘り下げていきます。子供たちの学ぶ力が伸びれば、与えられた課題をこなす学習から、自分の問いに基づいて学び方を選択し、試行錯誤しながら理解を深める学習へと変わっていきます。
自由進度学習には「負担が大きい」「一部の教師や子供にしかできない」といった戸惑いや反発の声があるのも事実です。しかし、賛成か反対か、やるかやらないかという二者択一の議論に、実践の前進が妨げられているようにも感じられます。
本書は、そうした極端な議論から一歩距離をとりたいという思いから生まれました。本書が目指すのは、従来の一斉指導を否定することでも、自由進度学習を唯一の正解として推し進めることでもありません。一斉学習か個別学習かという対立に終止符を打ち、自由進度学習の実践を手がかりに、子供が自分で考え、学びを進めていく姿をどのように授業の中に生み出せるのかを、具体的に示していきたいと思います。
本書の構成は次の通りです。まず第1章では、自由進度学習の失敗が起こる原因を明確にするために、「続く自由進度学習」と「続かない自由進度学習」の違いについて整理します。「なぜあのとき続かなかったのか」という失敗の背景を丁寧に見ていくと、手法や仕組みの問題ではなく、自由進度学習の捉え方に問題があったことに気付くことが多くあります。その気付きが、持続可能な自由進度学習を踏み出す出発点になります。
続く第2章では、持続可能な自由進度学習を実践するための準備や実践のポイントを細かく分けて示します。最初から全てを子供たちに委ねるのではなく、教師も子供も無理のない範囲から始めることで、実践を持続させながら子供たちの自己調整力が育っていく道筋を描くことができます。
そして第3章では、各地で自由進度学習に取り組んでいる先生方の実践を紹介することで、方法や留意点を具体的なイメージをもって理解できるようにしています。実践ごとに、何をどの程度子供たちに委ねているのかとともに、実践の難易度を示し、読者が自分の実践に取り入れやすいよう工夫しています。
第4章では、本書の執筆者による座談会を通して、第3章までには書ききれなかった思いや考えを語り合っています。自由進度学習に対する捉え方の違いを共有する中で、実践に共通する視点や大切にしたいポイントが浮かび上がっていきます。一緒に雑談をしている気持ちで読み進めていただけると嬉しいです。
本書を手がかりに、それぞれの学校や学級の実態に合った自由進度学習が実践され、子供たちが自らの力で学習を前に進めていく姿が各地の教室に広がっていくことを願っています。
2026年3月/鈴木 真樹
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明治図書

















