- はじめに
- 序章 自由進度学習を越える「自立型往還学習」
- 01 自由進度学習を実践した数年と感じた課題
- 02 「分ける」「混ざる」が生まれる柔軟なカリキュラムデザイン
- 03 「自立型往還学習」が一歩先の未来を描く
- 04 「自立型往還学習」の有効性
- 05 自立型往還学習の実践をどうつくっていくか?
- 第1章 「個別学習×共同学習」の往還を生む学びの在り方
- 01 「学びの地図」で主体的に学びを組み立てる
- 02 「学びの地図」を子どもたちはどう使う?
- 03 共同学習との往還を生み出す「インストラクション」
- 04 「振り返り対話」が学びを加速させる
- 05 共同学習と個別学習で行われていること
- 06 計画的な学びと即興で生まれる非構成的な学び
- 第2章 「ブロックアワー×プロジェクトアワー」の往還が生み出すもの
- 01 プロジェクトアワーとは?
- 02 プロジェクトアワーとブロックアワーの学びのつながり
- 03 個別学習の中に「探究」を意図して組み込む
- 04 2つの学びの共通項が第2の往還を創り出す
- 05 2つの学びをつなぐ中間地点「まなびぃ」の存在
- 06 その他の学びがどう影響を与えているか
- 第3章 自立型往還学習を支える10のツールとSEL
- 01 やる気につながる「小さな一歩」×「限定する」
- 02 計画と振り返りのための「学びの地図」×「リフレクション」
- 03 適切な目標設定につながる「時間を使う」×「ピンを立てる」
- 04 孤立学習に陥ることを防ぐ「仲間の力」×「フィードフォワード」
- 05 学びが大きく加速する「ログを取る」×「調整力」
- 06 2つの学びの往還と「SEL」の重要性
- 07 SELが溢れるヒミツキチの教室
- 第4章 自立型往還学習の中で子どもの学びをどう見取るか
- 01 つけたい力を子どもも大人も意識する
- 02 非認知能力の重要性
- 03 自立型往還学習における「学びの把握」
- 04 保護者への学びの共有の在り方
- 05 週の計画と振り返りによる評価
- 第5章 自立型往還学習を通して子どもは何を得るか
- 01 子どもたちへのインタビューから@
- 02 子どもたちへのインタビューからA
- 03 もう1人のグループリーダーから見た学び
- 04 学園関係者の言葉から今改めて考えること
- 第6章 公立小学校で「自立型往還学習」を実践するヒント
- 01 総合的な学習の時間とどう絡めるのか
- 02 共通項のつくりかた
- 03 学習の当たり前を問い直し、試していく
- 04 計画と即興のバランスに目をむける
- 05 先生の役割も往還していく未来へ
- COLUMN
- 1 公立時代の学びの探究
- 2 自己調整学習と10のツール
- 3 プロジェクトアワーでの探究のあゆみ
- 4 SELですべてがつながっていく
- 5 境界線をぼかすための共有
- 6 先生の仕事は線を引くこと
- おわりに
- 参考文献一覧
はじめに
今、この原稿を書いているのは2024年7月21日。新渡戸文化学園でのイベントの帰り道、電車に揺られながら、パソコンをカタカタと打っている。
新渡戸での「TEACHER'S HUB」というイベントでの登壇を振り返ると、深い学びを得た感覚があった。オルタナティブスクールの先生仲間4人でのトークセッション、登壇させてもらえて本当に幸せなことだ。仲間の言葉に気づきをもらい、参加者の方の質問から、深く考え込んだ。
学びは、受け手側(参加者)よりつくり手側(主催者・登壇者)の方が、吸収率が高い。ここ最近ではそう実感する機会が多い。ボク自身も学びを受ける側から始まり、教員6年目の年に、学ぶ機会をつくるために仲間と自主的な学び場を立ち上げた。つくり手側にまわるようになったのだ。受け手側より、つくり手側の方が、遥かに学びになる…。今回のイベントを主催した新戸部の先生方も、絶対にたくさんのことを学んでいただろう。
ここで、教室の学びに目を向けてみたい。
毎日教室に通う子どもたちは、学びに対して受け手側だろうか、つくり手側だろうか。
ここ数十年の教育では、おそらく受け手側だっただろう。それまで教室の学びをつくってきたのは、先生だ。ただそれもこの10年、もっと言えばコロナ禍以降の教室では、子どもがつくり手側に移り始めているのではないだろうか。
GIGAスクール構想では、子どもたちの机に置かれるものが、あっという間にノートからタブレットやPCに切り替わった。一気にハードが変わる変化だ。そのハードの変化に追いつこうと、日々、先生方も努力を重ねている。そのプロセスの中で、子ども自身が自らの学びに自分自身で取り組む「自由進度学習」が再注目されるようになった。
