- これからの社会科発問研究の道標
- 第1章 社会科発問研究の歴史
- 社会科における発問について
- 「発問」とは?
- 発問研究の歴史
- 発問関連書籍
- 第2章 社会科発問の機能と分析
- 発問の機能化と発問パターン
- 発問の構成を考える
- 論理的な組織化
- 科学的な組織化
- 心理的な組織化
- 発問パターン
- 第3章 「深い学び」を生み出す新発問パターン 導入編
- ○○について知っていることは何か
- 興味や関心を引き出す発問
- 何が見えるか
- 資料を読み取らせる発問
- どちらが正しいと思うか
- 考えさせたい部分を焦点化する発問
- 何がかくれているか
- 考えさせたい部分を焦点化する発問
- これは何だと思うか
- 「モノ」から考えさせる発問
- どこの〜か
- 場所に焦点を当てさせる発問
- どのように変化したか
- 比較を通して問題を把握させる発問
- ○○さんは,なぜ驚いたと思うか
- 一人の驚きを周りに広めて「問い」をつくる発問
- どんな〜がふさわしいか
- ゴールを見通す発問
- だれが〜にふさわしいか
- 自己決定を促す発問
- 第4章 「深い学び」を生み出す新発問パターン 展開編
- どのように〜か
- 事実を捉えさせる発問
- なぜ〜か
- 目には見えないものを見いだす発問
- 〜であるのになぜ〜か
- 何が問題かを明確にする発問
- どこからそう考えたのか
- 理由や根拠を引き出す発問
- つまりどういうことか
- 帰納的思考を促す発問
- 例えばどういうことか
- 演繹的思考を促す発問
- 〜の立場で考えるとどうか
- 多角的に考えさせる発問
- 〜に賛成か 反対か
- 自分の立場を決めて判断させる発問
- 〜するべきか
- 自分の立場を決めて意思決定させる発問
- ○○はなくてもいいのではないか
- よさや価値を引き出す発問
- もし〜ならどうか
- 仮定的に思考させる発問
- 本当に〜と言えるのか
- 深く考え追究意欲をもたせる発問
- どんなことを思いながら〜しているか
- 人の感情に寄り添う発問
- ○○さんが言おうとしている続きが言えるか
- 共有化を促す発問
- 今当てられたら困る人はいるか
- 共有化を促す発問
- 第5章 「深い学び」を生み出す新発問パターン 終末編
- 〜を見ていくと何がわかるか
- 全体像を捉えさせる発問
- ○○さんと○○さんはどんな会話をするか
- それぞれの認識を深めさせる発問
- 自分には何ができるのか
- 選択・判断を促す発問
- 今日のキーワードは何か
- 学習をまとめさせる発問
- 〜は何か
- 本質を捉える発問
- ○○と○○を比べて「違い」と「同じ」は何か
- 比較して異同を見つけさせる発問
- これは〜だけに言えることか
- 一般化を促す発問
- ○○ではどうだろうか
- 他に考えを広げさせる発問
- 〜と同じように言えることはあるか
- 適用させる発問
- おわりに
これからの社会科発問研究の道標
東北学院大学文学部教授 /佐藤 正寿
2014年10月に本書の著者である宗實先生主宰のサークルに招かれた。午前中はサークルの実践発表,午後は私が講師役になって講義や模擬授業を行った。サークルメンバーをはじめとした参加者の熱気に圧倒されたことを覚えている。
さらに驚いたのは,その数週間後,「はじめの一歩」という記録集が送られてきたことだった。A4のバインダーに,実践発表の記録も私の講話記録,模擬授業記録もすべて記録されていた。それらは,当日のセミナー参加者全員に送付されたという。
忙しい現場教師がサークルを主宰したり,セミナーを開催したりするだけでも大変なのに,その記録を正確に残す(サークル活動の記録も残していた)というエネルギーに,「これは本物のサークルだ」と驚くほかなかった。主宰する宗實先生だけではなくサークル員一人ひとりが個性を磨きあっていた。
その後,年に1度のペースで3年間訪問し続け,ぐんぐんと社会科の実力を身に付けていくのを見させていただいた。今,宗實先生は精力的に執筆活動や講演活動でご自身の考えを発信されている。長年のサークル活動での地道な取り組みがその土台になっているのであろう。
宗實先生のすばらしさは,テーマについての「こだわり」が強いという点である。これと思ったテーマは徹底的に調べ,考える。ときには人に熱心に聞いて記録する。その追究力は優れた社会科教師に共通する点である。
本書は「発問」がそのテーマである。社会科の授業において発問が重要なことは言うまでもない。同じ教材や題材を使っても,発問の違いで子どもたちが意欲的に学習する場合もあれば,退屈な学習になる場合もある。効果的な発問を生み出すことは容易ではないが,子どもたちが考えを出し合って考えを深めた際には,発問の有効性を実感する。
多くの先達も,効果的な発問を研究し,書籍に著してきた。しかし,ほとんどの書籍は年月を経ると廃刊となり,求めようとしても入手が困難となる。いざ研究するとしても,近年発刊の本が中心となってしまう。
その点,本書は近年発刊の書籍だけではなく,数十年前までの発問研究の文献まで視野に入れている。特に第1章と第2章の最後にそれぞれ書かれている参考文献一覧は圧巻である。宗實先生が,近年の発問研究だけではなく,半世紀以上前からの発問研究からその流れを見通して書いている点が本書の大きな特色になっている。
それらの発問研究も社会科教育に限らず,広く文献を収集していることが,書名から伺える。社会科教育のみに限らず,他教科にも通じる内容になっているのである。
発問は活用意図や活用場面によっていくつかに分類化できる。第2章では,その典型例をいくつか提示している。たとえば,「絞る発問・広げる発問・深める発問」,「知るための発問・わかるための発問・関わるための発問」である。それらをどのようなときに,何という文言を使いながら行えばよいか,わかりやすく示している。
経験の少ない教師にとって,発問をどのように分類化するかは大きな壁である。いくつかの視点で分類化できる力が身に付くと,1単位時間のどの場面でどのような発問をしたらよいか自分なりの方法ができてくる。その力を身に付けたい教師にとり,第2章は学ぶところが多いであろう。
そして,第3章からの発問の授業例は,実際の授業実践に基づいているだけに,読み応えがある。一つ一つの授業例に,その授業のポイントとなる発問が示されているだけではなく,その発問の意図や生かし方も明示されている。
今の時代,インターネット上に授業での発問例はさまざま示されている。授業の教材研究としてそれらを参考にするのもよいであろう。しかし,インターネット上の発問にくわしい授業例まで書かれていることは少ない。しかも宗實先生が示している実践例は,子どもたちのノート例に表れているように,効果のあったものばかりである。その貴重な情報を本書から享受できるのである。
なお,宗實先生は「授業のユニバーサルデザイン」にも造詣が深い。今までの著書もそうであるが,「読者にとってのわかりやすさ」を意識して,文章だけでは理解しにくい内容を図式化したり,表にしたりしている。それらは視覚的な効果だけではなく,読者に思考を促す働きもしている。その点でも価値がある一冊である。
以上,本書のよさをいくつかの観点から述べてきた。宗實先生は,すでにいくつかの社会科の優れた著書を発刊しているが,本書も期待通りの好書である。これからの社会科発問研究の道標となるであろう。
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