10年以上前、公立小の現場で自由進度学習を実践していたときのことを思い出す。その学びが幅広く認知されていくことは、当時はなかったのだが…
実践で生まれていた当時の課題感としては、
・先生は何をするのか(教師の役割)
・子ども一人ひとりの学びをどう見取るのか(学びの把握)
ここに難しさと限界を覚える先生が多かった。
そこから10年以上経ち、「自由進度学習」は注目を集め、全国的に、その学びは少しずつ広がってきている。
では、今広まりつつある自由進度学習は「つくり手側の学び」になっているのだろうか。
現状では、まだそうとは言えないのではないだろうか。
受け手側の学びとしての発展版…。そう見ている先生が多いのだと思う。「子どもたちが自分たちで学んでいます」と言いつつ、内容は教科書を順番に進めるものに変わりはないのだ。
では、子どもたちにとって、本当のつくり手側の学びってどんなものだろう。公立時代にもち始めたこの問いを基に、公立での実践で、そしてヒミツキチ森学園での5年間の実践で、来る日も来る日も試行錯誤を丁寧に続けてきた。
自由進度学習を超えて、その先にある学びはこういったものなんじゃないかと提案をさせてもらえるレベルまで来たと思っている、いや、来たと信じたい…が正しいか。
つくり手側の学びをもたらすポイントが2つある。子どもたちが、往還しながらつくり手側になるプロセスを大事にすること、そして、全体性を失わない学びを目指すことだ。
この2つをつくり続けているヒミツキチ森学園での学びに、「自立型往還学習」と名前をつけた。この本は、自由進度学習の先にあるのは「自立型往還学習」だという提案と、そのやり方や考え方を丁寧に綴った実践の記録だ。
ただ、「信じたい」と書いた通り、本書に書かれていることも、まだ到達点ではない。
・インストラクションはどの程度機能しているのか、もっと質を高められないのか
・本当に学んでほしい力はついたのか、それは中学校から先で通用する力なのか
常に葛藤があり、ボクらの学びにも課題を挙げればキリがない。本を書き切って皆さんの手元に届く間にも、葛藤や課題は山ほど出てくる。1つできるようになれば次またその次と。どこまでやっても終わりがない、ただ、少しずつ形になっているこの学びのことを、今の段階だからこそ残しておきたい。一緒に取り組んでくれる仲間が生まれるからだ。
嬉しいことに今回初めてヒミツキチの実践を丸ごと本にしていただく機会をいただいた。子どもたちが日々取り組んでいることを、事実の通り書いてある。
学びの本質を一緒に読み解きながら「自立型往還学習」が、今広まりつつある自由進度学習をさらに推し進める一手になってもらえたら、こんなに嬉しいことはない。
ボクが書く本は今すぐに役立たないかもしれない、だけれど長期的に見れば絶対に大事だと言えることを書き綴ってある。10年後、いや20年後、この本を手に取ってくれた方が、新たな一歩を踏み出せるようにという願いを込めて。
そんな想いで葛藤しながら書いたこの一冊の読み方を示させてください。
序章では、自由進度学習にどのような課題や違和感をもち、「自立型往還学習」に至ったのか、その経緯とともに、文科省やOECDが発信している説明から、その有効性を探っていきます。
第1章は、個別学習と共同学習の第1の往還について、内容とともに詳しく話していきます。
第2章は、ブロックアワーとプロジェクトアワーにおける第2の往還について、これもヒミツキチの事例を交えてお伝えいたします。
第3章では、往還のための共通項になる、10のツールとSELについて詳しく書いています。ここでは実際にツールを使っている子どもたちが書いた文章も載せているので、ぜひ読んでもらえたら嬉しいです。
第4章には、主に周囲の大人がどう学びに関わるかを示しました。先生や同僚、親がどのように子どもに関することを共有するのか、教室という垣根を超えて読んでいただけたら嬉しいです。
第5章では、ヒミツキチの子どもにロングインタビューした内容や、グループリーダー(担任)を務める同僚の文章も載っています。「自立型往還学習」を進める現場での声を参考にしてもらえたら嬉しいです。
第6章では、公立小学校で往還する学びを実践するヒントを書きました。実際に今の現場でどう活用するか、考えながら読んでほしい章です。
子どもが学びのつくり手側にシフトチェンジする…そんなヒントが「自立型往還学習」にはきっとあるはずです。皆さんも自分の教室を思い浮かべながら、自分自身に問い返しながら、ページを読み進めていただければと思います。
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- 明治図書